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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
209/477

209,見覚えのない姿

 夕日が沈んでいく様子を眺めつつ、のんびり進む出店リコリスに揺られる。

 嘆きの乙女の説明をしていたはずなのに最終的には鬼ごっこになっていたので普通に疲れた。

 若干眠気もあるくらいにははしゃぎ倒してきたので今日は夜更かしせずに寝てしまおう。


「ふぁ……」

「寝てもいいぞ?」

「ん、大丈夫」


 かけられたコガネ兄さんの声が優しい。

 眠くはあるけれど我慢できないほどじゃないし外を眺めていることにする。

 話している間に森に入ったようで、揺れが大きくなり夕日が見えなくなった。


「……あ、そういえばコガネ兄さんは片手剣使えるの?」

「一応はな。普段は使わないからシオンの方が扱いは上手いぞ」

「へぇー……シオンにいが動いてるところ滅多に見ないけどね」

「まあやる時はやるんじゃないか?俺も滅多に見ないが」

「俺も見ねぇな」


 あまりにも目撃情報がないのだけれど、本当に動いてる時あるのかな?

 まあ、うん、たまーに、たまーに見るんだけどね。

 頻度が低すぎて覚えがないなぁと思っているだけだ。


 姉さまに聞いたら知ってるかな?……いや、姉さまはコガネ兄さんが魔法特化種なこと忘れかけるくらいだし見たとしても忘れてそうだな。

 かっこいいからたまには見せてほしいんだけどなぁ。頼んでも流されちゃうんだよね。


「今度やらせてみるか」

「出来るの?」

「囲んじまえばいけんじゃねぇか?」

「やってみたい。兄さん達手伝ってー」

「いいぞ」

「おう」


 ノリノリな兄二人(実行時は姉だろうが)に手伝ってもらえば流石のシオンにいも逃げきれないだろう。

 これは楽しみだ。何なら姉さまにも頼んでみよう。包囲網を作るのは考えているだけで楽しいなぁ。


 実行はいつにしようかと考えていたらコガネ兄さんとトマリ兄さんが笑っていた。

 こういうことを企ててる時は二人が結構手伝ってくれるんだよね。

 私が時々悪戯を仕掛けたくなるのは二人の影響が割とあると思う。


「天気のいい日がいいな」

「大体外に居るから囲みやすいしな」

「姉さまにも声かけて来客のない日を狙おう」


 話しながら進み、家が近付いてきたので一旦話は切り上げる。

 聞かれたら逃げられるからね、シオンにいは耳が良いからちょっとだけでも聞こえないようにしないといけない。


「……あ、姉さま」

「おかえりー。楽しかった?セルちゃん」

「楽しかった!」

「そっか、よかった」

「ただいま主。先に今日の売り上げ表だけ渡しておくぞ」

「はーい」


 出店から飛び降りて姉さまに駆け寄り、とりあえず抱き着いておく。

 乗せた商品や買った物を下ろしているトマリ兄さんを手伝おうかと思ったところでモエギお兄ちゃんに呼ばれ、そのまま夕飯の支度を手伝うことになった。


 ウラハねえが荷物の整理に向かったようなので、こっちの人数が足りない感じかな。

 手を洗ってきてから支度を手伝い、ちょうど終わったところで出店リコリスの整理も終わったようで皆が中に入ってきた。


 夕食を食べながら今日やったあれこれの話をしたりして、その流れでテストの時にソミュールが使った魔法について話して盛り上がる。

 コガネ姉さんが凄い笑ってるんだけど、それは何の笑い?無茶苦茶するなぁの笑い?


「はぁ……まあ、でもその状態でちゃんとショープリュイフリュトリステスが使えたなら、そろそろ始めてもいい頃かな」

「何かあるの?」

「ひとつ、覚えておくと便利な水魔法があるからやってみようか」

「うん」


 やっと笑いが収まったらしいコガネ姉さんにそんなことを言われ、ウキウキで胸が高鳴るのを感じる。わーい、姉さんが教えてくれる新しい魔法だぁー!

 覚えておくと便利な水魔法、って言ってたけど、ショープリュイフリュトリステスが使えないと駄目ってことは結構難易度は高そうだ。


「時間かかるかな?」

「セルリア次第かな」

「杖の調整が先の方がいいならガルダ行く日程ちょっと早めるけど……」

「特に決める必要はないよね?」

「うん。主の都合のいい日で大丈夫」

「ならちょっと頑張って薬の作り置きするかぁー」


 ガルダに行くとなると流石に時間がかかるので姉さまは準備が大変そうだ。

 なんだかんだ毎日のように何かしら作ってるもんね、一気に作らないといけないとなるとやっぱりどうしても大変なことなのだろう。


 大量の作り置きならコガネ姉さんもそっちを手伝うだろうから……そうなると明日明後日は確実に暇になるかな。

 読書に精を出そうか、それとも家でしか出来ないこと……そう、好き勝手に飛んだりあれこれ弄ったりしていようか。


 まあ、そのあたりは明日起きてからしたいことをすればいい。

 休みはまだ始まったばかりだし予定が無いならダラダラするのもまたひとつ。

 学校でも割とダラダラしてるとかは言ってはいけない。あれもほら、気分転換は大事だから。


「セルリア、お前レイピア使うんだろ?」

「ん、そのつもり」

「ならそれもどっかで見繕わねえとな」

「どうせなら魔導基盤入ってるのにしようや」

「最初っから高価な物与えようとしないで……」


 なんでそう結構高価なものを当然のように最初期から与えようとするのか。

 魔導器がちゃんとしたものじゃないといけないのは分かるけれど、レイピアは練習用から入っていいと思うんだ。


 これでも冒険者活動してるわけだし必要になったら自分でちゃんと買うよ。

 そんな私の意思をトマリ兄さんが察してくれたのかレイピアの購入は一旦見送りになった。

 ありがとう兄さん……今後もその調子で足止めしておいてくれると嬉しいな。


「その話は一旦後にして、デザート食べますか?」

「食べる!」

「食べる!!」

「食べるー!」


 モエギお兄ちゃんも流す方に加勢してくれるのか、単にいいタイミングだったのかデザートが出てきた。

 私と姉さまとサクラお姉ちゃんが勢い良く反応したからなのか先にデザートのミニタルトが差し出され、その後は欲しい人から声をかける感じになったみたいだ。


 甘いものはあまり食べないトマリ兄さんとシオンにいの分もちゃんとあるので、二人が食べないようなら後で争奪戦が始まるだろう。

 美味しかったので争奪戦をちょっと望みつつ、とりあえず自分の分を味わうことにした。


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