214,成功のコツ
杖を構えてゆっくりと水の魔力を広げていく。
端から染め上げていき、均等に伸びたのを確認して固定するためにちょっとだけ杖を揺らした。
水を凍らせる感覚。端ではなく、中央から固めていく。
「……んー」
「いいんじゃねえか?」
「まあ、やり始めたばっかりなら上出来だね」
全く出来なかった固定化が若干でも出来るようになっているので進歩かなぁ。
というかモクランさんいつの間に来たんですか。全然気付かなかった。
クリソベリルの拠点に到着してすぐは久しぶりに会う人と話していたのだが、それもひと段落したので庭に出て未だに成功しない魔法を見てもらうことになったのだ。
始めた時はモクランさん居なかったと思うんだけどなぁ……
気付いたら居るんだよね。足音とか気配とか消しがちなのは何でなんだろう。野生?
「君、なんか失礼なこと考えてない?」
「やはり野生……」
「モクランは野生から一番遠いだろ」
「ツルの方が野生動物だよ」
お互いの認識それでいいんですか。
というか、ツルバミさんも魔法関連の本を片っ端から読んでたりするから別に野生ではないんだよなぁ。
「ま、後はやってりゃ出来るようになんだろ」
「やっぱり反復練習が一番ですか」
「変な癖も付いてないから今のまま続けなよ」
「はーい」
練習状態としてはかなりいい方らしいので、このまま地道に練習していこう。
魔法って見た目は派手なものが多いけど、練習段階は大体全部地味なんだよね。
むしろ成功してないのに派手なことになってる場合は暴走とかの大失敗を起こしている時だから地味でいいのだ。
昔から木箱を浮かせることに注力し続けて自分が浮けるようになっている私が言うのだから間違いない。
そもそも風魔法は大体地味だし。見えないからね、風の槍は当てた先が壊れるから派手の部類だけど。
「レイピアの方はどうなったの?」
「最初っから魔導基盤の入ったのを買い与えられそうで逃げてます」
「甘えちまえばいいじゃねえか」
「本人が嫌がってるんだから無理強いするべきじゃないよ。俺からも言っとく」
「お願いします。本当にお願いします」
「全く……高価なものを人に与えることに躊躇いが無さすぎるんだよ……」
「お前も渡されてたもんな」
姉さまの貢ぎ癖は昔からだったのか。
普段お金を使わない分何か欲しいものがあったりすると躊躇いなく買うって話はコガネ姉さんから聞いていたけど、買う目的が他人だったりするのがいけないところ。
周りに悪人が居たら間違いなく利用される性格だ。
そういう所が周りの過保護さに拍車をかけてるんじゃないかな。
もっと自分のためにお金使えばいいのに……
「そういえば、クリソベリルって毎年特別講師に来てるんですよね?」
「おう。誰が行くかは決まってねぇけどな」
「認識阻害されてるから来る時期を知ってても認識できないだろうけどね」
「やっぱりそうなんですね。じゃあ来年は分からないのか」
終わった後なら教えて貰えそうだけど、まあ会いたければここまで遊びに来るのが早い。
イザールがどうなるかなぁって気になるだけだし、そのあたりは終わった頃にでも本人に聞いてみればいいだろう。
話したくなかったら教えてくれないだろうけどそれでもいいし。
「よっし、もっかいやろ」
「おう。やれやれー」
「俺はアヤメの所行ってくる。そろそろお茶でお腹いっぱいでしょ」
サクラお姉ちゃんは建物に入ってすぐに察知して突撃してきたアヤメさんとお茶を飲んでいるのだが、言われてみれば確かに結構時間が経った気がする。
いつもの癖でポケットから懐中時計を取り出そうとして何もつかめずにスカッたわけだけど、もうすでに複数回魔法の練習をしているから時間は経っているはずだ。
「今日は時計持ってねえのか」
「姉さまが時計屋さんまで行ってるので、一緒に調整をお願いしたんです」
「なるほどな」
話しながら杖を回して魔力を練る。
練り終わったら演唱を開始し、水の魔力を込めて薄く伸ばし、さらに端からゆっくりと演唱で染め上げられた魔力を浸透させていく。
ここまでは毎回完璧なんだよね。
それを薄く伸ばして自分の上に被せ、クルリと杖を一回転。
この行動に意味はないんだけど、固定化前に意識を切り替えた方がいいかもしれないと言われたのでやってみている。
一気に固定化しようとはせず、中心から徐々に固めていく感じ。
皴を伸ばして厚さを保ったまま端まで固定出来れば完璧なんだけど……
「……あっ」
「残念。ま、さっきよりは広がったか」
固めている途中で何が原因なのか急に崩れちゃうんだよなぁ。
でもまあ確かにさっきより広い範囲を固定化出来ているのは事実だし、やはり継続は力なのだ、ってことで。
全く出来なかった固定化もちょっとだけコツを掴んだ感じがするしね。
やっぱり頼るべきはありとあらゆる魔法の演唱を覚えている魔法使いのお兄さんだ。
なんで使えない魔法の演唱まで全部覚えてるのかは本当に謎だけども。
「のんびりやれ。お前は筋がいいからやってりゃ出来る」
「一年後にはあちこち行ってると思うので、安定して他人にもかけれるようにしたいんですよねぇ」
「半年ありゃぁ出来んだろ」
「やったあ。がんばろ」
お墨付きを頂けたのでこのまま頑張ろう。
ツルバミさんが出来るって言ったら大体出来るし、無理だなって言われたら諦める。
ここまで魔法を極めてると何となくその魔法を扱えるかどうか分かるらしい。
私もいつかそんなことが出来るようになるのだろうか。
まあ、人に教える立場にならないと必要ないものなんだろうけど。
クリソベリルは後進育成好きだから大体みんな人に教える時に使える謎技術を持っている。
「ツルバミさんも顔に寄らず面倒見いいしなぁ」
「お前今日とことん喧嘩売ってくんのなんなんだよ」
「妹分の不器用な甘え方です。可愛がってください」
「昔はもっと素直に可愛かったのになぁ」
適当に言ったのに頭を撫でられるあたり、可愛がってくれる気はあるらしい。
なんてやっていると建物の方からサクラお姉ちゃんとモクランさんが歩いて来た。
アヤメさんも一緒に来るのかと思っていたけれど姿が見えない。
何か用事でもあったのかな。それとも後から来るのか。
考えつつ、とりあえずは突撃してくるサクラお姉ちゃんを受け止めることにするのだった。




