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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
212/477

212,休み半ばのフォーン

 乗り合いの馬車から降りて、ふーっと長めに息を吐く。

 午前中は太陽が雲に隠れていたが、いつの間にかすべて流れていたようで太陽は隠れることなく輝いていた。


 身体を伸ばしてから荷物を持ち上げ、のんびりと大通りを進んでいく。

 来るのはもう少し遅くなるかと思ったが、ピッタリ半月ほどで戻って来られたので何かと余裕がありそうだ。


 そんなことを考えながら大通りを外れ、宿の多い区画に足を向ける。

 泊まる宿は既に決まっているので迷うことなく進んで行き、目的の宿で部屋を借りて荷物を置きに行く。


 とはいっても、荷物が多いわけでもなければ貴重品は持ったままなのでさほど身軽にもならないのが残念な所だ。

 置いて行く荷物も目に付かない場所に置き、部屋に鍵をかけて宿の外に出る。


 何もなくても宿で会えるだろうけれど、どうせなら早めに顔を合わせたい。

 そんな風に思ってのんびりと大通りに向かっていると、運のいい事に道の向こう側から探していた人が歩いて来た。


「な、ロイ!戻ってきたのかよ!」

「うん。思ったより早く戻って来れたからね。久しぶり、リオン」


 驚いたように駆け寄ってくるリオンに笑いかけ、ロイはのんびりと手を振った。

 その手をペチンと叩いてとりあえず握って振り回しておく。

 わぁーと緩い悲鳴を上げるロイを満足するまで振り回してから、改めて向かい合う。


「戻ってきたんなら早く言えよー!」

「いや、今宿に荷物置いて来たところだからね。探しに行こうと思ってたところだったから」

「そうか。飯でも食い行くか」

「そうだね」


 内容としては繋がっていなくてもかれこれ二年ほど一緒に居るので特別気になったりはしない。

 それにリオンを探しがてら何か食べようと思っていたのでちょうど良かった。

 何を食べるか話しつつ大通りに向かい、適当な食事処に入って注文を済ませ、到着を待ちつつこの半月の話になった。


「リオンはいつも通り?」

「おう。討伐行ったりソミュールんとこ行ったり。セルも来てたぞ」

「そうなんだ。じゃあしばらく来ないのかな」

「第三大陸まで行くつってたから次は来ねえだろうなぁ」


 そっちはどうだ、と話を振られてロイは少し首を傾げる。

 村に戻っていた半月の間に何か話の種になるような面白いことはあっただろうか、と考えてみたが特に思いつかなかったのでそれをそのまま声に出した。


「何もねえの?」

「うん。本当に特別話せることは何もないね……」

「そうか。とりあえず、冒険者登録するんだよな?」

「そうだね。登録は明日にでもって思ってたんだけど……リオン一緒に来てくれる?」

「いいぞ」


 話している間に料理が到着し、冷める前に食べてしまおう、ということで話は一旦中断して目の前の皿に意識を向けた。

 シャムが色んな人からおすすめのお店を聞いていたり、セルリアが後輩から新しい店の情報を聞いてきたりで以前よりも色々な店に行くようになってはいるが、結局いつも行く店に落ち着いてしまう。


 特に男二人だと考えるのも面倒になってしまって量と値段で決めたりもする。

 リオンはもとよりロイも育ち盛りでそれなりの量を食べるので、無料で食事が提供される食堂ならともかく町の食事処でお腹いっぱい食べるのは少しお金がかかりすぎる。


「リオン普段どうしてるの?」

「クエストで外出たついでに動物とって食ってたり……」

「ワイルドだなぁ」

「あんまやりすぎると怒られるけどな」


 リオンが普段から持ち歩いている荷物の中に塩が入っているらしい。

 そんなことをしていたなんて知らなかったが確かに買い食いしてる時も味が薄いと言って何かかけていたような気もする。


「塩……まあ、うん。塩は大事だよねぇ……」

「なんだよ、セルと同じような反応しやがって」

「セルリアもこんな反応だったんだね」


 話しながら食事を終えて大通りに向かい、適当に市場を見て回る。

 店を構えている職人の工房なんかとは違い、露店として数日だけ物を並べている市場には掘り出し物があったりもするので、予定がなければこの市場をぶらぶらと歩いていることも多い。


 リオンがいつも使っているカバンも市場で見つけて買った物なので探すものがなくても歩いていれば何か面白いものが見つかるかもしれない。

 近いうちにロイの剣も買いたいのだが、それは職人街の方に行った方が確実だろう。


「お、なんだあれ」

「珍しい魔道具だね」

「分かんのか?」

「ある程度は。あれは確か浄水装置だね」

「どうやって使うんだ?」

「汲んだ水の中に起動した魔道具を入れるだけだよ」

「便利だな」

「そうだね。あんまり見ないし買ってもいいかもな……」


 しばらく市場を歩いていると、古い魔道具なんかを売っている露店を見つけた。

 その中にあまり見かけない便利な道具を見つけ、値段と自分の所持金を比べてどうしようかと真剣に悩む。


 買って損はない道具だけれど、便利なだけあって少々値が張る。

 この後半月間の食費等も考えるとあまり気軽に手は出せない。

 けれどここで買わなかったら次はいつ見つかるか分からないのだ。


「……どうしようかな」

「どうすっかなぁ……爺さん、後どんくらいここで店開いてる?」

「明日には撤退じゃなぁ」

「じゃあ今日までか」

「それが気になるんかい?」

「はい。次はどこで店を開くか決まってますか?」

「いや?またそのうちここに出すじゃろうが……そんなに欲しいんなら、ちと安くしてやろう」

「お、マジか」


 代わりに、と露店を開いていたお爺さんは何かを差し出してきた。

 受け取って確認すると、これも魔道具のようだった。

 これが何なのかとお爺さんを見ると、お爺さんはそれをコツコツと指で叩いた。


「これが何の道具か分からんか?起動方法も分からんくてなぁ。教えてくれたらそれ、安くしてやろう」

「俺は全く分かんねぇ」

「リオン、鑑定授業取ってなかった?」

「取ってるけどよぉ……下から一、二番だぞ」

「そうなんだ」


 手に取ることも無く匙を投げたリオンに苦笑いして、ロイは道具を確認する。

 手のひらサイズの球体で、軽く魔力を込めても動く様子はない。

 こういうものは、別のスイッチがあるものだ。どこかが開くならそれが分かりやすいが……


「……お。開いた」


 考えつつ弄っている間にカコン、と音を立てて蓋が開き、中にスイッチが見えた。


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