215,高い買い物
吹いて来た風に乗って上空をふわふわと漂う。
どこまで行こうかなーっとぼんやり考えつつ流されていたらモエギお兄ちゃんが飛んできた。
戻って来いってことかな?
「チュン」
「戻ったほうがいい?」
「チュン」
どうやら違うみたいだ。
空中で寝転ぶように飛んでいたから、とりあえず顔を向けてお兄ちゃんに声をかける。
戻ってこいの伝言ではないとしたらどうしたんだろう。
考えていたら仰向けに寝転んだ私の胸のあたりにお兄ちゃんが止まった。
そしてそのまま羽を繕い始める。
……もしかして、暇になったから一緒にぼんやりふわふわしに来たのかな。
「……あ、風向き変わった」
流される向きが変わったので態勢をちょっと変えて、そのままぼんやり流される。
中々いい風向きだなぁ。ちょっと上向きに調整してもうちょっと上の方を飛んでようかな。
お兄ちゃんどう思う?いいと思う?分かんないけど肯定と取るね。
「チュン」
「ん、どうしたの?」
モエギお兄ちゃんが何かを見つけたようで、私の上をとことこ歩いて何かを見ている。
落とさないように手を添えつつ同じ方向に顔を向けると、遠くを飛んでいる馬車が見えた。
……飛んでいる馬車なんて、一つしかないよねぇ。
そういえば姉さまが今日誰か来る気がするって言ってたなぁ。
そっかぁ、アジサシさんだったのかぁ。
というかモエギお兄ちゃん、もしかして誰か来ないかの確認に来てたのかな。
ま、とにかく一回降りて報告しようか。
スイッと向きを変えて下に降りると、お兄ちゃんは落ちない様になのか肩に移動してきた。
今日は自分で飛ばない気分なのかもしれない。
「姉さまー」
「チュン」
「お?どしたの?」
「アジサシさんが来るよ」
「そっか、ありがとう。アジサシさんだったんだね」
私が今日空を漂っているのは姉さまも知っているので話がスムーズだ。
作業部屋の窓から声をかけ、流石にもう飛ぶのはやめて着地する。
お兄ちゃんはいつの間にか後ろで人型に戻っていた。
「アジサシさんが来るならお茶でも淹れようかしら」
「ウラハねえ。お手伝いしようか?」
「ええ、お願い」
「じゃあ僕も」
にこっと笑ったお兄ちゃんにさっき一緒にふわふわした理由を聞こうかと思ったけれど、まあいいかと思い直して家の中に入る。
手を洗ってきてお茶の用意を手伝う。
以前に比べるとお茶を淹れるのも上手になったけれど、まだまだ二人には及ばない。
なーんでなんだろ。分からないのでカップとポットを温める係になっておこう。
炎は苦手だけど温風は出せるから、お湯が沸くのを待っている間にすべてまとめて風の中に浮かせて温める。
「あ、降りてきた」
「ポットとカップ温まったよ」
「ありがとう。先に行ってていいわよ」
「はーい」
全てを綺麗に並べてから外に向かい、既に姉さまと話していたアジサシの団長チグサさんの元へ向かう。
アジサシの馬車は開店状態で止めてあり、馬の方はサクラお姉ちゃんとのんびり歩いていた。
「やあ、久しぶりだねセルリアちゃん」
「お久しぶりですチグサさん」
姉さまとの話がひと段落したのか声をかけられたので返事をして店を覗かせてもらう。
昔から来るたびに覗かせてもらっていたから、何も言ってないのに新しい本があるよーと並べて貰えちゃうんだよね。
皆私には本を与えればいいと思ってるんだろうな。大正解だよ。
そんなわけでその本見せてください……何の本ですかこれ。
あ、すごい。魔法の演唱発見記録なんて初めて見た。
「いくらですか?」
「千五百ヤル」
「うーん……どうしようかなぁ……」
「お、悩むってことはセルリアちゃん結構稼いでる?」
「まあ、普段そんなにお金使うところないのでため込んではいますね」
結構リオンやミーファと一緒に冒険者活動してるからね、レターセットを買ったりはしてるけど高額でもないので貯金しがちだ。
貯めて悪いもんでもないからね。そんなわけで買うことは出来るんだけど……額がな、額が……
でも欲しいなぁ……見たことないしなぁ……
買って後悔はしないだろう。買わないで後悔はする気がする。
……よし、買うか。
「ちょっと財布持ってきますね」
「お、買うかい」
「買わないで後悔するのは悲しいですからね。買ったら何回か読みますし」
「いい買い物の仕方だ」
ははは、と笑ったのは話を聞いていた店番の団員さん。
とりあえず部屋まで財布取りに行くんだけど……窓から行っちゃお。
今日はもう散々飛んでたからいつもより調子が良いしスイーっと移動して窓から入って財布を取って窓から出る。
「よし、買うぞー!」
「分かるー。初めて高いもの買う時って緊張するよねー」
話しながら本の代金を渡して魔法演唱発見記録を受け取る。
頭上に掲げてぴょんぴょんしていたらトマリ兄さんに頭を軽く叩かれた。
いいじゃんちょっとくらい喜びを動きで表現しても、と思ったのだけれど、別に私の喜びの舞に対する反応ではなかったみたいだ。
「ちょうどいい。レイピア見繕おうぜ」
「おっ」
「レイピアね、ちょっと待ってー」
奥から引っ張り出されてきたレイピアを見させてもらう前に、私は本を置いてくることにした。
トマリ兄さんが居るからある程度は絞っておいてくれるだろうし。
また窓から部屋に入って本と財布を置き、地面に降りるとトマリ兄さんが何本かのレイピアを持っていた。
とりあえず何となくでいいから手に馴染むものを選べと言われたので一つずつ振るってみてなんとなーくで一本を選ぶ。
こんな選び方でいいのかなぁ?
まあ、トマリ兄さんが何となくでいいって言うんだから良いのか。




