220,三年目の開始の日
ベッドの上でぐっと身体を伸ばす。
今日は授業が始まる日であり、今年の授業の確認やら休みの間の変更点確認やらをやる日になっている。明日は入学式があるので何か暇つぶしの方法を考えないといけないなぁ。
そんなことをのんびり考えながら顔を洗って着替えて髪を纏め、杖を持って部屋を出た。
何となく毛先を弄りながら食堂に行き、朝食を選んで席に座る。
パンを千切って頬張っていたら向かい側にロイが来た。
「おはよう、セルリア」
「おはようロイ。……それなに?」
「端っこにちょっとだけ置いてあったよ」
「気付かなかった……」
ロイの持っているお盆に何か見たことのないおかずが乗っていた。
全然気付かなかったけれど、置いてあったのか……端っこにちょっとだけってことは試作なのか材料が少なかったのか。
どちらにしても割と気になる。
まあ、最後の方まで見ないで適当に持ってきた私が悪いけどさ。
適当に選んでいたら八割進んだくらいでちょうどいい量になっちゃったからね、美味しいからいいか。
「……そういえば、ロイは入学式の長い挨拶聞きながら何してるの?あの時間すること何もなくない?」
「うーん……最初の方はちゃんと聞こうと思ってるんだけど……最後は大体歴史書の内容とか脳内でまとめ始めてるかなぁ……」
「なるほど」
「セルリアはどうしてるの?」
「ノア先生と目で会話したり寝てるリオン見てたりする」
「リオン……」
気持ちは分かる。眠いけど寝るのは駄目だよって言いたいんだよね。
どうせ言っても毎回寝てるから、私は見つけて怒ってるヴィレイ先生を探して遊んでいる。
ノア先生は私が見つけるころにはこっちに気付いていて、笑いながらちょっとした暇つぶしの対象を教えてくれるのでどうにも暇になってきたら探す感じ。
まあ、ロイも実はそんなに聞いてないらしいし、やっぱりあれをしっかり聞く必要はないのだろう。
私も何かのんびり考えるべきものを用意して暇を潰そうかな。
なんて考えて一人頷いていたらシャムがやってきて私の横に腰を下ろした。
「おはようシャム」
「おはよ……」
今日はお茶だけでパンは持ってこなかったみたいだ。
落とさないか心配なのでお盆に手を添えてちゃんと座ったのを確認し、手を放して若干跳ねている前髪を撫でる。
「眠そうだね」
「んー……夜更かししちゃった……」
「あらまあ。何してたの?」
「本読んでたの……ふぁ……」
一応話は出来るので起きてはいるのかもしれないけれど、やっぱりなんだかふにゃふにゃしている。
のんびりお茶を飲んでいるシャムを横目に朝食を食べきり、今日はリオンは起きてこないね、なんて話をする。
時間を見て食器を片付け、二人と別れて教室に向かう。
歩いている途中でソミュールを背負ったミーファを見つけたので浮かせて手伝い、のんびりと今年の授業の話なんかをしながら教室に入った。
まだこれから人が来るんだろうけど、やっぱりちょっと人数が減っただろうか。
そんなことを考えながら寝ているソミュールの頭を枕の上で安定させて、とりあえず席に座る。
本でも読んで先生が来るまで待っていようかと思ったけれど、ミーファが寄ってきたのでそちらを向く。
「セルちゃんセルちゃん」
「どうしたの?」
「あのね、この本で分からないところがあって……」
ミーファが見せてきた本は、図書館で借りた物のようだ。
魔法の相性についての本だったはずなので、ミーファは知識として知っておこうと借りてきたのだろう。
「どこが分からなかった?」
「ここ。無属性だけ、他と表記が違うの」
「あー、無属性は無だけあって扱いが違って面倒なんだよね」
本を開いて指をさしている場所を軽く読んで、なんとなくミーファを膝の上に乗せて説明を始める。
どこからが分かりやすいかなぁ。
まあ、分からなければ聞かれるだろうしどこからでもいいかな。
「そもそも無属性魔法っていうのはよく分かっていない部分もあるんだ」
「分からない部分?」
「うん。昔はよく分からない魔法を無属性魔法に分類してたりしたから、その名残で別の属性が混ざり込んだりするんだよね」
「へぇ……属性が増えることもあるんだ」
「発見順だと音が結構遅かったりするからね」
膝の上に乗せられていることは気にしないことにしたのか、ミーファは質問を優先してきた。
発見が遅かったと言っても、まあ数千年前には現状の十五属性は全て見つかっているので誤差程度の違いなんだけどね。
「反発しづらい、って書いてあるのは?」
「属性ごとに同化するか反発するかがあるのは分かる?」
「去年授業でやったところだね」
ちゃんと覚えていてとても偉い。リオンはテスト前に詰め込んだ分も既に忘れているだろうに。
ミーファは魔法に興味があるからちゃんと覚えてるって言うのもあるんだろう。
見るの好きだもんねぇ。また今度一緒に空中散歩しようねぇ。
「無属性はどの属性とも反発しないんだよ」
「そうなの?」
「うん。だから相性の表記が他と同じ書き方出来ないんだよね」
無属性の相性が書かれた部分を指でなぞりながら他に何か面白い相性があっただろうかと記憶を辿っていると鐘が鳴りヴィレイ先生が教室に入ってきた。
ぴょんっと膝から降りたミーファに本を返して前を向く。
教室を見渡していたヴィレイ先生がため息を吐いて扉を見るので何かと思ったら、勢いよく扉が開いて息を切らせたリオンが現れた。
先生に睨まれてそっと目を逸らしているので思わず笑ってしまう。
「まあいい。座れ」
「うっす」
確認だけだからなのか許されたリオンがいそいそと席に座り、ヴィレイ先生は教室内を改めて見渡している。
確認を終えたのか手元の本に何かを書き込み、本を閉じて顔を上げた。
「では始める。聞いていない者は知らん。メモを取りたい者は勝手に取れ」
いつも通り吐き捨てるように言った先生にちょっと笑いながらメモ帳とペンを取り出す。
実は昨日インクを変えたからちょっと色が違うんだよね。
なんて考えながらメモを取り、何の問題もなく個別の確認に移行した。
今回はちゃんと荷物も開け終わっているし心配事は特にないかな。




