221,確認と片付け
先生に呼ばれて廊下に向かい、疲れた顔で立っている先生を見上げる。
休み明け恒例各種確認作業なわけだけれど、やっぱり年初めのヴィレイ先生の疲労感はすごいなぁ。
ちなみにまだ掃除からは逃げているので今日にでもやらないといけない。
「お前の確認は四つだな。杖初め魔導器を弄ったか、荷物の中に見覚えのない物はあったか、新たに持ち込んでいたレイピアについて、あとはその耳飾りについて」
「杖は調整かけて貰いましたけど基本は変わってないです。荷物は……本が一冊と茶葉が一瓶」
「薬は?」
「入ってなかったです」
ここでとりあえず一息。
前に入れられていた薬は今でも棚の中に眠っている。
姉さまは本当に反省するべきだと思う。
「耳飾りは?」
「防火の魔道具です。前にヴィレイ先生に貰った魔石を加工してもらいました」
「……そうか。レイピアは特殊な物か?」
「いえ。ごくごく一般的なレイピアです。頑張りました」
「何もないなら何よりだが……では、確認は以上。あとは今年の授業予定だな」
渡された紙には第一選択攻撃魔法、第二選択レイピアと書かれている。
他にも今年の授業が一覧で書いてあり、週間予定も書きこまれていた。
今年も去年同様に研究職の科目を選んで取る事ができ、その中に前から気になって仕方なかった魔法歴史があったので選んでおいた。
しっかり選択授業の枠に入っていたので満足の笑いが漏れてしまい、ヴィレイ先生が怪訝な顔でこちらを見た。
何でもないんですよ、ただちょっと楽しみだなぁって思ってるだけですからね。
「間違いはないな?」
「はい、大丈夫です」
「研究室所属の予定は?」
「とりあえずないですね」
「そうか。では教室に戻って待機しておけ」
「はーい」
貰った紙を眺めつつ教室に戻り、席に座って本を開いた。
しばらく本を読んでいる間に全員分の確認が終わったらしく、先生が戻ってきて時間を確認し、解散の号令がかかった。
……さて、今日はこれで終わりだから午後は暇な訳だけど、他の皆は研究室の方に行くらしいから私だけ暇なんだよなぁ。
そんなことを考えつつ本をカバンに入れていたらいつの間にかヴィレイ先生が目の前に立っていた。
「びっ……くりした……」
「暇かセルリア」
「何事もなかったかのように続けるんですね。暇です。掃除ですか?」
「ああ。昼食後に準備室に来い」
「はーい」
先生も足音ないことあるよなぁ。
掃除に関しては誠に遺憾ながら今日にでも行かないとと思っていたのでどうせ暇な午後の時間を潰すのにちょうどいいという事にしておこう。
とりあえずご飯を食べに行こうと立ち上がるとリオンが寄ってきたので一緒に食堂に向かう。
リオンの予定表も見せてもらったりしながら廊下を進み、昼食を選んでいつも座っている場所に腰を下ろしてふっと息を吐く。
「あ、二人ももう来てるー」
「お疲れー」
「お疲れ。セルリアは確認で何か言われた?」
「確認事項は割とあるけど問題はなかったよ」
なんで皆私の荷物に問題になるようなものが入ってると思ってるんだろうね。
まあ、一回入ってたし仕方ないかもしれないけどさ……
それもこれも姉さまのせいです。ワタシワルクナイヨ。
「みんな午後は研究室の方に行くんだよね?」
「そうだよー。セルちゃんは?読書?」
「セルはヴィレイせんせーんとこだろ」
「そうだよ。休みの間は逃げに逃げた準備室の片付けだよ」
「なんでセルリアがやってるんだろうね……」
「本当にね!」
そうやって疑問に思ってくれるだけで嬉しいくらいには「そういうもの」になってしまっている。
むしろ魔術準備室の混沌具合を私に報告してくる先生まで居る。
主にグラル先生だ。いい加減考えを改めて欲しい。
「本当、私が卒業したらどうするつもりなんだろ……」
「放置するつもりだと思う」
「諦めて終わりなんだろうね」
片付け意識低すぎ問題。ヴィレイ先生は何であんなに散らかし魔なのか。
そもそも抱えた仕事が多すぎて片付ける余裕がない感じがするから、教員が増えて余裕が出来れば解決するのかもしれない。
「新入生、楽しみだねー」
「その感覚はちょっと分かんないな」
「俺は結構楽しみだぞ」
「研究室は実質三年生が最高学年だから引き継げるくらいの人数は来てくれないと困るんだよね」
「なるほど……?」
リオンは単純に会ったことのない種族が来るかもしれないから楽しみって感じかな。
研究室のことはよく分からないけどみんな楽しそうで何よりだ。
話しながら昼食を食べ終え、ちょっと休憩してからそれぞれ午後の予定に向かう。
杖を揺らしながら廊下を進んで魔術準備室の扉をノックする。
中から音はしているので居るには居ると思うのだけれど、扉が開くのに少し間があった。
もしかしてお昼ご飯食べてたりしたんだろうか。もうちょっと遅く来ても良かったかもしれない。
「来たか」
「えっ」
扉を開けて現れたヴィレイ先生に思わず驚きの声を上げてしまった。
先生は何も気にせずに中に入ってしまったのでとりあえず背中を追いかけ、混沌とした部屋の惨状に何か言うことも無く先生をじっと眺める。
「髪を上げてるの、ものすごく珍しいですね」
「邪魔になる作業をしていたからな。終わったからもう解く」
「えー……なんか勿体ない」
「何がだ」
初めて見るヴィレイ先生のポニーテールは物の数分で解かれてしまった。
滅多に見れないだろうしなんだかちょっと得した気分だ。
というか、その髪が邪魔になる作業をしていたから扉開けるまでにちょっと時間がかかったのか。
どんな作業なのかは聞いても教えて貰えなさそうなので聞かないでおいて、改めて部屋の中を見渡してため息を吐く。
一ヵ月でよくぞここまで。ちょっと見慣れてしまっている自分にもため息が出た。
「はぁ……やりますか」
「頼んだ」
「いや先生もやるんですよ。丸投げしないでください」
いつも通り棚の前に積みあがったものを退かすための場所作りから始めることにして、まずは早速本を開きかけているヴィレイ先生の手から本を奪うことにした。




