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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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208,美しき乙女の嘆き

「セルちゃん!久しぶり!」

「久しぶりーミーファ」


 久しぶり、と言っても数日しか経っていない訳だけれど、学校では毎日会うからね。

 それが日常なのでそれに比べるとちょっと会わないだけでものすごく久しぶりな気もしてくる。

 駈け寄ってきたミーファの頭を撫でつつ話していたら家からヴェローさんが出てきた。


「いらっしゃい。とりあえず入りなよ」

「はい。お邪魔します」

「今日はソミュール寝てんのか」

「うん。庭でお昼寝してるよ」


 姉さまからのお届け物があるから出来れば起きて欲しいけれど、駄目そうならヴェローさんに渡すことになるかな。

 説明とかは手紙が一緒に入ってるから特になくて大丈夫らしいし、それでも問題ないだろう。


 ヴェローさんは何かすることがあるらしく、お茶を置いて別の部屋に去って行った。

 それをウッドデッキに持って行き、猫に囲まれてスヤスヤ寝息を立てているソミュールを眺めつつお茶会の開催だ。


「セルちゃんは休みの間にどこか行くの?」

「ガルダまで行くらしいから、途中ケートスとかにも行くんじゃないかな」

「第三大陸か。俺行ったことねえわ」

「そうなの?」

「私も行ったことないな」


 二人とも行ったことがないらしい。

 まあ、用事がなければ行かなくても別に問題ないのでそれ自体は珍しい事でもないけれど。

 私は姉さまがガルダに知り合いが多いのもあって結構行っているけれど、これは少数派だったりするのだろうか。


 そもそも杖もガルダで作ってもらった物だしなぁ。

 愛用の髪飾りもガルダで買ったし。……姉さまの知り合いが多いという事は、つまり連れて行ってもらうお店が多いという事なので物も増える。


「セルの杖ってガルダで買ったんだよな?」

「そうだよ。ガルダの職人さんが作ってる杖」

「じゃあ行った時に調整とかもしてもらうの?」

「そうだね。点検とかはコガネ姉さんにしてもらうことも多いけど」


 杖の点検を怠ると流した魔力に耐えられなくて爆発、とかしかねないからね。

 私は魔力量が多いのでその爆発もかなりの規模になるらしく、こまめな点検は昔から言われて習慣化したことの一つだ。


 杖も私用に魔力上限を上げてあるらしいし、自覚はないけど結構な魔力量を誇っている……んだよねぇ、私。本当に自覚はあんまりないんだけど。

 まあ、これが理由で亜人の混血疑われるくらいなんだもんなぁ。


「あ、そうだ、あのね。セルちゃんに聞きたいことがあったの」

「うん?どうしたの?」

「テストの時に、ソミュちゃんが使ってた魔法のことなんだけど……ソミュちゃんに聞いても、セルちゃんが知ってるよーって教えてくれないの」


 テストの時にソミュールが使っていた魔法……ああ、説明が面倒だからって丸投げしやがったな。

 スヤスヤ眠るソミュールを睨んでみても全く意味はなかったので、諦めて説明することにした。

 まあ、途中で眠くなって説明を中断することになったら分かりにくいだろうという気遣い……という事にしておこう。


「メイデンボークラーゲン、だよね?」

「めい……それどれだ?」

「最初の方で使ってたやつ。美しき乙女の嘆き」

「そう!あれ、なんだか不思議な感じだったから」

「……あ、あれか?セルの事追っかけてた……」

「多分それだね」


 リオンも意外と興味があるみたいだ。ならちゃんと一から説明するべきだろうか。

 ……となるとあれの分類的な話からしないといけない?

 ソミュールめ、面倒事押し付けやがって……


「えーっと……ま、一個ずついこうか。まずあの魔法は古代魔法って呼ばれる種類の魔法なのね」

「古代魔法?」

「セルが普段使うのとはちげぇのか」

「うん。難易度とかが全然違う。テストの手合わせて使うような魔法じゃない」


 そこだけは念押ししておこう。本当に、あんな場所で気軽に使うような魔法じゃないのだ。

 ヴィレイ先生からなんか言ってあったらいいんだけど……テスト後は先生も忙しそうだったからそのあたり確認とか出来なかったんだよね。


「本当に……なんでテストであれの対処しないといけなかったんだ私……難易度おかしい……」

「セルちゃんがそんなに言うほど、なんだね」

「対処出来てたけどな」

「対処用の魔法の難易度も長々語ってやろうか」

「悪かったからそのめいなんたらの説明してくれ」


 確かにそっちが先だよね、うん。

 文句は後で聞いてもらうとしよう。多分二人とも聞いてくれるし、まずは説明だ。

 古代魔法については説明すると長いから一旦おいといて……


「あれは四属性くらいの複合魔法で、嘆きの乙女って呼ばれてるあの亡霊みたいなのを生み出す魔法」

「呼ばれてるだけなのか?」

「うん。私は読めないから知らないけど、ちゃんと名前あるはず」

「読めない……なにか、本とかに書いてあるの?」

「古代魔法は物語とか多いからねぇ……あれも一つのお話だったと思うよ」


 翻訳版もあるはずだけど、実は読んだことないんだよね。他の古代魔法の物語を読んだことはあるけど、嘆きの乙女は見かけたことないんだよなぁ……

 ソミュール翻訳版持ってるかな?持ってるなら貸してほしい。一週間で返すから。


「持ってないよ……」

「持ってないかぁ」

「あ、おはようソミュちゃん」

「んー……」


 今の声に出てたかな。まあいいや。

 起きたのかと思ったけれど、ソミュールはまだまだ眠そうだ。

 ちょっと目が覚めただけで微睡んでる感じかな。


 手を伸ばして頬をつつくと嫌そうに唸られた。この反応ちょっと好き。楽しい。

 それを声に出して言うと周りに引かれるので言わないようにしているんだけど、行動には出ちゃうよねぇ、楽しいんだもん。


「セル、続きー」

「ああはいはい」


 呼ばれたのでソミュールをつつくのを止めて身体を起こす。

 椅子に座り直してお茶を一口飲み、ついでにお茶菓子も齧ってふぅ……と息を吐く。

 さて、と。どこまで話したんだったかなぁ……


「えー……っと?」

「そもそもあの亡霊なんなんだ?」

「嘆きの乙女。触れた者の力やら生気やらを奪う亡霊」

「……そんなの出してたんだね、ソミュちゃん」

「私が怒っていた理由をご理解いただけたか」


 うむ。と尊大に頷くと、二人からは全力の同意が返ってきた。

 ヤバさを理解してくれたところで難易度なんかを詳しく説明していこう。


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