213,顔が怖いお兄さん
調整が終わって返ってきた杖をクルクル回す。
うーん、ちょっと重さの比率変わった?
そんなに大きく変わってはないけど回し心地がちょっと違う気がする。
「セルちゃーんご飯だよー」
「はーい」
薬屋エキナセアの庭でグルグルと杖を回していたわけだけれど、昼食が出来たようで姉さまに呼ばれた。
ガルダ滞在期間ももうすぐ終わりになるのでやれることは全部やりたい。そんなわけで、午後からはクリソベリルの所に行くことになっている。
「そういえば特別講師をしに行った時に誘われたのよね?」
「そうですね。知ってたんですか」
「ええ。今回は誘いたい子が多かったって話を聞いたのよ」
ヒエンさんとクリソベリルの先代リーダーは仲がいいので、他のメンバーたちも買い物以外にも雑談に訪れることがあるらしい。
姉さまは雨期で店が暇な時に遊びに来たモクランさんと話したりしていたんだとか。
本当に仲がいい。これで関係性を明言していないのは一体なんでなんだろうか。
何かありそうで聞けなくなってしまっているけれど、シオンにいあたり聞いたら答えてくれるかな。
コガネ姉さんはモクランさんと姉さまが一緒に出掛けるとあからさまにテンション下がるからちょっと聞きにくいんだよね。
仲が悪いわけなじゃないんだけど……コガネ姉さんは姉さま大好きだからね、一緒に行けないのが嫌なだけなんだろうけど話振るの躊躇っちゃうよね。
なんならアヤメさんとかに聞いた方が答えてくれたりするかもしれない。
「アオイちゃんは午後はどうするの?」
「時計屋さんまで行ってこようかと。ヒエンさんはちゃんとお店開けててくださいね」
「前向きに検討するわ」
「やんないやつだこれ」
姉さま時計屋さんまで行くなら私のも調整してもらおうかなぁ……
大丈夫だとは思っているんだけど、毎日持って歩いているし戦闘中もポケットに入っているからちょっと心配なんだよね。
「コガネは一緒に来るでしょ?」
「うん。サクラはどうする?」
「セルちゃんについてく!」
「おっけー、じゃあそういう感じで」
よろしくぅ!と元気よく言って、姉さまは食器を片付け始めた。
私も食べ終わったので食器の片付けを手伝い、一人のんびりご飯を食べているヒエンさんにお茶を出しておく。
「ヒエンさん本当にちゃんとお店開けてくださいよ」
「はいはい。食べ終わったらちゃんとやるわよー」
「ハヤクタベテ!」
姉さまがたまにカタコトになるの何なんだろうなぁ。
あとお師匠さんにだけやたら当たり強いんだよね。仲良しだからなんだろうけど。
ヒエンさんも完全に慣れてるしなぁ……全く聞いて無さそう。
「気を付けて行ってらっしゃいねー」
「はーい。姉さま、私の時計もお願いしていい?」
「いいよー。じゃあ行ってきます」
「行ってきます」
エキナセアを出て大通りに向かいつつ、姉さまに懐中時計を渡しておく。
向かう先が違うので大通りに出てすぐに別方向に歩き始め、ウキウキで先を行くサクラお姉ちゃんを追いかけることになった。
トマリ兄さんはどこに行くとか言及されていなかったけど、まあ自由行動が常だし別にいいんだろう。
多分姉さまの方に居るし、そうじゃないならエキナセアに留まっているかもしれない。
「セルちゃんセルちゃん、帰りに焼き菓子買っていこう!お小遣い貰ったの!」
「焼き菓子のお店があるの?」
「うん!主がここに住んでた頃からある美味しい焼き菓子のお店、まだやってるみたい!」
姉さまがここに住んでた時からってことは結構長くやってるお店なんだろう。
モエギお兄ちゃんが作る砂糖のかかった焼き菓子はそのお店のものを参考にしているらしくて、それを聞いたら余計に気になってしまう。
話しながらクリソベリルの拠点に向かっていると、後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、ニコニコしたジェードさんが立っていた。その後ろにはツルバミさんも居る。
……丁度、逆光だからさ、なんというかさ。
「ツルバミさん、あまりにも顔が邪悪」
「何だセルおめぇ開口一番」
「分かる。悪人にしか見えないよね」
「おいジェード。お前はせめて味方しろよ」
「仲良しだね!」
「何を見てそう思ったんだ?サクラお前視力落ちたか?」
誰にも味方をしてもらえなかったツルバミさんに軽く頭を叩かれつつ、向かう先は同じだからと並んで歩き出す。
二人は買い物の帰りだったらしく、手には何やら重そうな荷物を大量に持っている。
明らかに重そうなのに二人とも全然気にしていないというか、ジェードさんはともかくツルバミさんは魔法使いなのになんでそんな筋力があるんだろうか。
やっぱり杖で殴るスタイルを極めていたりするんだろうか。
「そういえば、最近水傘の練習してるんですけど、あんまりうまく行かないんですよ。なんかコツとかあるんですかね?」
「あー。あれ最初うまく行かねえんだよな。どこまで出来る?」
「広げるところまでは出来るんです。ただ、うまく固定が出来ないんですよ」
「固定化は凍らせれる感覚で出来んぞ」
「凍らせる感覚で……」
「ま、着いたらやってみっか」
ポスポスと頭を撫でられて、杖をくるっと一回転させる。
トマリ兄さんとツルバミさんは似ているけど、撫で方はツルバミさんの方が優しい。
子供の扱い慣れてるよなぁ……昔からよく遊んでもらった。
「学校はどう?」
「楽しいです。無限に風の槍の威力上げてます」
「ダンジョン壊せるようになったか?」
「まだダンジョン潜ったことないので分かんないですね」
「あれ、そうなんだ。冒険者登録はしたって言ってたし、もう行ってるんだと思ってた」
ダンジョン、つまり魔窟はそんなに気軽に行ける場所でもない。
ちゃんと準備をしていかないといけないし、知識がないと二度と出てこられないなんてことにもなりかねない。
なのでこれまでそういうクエストを受けたりダンジョン探索に出かけたりはしてこなかったんだよね。ロイがダンジョン補佐の授業取ってるからそのうち探索には行くだろうけど。
「破壊成功したら教えてね」
「ウキウキで自慢しに来ますよ」
話しながら歩いているうちにクリソベリルの拠点に到着した。
中に入っていく二人について行き、奥から飛び出してきたアヤメさんに抱き着かれて身動きがとれなくなるのだった。




