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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
203/477

203,さっそくのお茶会

「主、お茶淹れたよ」

「うん」

「マスター、まだ来ないと思うわよ?」

「うんー」


 薬屋リコリスのカウンターに三人分のお茶が置かれている。

 普段ここにいるシオンは外で光合成に励んでいるのでお茶はアオイ、コガネ、ウラハの三人分だ。

 今日はみんな大好きセルリアが帰ってくる日。モエギが朝のうちにフォーンに行ったので心配はしていないのだけれど、早く帰って来ないかなぁとソワソワして既に数時間。


 既に髪は結ばれて外と店を五往復ほどした後なので、とりあえず座っていろの意味でお茶を用意されてしまった。

 が、ソワソワと外を気にする動きは変わらない。


 コガネとウラハが顔を見合わせて苦笑いした。

 それと同時に床の影からトマリが出て来て、反射的に殴り掛かったコガネからお茶を守るためにウラハが手を伸ばす。


「あ!!」


 ちょうどその時にアオイが大きな声を出して立ち上がったので全員びくりと肩を震わせた。

 お茶は無事だ。大丈夫。

 そんなことを考えつつ外に飛び出したアオイを目で追うと、我らが妹が地面に降り立ったのが見えた。





 ふわり、と地面に足を付ける。

 うーん、気持ちよかった。モエギお兄ちゃんも結構速度出すから出発からそんなに時間経ってないだろうなぁ。


 なんてのんびり考えつつ荷物を下ろしていたら家の扉が勢いよく開いて姉さまが現れた。

 パーッと表情が明るくなる姉さまにとりあえず駆け寄って、その腕に飛び込む。

 姉さま何だかんだ運動神経はそれなりにいいから転んだりはしないんだよね。


「おかえりセルちゃん!」

「ただいま、アオイ姉さま!」


 姉さまからはふわりと香るお茶の匂いがした。

 それから花のような優しい香りと、薬草などの香りもする。

 凄く落ち着く。ついうっかり深呼吸なんかもしてしまった。


「お。おかえりーセルちゃん」

「ただいまシオンにい」

「とりあえず荷物運びましょう。主、一旦離れてください」

「はーい。モエギもおかえり、ありがとうね」


 いつの間にか私の荷物はトマリ兄さんが回収していた。

 家からはウラハねえとコガネ姉さんも出て来て周りは一気に賑やかになる。

 それで気付いたのか、畑の方からから籠を抱えたサクラお姉ちゃんも現れた。


「おかえりセルちゃぁん!!」

「ただいまサクラお姉ちゃん」


 勢いがいい。ものすごく勢いがいい。

 手に持っていたはずの籠はいつの間にやらトマリ兄さんに回収されていて、私の方に飛び込んできたお姉ちゃんを抱えてグルグル回る。


 勢いよく来たから回しておかないと倒れそうになるんだよね。

 徐々に回る速度を落としていって、ゆっくりになったらお姉ちゃんを地面に降ろす。

 楽しそうにキラキラと目を輝かせている様子になんだかこちらまで楽しくなってくる。


「あのね!リンゴが育ったんだよ!」

「そうなの?」

「あー、サクラァ。まだ内緒って言ったのに」

「あっ……ごめーん主」


 これはデザートにリンゴを使った何かが出てくると見た。

 本当ならそこでじつは育ったんだよーって言う予定だったんだろう。

 サクラお姉ちゃん、リンゴの木は結構気にして様子見たりしてたから相当嬉しかったんだなぁ。


「とりあえず中は入れお前ら」

「トマリ兄さん、荷物ありがとう」

「おう。全部部屋に置いて来たからなんか出すもんあるなら取ってこい」


 わしわしと頭を撫でられる。

 せ、せっかく綺麗に結べてたのに……

 まあいいか、もう家に着いたんだし解いてしまおう。


「ふふ、お茶を淹れてくるわ。手を洗っていらっしゃい」

「はーい」

「私も洗ってくる!」

「僕も、ですね」


 モエギお兄ちゃんとサクラお姉ちゃんが両サイドから私の手を引いて洗面台に向かう。

 お姉ちゃんの髪がふわふわ揺れているのを眺めつつ手を洗ってリビングに戻ると、既に全員分のお茶が用意されていた。


「サクラが先にネタバレしちゃったけど、リンゴが育ったので今日のおやつはタルトです」

「ふふ、我ながら上手に出来たから楽しみにしてて」

「わーい。学校ではあんまり見なかったから嬉しい」


 出されたお茶に手を伸ばしつつウラハねえが切り分けているアップルタルトをじっと見つめる。

 美味しそうだなぁ……サクサクと音を立てて切られるタルトも、ツヤツヤのリンゴも非常に食欲をそそる。


「はい、セルちゃん」

「ありがとう!」

「食べながら休みの予定を決めようか。どこか行きたいところはある?」

「んー……あ、実はカバンが壊れかけてて……」

「あら、そうなの?」

「うん。直せるなら直して使いたいんだけど、私じゃどうにも出来なさそうで」


 私が愛用しているカバンは二つ、学校で授業の道具なんかを入れて持ち歩いているショルダーバッグと休日に街に出る時に使っているウエストポーチがある。

 壊れかけなのはショルダーバッグの方だ。


 使用頻度が高いのと、常に本が入っていて重いのとでなんだか千切れそうな気配がしている。

 ウエストポーチは前の休みに見つけて買ってきたボタンを付けてもらった時に補強と調整もしてもらったからまだまだ大丈夫。


「どうせなら肩紐の部分だけ別の布にしてみる?」

「なるほど……選んでいいの?」

「もちろん」

「選んだ布で補強もいれればそういう柄になりますし、可愛いと思いますよ」

「ならそうする。ありがとう」

「ふふ、後で一緒に選びましょうか」


 私もちょっとした裁縫くらいなら出来るのだけれど、やはりウラハねえとモエギお兄ちゃんがやったのに比べると歪だし強度が全然違う。

 シャツのボタン付けくらいなら普通にやるし服の裾が切れたとかなら直せるんだけど……普段から使うものとなるとね、下手に補強するより綺麗に直してもらおうと思ったのだ。


 こうやって考えている辺り、甘やかされ過ぎていると思っているくせに甘え癖が付いているというかなんというか。来年の目標は「自力解決」にでもしておこうかな。


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