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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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22,ええ、自己責任ですとも

 一限目が終わり、荷物の中からパンを取り出してリオンに投げて、ソミュールを引っ張っているミーファを手伝いに行く。

 パンを齧りながらリオンも寄ってきているので、手伝わせようかと思ったがソミュールも一応女の子なので触れさせない方がいいだろう。


 本人も女の子扱いすると笑いながら眠りにつくけど、それでもまあ。

 姉さまはよく、女の子は女の子の扱いをせねばと騒いでいるからね。

 本人が嫌がったらそこからはしないけど、それまでは全力で可愛がる。そういう人。


 次は座学なので、ソミュールは枕を抱えて寝るだろうし騎乗の後の座学は寝ている生徒が多い。

 眠くなる気持ちも分かるが、それでももう少し起きている努力をするべきだとも思う。

 まあ、私には関係ないので全て見えないものとしているわけなのだが。


「眠いのは分かるけど寝てたら減点するからね。さ、始めようか。教科書の三十二ページを開いて」


 笑いながらそう言って教室内を見渡した先生は、淡々と授業を進めていく。

 戦闘職と言っても、基本知識は必要なので意外と座学もあるのだ。寝ている人も多いけど、私は結構好きである。


 そもそも家で色々と教わる時は口頭での説明がほとんどだったので、こちらの方が慣れている。

 説明が変に難しくない分、家で教わるよりずっと分かりやすいのも楽しい理由かもしれない。

 ……家で教わることが、楽しくないわけではないのだが。


 家の中で「人間」は私と姉さまだけで、皆何かしらを極めているか種族的に最初からすべてを知っているかの状態で過ごしていた。

 なので、私がどこで分からなくなっているのかの説明が出来なかったりそもそも自分が行っていることを客観的に説明できなかったりするのだ。


 姉さまもほとんど本能みたいな感覚で薬を作るので、説明が下手。

 なんでそうなるのか分かっていないことも多い。

 それでも完璧に薬を作れてしまうのだから不思議なものだ。


 姉さまのそれは特殊な才能なので、真似しようとは思わないしやったとしても出来はしない。

 そんな状態で多くを学んだので、こうして全てに丁寧な説明がつく授業は楽しくて仕方ないのだ。

 気になったら調べればいいし、調べて分からなければ先生がもっと細かく説明をしてくれたりする。


 私はよく話を聞きに行くので、先生たちからも顔を覚えられている。

 ついでに、かなりの頻度でなんで戦闘職に入ったの?と聞かれる。

 それはもう仕方ないと思うけど、いちいち説明するのも面倒になってきた。


 なんて家のことを思い出している間にも授業は進んでいく。

 眠くなる理由は、朗々と響く先生の声もあるのだろうな、なんて思う。

 なにせ心地よい音で淡々と進むのだ。眠くもなるだろう。


 まあ、寝ないのだけども。

 だって楽しいし。気になった単語をメモしておいて、後から調べるのが日課になりつつある。

 教科書は買ったものなので、線を引いたり書き込んだりしながら進めていく。


 ちらっと横目で見たリオンが寝ていたが、自己責任なので無視を貫いた。

 後から泣くにしても自己責任だ。


 目線を先生の方に戻して、話を聞きつつメモを取って教科書を捲る。

 徐々に徐々に周りが眠りについて行き、授業が終わるころには半分くらいが眠りに落ちていた。

 先生が笑いながら手帳に何か書き込んでいたが、あれは減点表なのだと私は知っている。


 ぐっと身体を伸ばして次の授業の準備をして、次も座学なので起きもしないリオンに向けて氷の欠片を放つ。

 首筋に乗っけてやると大きな音を立てつつ飛び起きたのを確認してくつり、と喉を鳴らすように笑う。


 普段はあまりやらないけど、いたずらが成功した時なんかはうっかりこうして笑ってしまうのだ。

 家の中で一番口調と行動が荒かった兄の笑い方で、話し方も真似していた時期があったが止められたのでそれはやめた。


 笑い方だけは癖が抜けなかったが、まあ普段からするわけではないからと多めに見られているのだ。

 リオンは私が笑っていることに気付いたようで、首を摩りながら睨んできたが寝ているほうが悪い。

 文句を言われる前に先生が入ってきて、次の授業が始まった。


「おいセルリア!お前氷はやめろよ」

「寝てる方が悪い」

「眠くなるだろあんなん」


 言い訳してくるリオンと共に昼食に向かっていると、後ろから人がのしかかってきた。

 首だけで振り返るとふわふわとした薄い色の金髪が頬を撫でた。

 肩に額を押し付けるように体重をかけて来ているので、前髪を止めている髪留めがよく見える。


「ソミュール、重い」

「ひどーい……ねむーい……」

「ご飯食べるの?」

「んー?あ、お昼かぁ」


 ふわふわと返事をして、ソミュールが顔を上げた。

 私の肩は顎置きじゃない、と言ってもどうにもならないので、取り合えず食堂に向かう。

 ソミュールがどうするのかは置いておいて、私はお腹が空いているので。


「ソミュールって食事の必要性あんのか?」

「んー……食べればまあ、使えなくはないけど。別に必須ではないかなぁ」

「ほーん。なんか便利そうだな」


 亜人たちののんびりとした会話を聞きながら食堂に入ると、ソミュールは離れてどこかへ向かって行った。

 お気に入りの場所があるのか、今一緒に居なかっただけで後からミーファが来るのか。場所取りのために起きてきたのなら、彼女がここに居るのも納得だ。


「あ、セルちゃん!やっほー朝ぶり!」

「やっほー。授業間に合った?」

「おかげさまで。リオンは大丈夫だった?」

「一限駆け込み。遅刻はしてないぞー」


 先に座っていた二人の所に合流し、各自持ってきた食事に手をつける。

 朝は覚醒していなかったシャムも授業までには目を覚ましたらしい。

 遅刻ギリギリだったくせに授業中も寝ていたリオンとは大違いだ。


 言っても仕方ないので何も言わないけども。自己責任自己責任。

 それぞれの授業の内容は夕食の時にするのがいつもの流れだ。お昼はとにかく食べて休んで準備してで終わってしまう。


「そういや、今度の休みってなんか用事あるか?」

「町にレターセット買いに行こうかと思ってたけど」

「リオンが人の予定気にするなんて珍しいね?何かあるの?」

「あー……武器買いてぇんだけど、一人で見に行っても分かんねえなーって」

「なるほどー。セルちゃんの買い物時間かかる?」

「そんなにかかんないよ。皆で行く?」


 休みの予定を立てつつ食事を終えて、午後の準備のために移動する。

 私はこのまま行けるが、リオンは忘れ物を取りに部屋に戻るらしいので廊下で別れて歩き出す。

 図書館に行ってしまうと戻ってこれなくなるので、早めに移動して適当に時間を潰すことにした。


 ……何をしようか。適当に、氷でも作って浮かせていてみようか。

 熱に強い氷なんて妙なものを作ってみてもいいかもしれない。

 何せ魔法である。やる気を出せば出来るような気がする。思い立ったが吉日なので、さっそくやってみることにした。

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