202,いざ帰宅
ふぁ、と欠伸を零して時間を確認し、ベッドを降りてとりあえず髪を梳かしに行く。
今日は休みの始まり、つまりは家に帰る日である。
荷物は昨日のうちにまとめ終わっていて、午後は女子会をしている余裕もあったくらいなので問題はない。
着替えも動きやすいやつを出しておいたし、髪も一つに纏めてとりあえず準備は万端だ。
朝ごはんたーべよっと。ロイがギリギリまで予定に悩んでいたから、朝ごはん食べながら聞いてみよう。
杖を揺らしつつ廊下を進んで食堂に入り、朝食を持って座る。
今日もいい天気、空を進むには非常にいい日だ。
軽くしか確かめてないけど、風も強くは吹いていなかったから好きに飛んで帰れる。
「おはようセルリア」
「あ、おはようロイ。どうするか決まった?」
「うん。早めに戻ってきて冒険者登録することにした。半分くらいは村にいるけど……後半はこっちにいるかな」
「そっかぁ。リオンと一緒に居るの?」
「そのつもり。セルリアも遊びに来るのかな?」
「まあ、来れるなら来たいかなぁ。来る日は多分リオンが知ってるよ」
今回もしっかり出店予定表を渡してあるし連絡も取れるから遊びに行けば会えるだろう。
なんて話しながら朝食を食べ、今回も門のあたりで皆を待つことになるかなぁと考える。
リオンは朝食に起きてこないだろうし、シャムも多分来ないし……ミーファはもう食べ終わってソミュールを起こしに行ったかな?
「ロイはまた課題出てるの?」
「あれは一年生が基本的にやる課題だから、今回は……ちょっとしか出てないよ」
「ちょっとは出たんだね」
「戦闘職は全く出ないの?」
「まあ、大体みんな勝手にやるし。私はノア先生から休み明けの風の槍の威力、楽しみにしてますね。って圧かけられたから威力上げに勤しむ」
「まだ威力上げるんだね……」
「そりゃあもう、行ける所までいくよ」
全てを粉砕する威力を求めて。が最近の合言葉だ。
流石に授業中は別の事をするようになったけど、一回は撃ってみて威力確認してたりする。
私も楽しいしノア先生も楽しそうなのでまあいっか、って感じだ。
話している間に朝食を食べ終わり、ロイと同時に食堂を出てそれぞれ部屋に向かう。
多分また門で会うから、さっくり分かれて荷物の回収と鍵を預けに行くのが優先になるんだよね。
そんなわけで杖を揺らしつつ部屋に戻って時間を見つつ最終確認を済ませていく。
うん、忘れ物もないし本は返したし茶葉も持ったしこれでよし。
少し時間を潰してから部屋を出て、鍵をかけて中央施設に向かう。
鍵を預けて荷物を持ち直すと後ろから声をかけられた。
「せーんぱい」
「イザール。やっほー」
「やっほー。もう行くの?」
「いや、門で皆が通るの待ってるよ。イザールは?」
「俺はもう行く。じゃあねぇーまた休み明けに」
「うん。じゃあね」
横をするりと抜けていったイザールを見送って、のんびり歩いて門のあたりまで進む。
荷物を下ろして背中を預けて、左手に持った杖を回しつつぼんやり空を見上げる。
うーんいい天気……って、うん?あれ?モエギお兄ちゃん?
「チュン」
「お迎え来てくれたの?」
「チュン」
「なるほど、分からない。とりあえず皆と話してから出発だけどいい?」
「チュン」
いいらしいので肩に止まっているお兄ちゃんを落とさないように杖を回すのはやめる。
そのままボーっとしているとリオンがやってきたので手を振って横で止まったリオンを見上げるとデコピンされたので抗議の意を示すためにモエギお兄ちゃんをずいっと差し出す。
「うぉっ、モエギさん」
「チュン」
「言いつけるまでもなく見られてたんだよなぁ」
「チュン」
「す、すいません」
「私に謝れー!」
なんでモエギお兄ちゃんにだけ謝るんだ。
これが姉さまの言っていた誠に遺憾ってやつか。
確かにリオンはモエギお兄ちゃんには頭が上がらないというか胃袋を掴まれてるから対応が丁寧だったりもするけどここは素直に私に意味もなくデコピンしたことを謝りなさいよ。
さもなくばそよそよするぞ、と杖を揺らしていたらお兄ちゃんに止められてしまったので大人しくやめる。
別にそんな大乱闘する気はないんだけどな。
「あ、もう二人ともいるー」
「ん?おー、お前ら一緒に来たのか」
「途中で会ったんだ。あ、モエギさん。こんにちは」
「チュン」
声のした方を見ると荷物を抱えたシャムとロイが揃って歩いて来ていた。
シャムはまた大荷物だなぁ。村へのお土産なのかな?
あまり重そうにしていないのは魔法で軽く浮かせているみたいだ。
「ロイはどんくらいに戻ってくんだ?」
「半分過ぎたくらいで戻ってきたいけど……多少前後はしそうかな」
「そうか」
「私も冒険者登録したいんだけどなぁ。休みいっぱいは村にいるだろうし戻ってきたらかなぁ」
「シャムも登録するなら四人で行けるようになるね」
「やりたい事考えておくからね!登録付き合ってね!」
「いいよー」
ロイの登録にはリオンが一緒に行くんだろう。
シャムの時は全員で行ったりしてね、そんな大人数で行くものでもないけど何となくついて行こうってなりそうな気がする。
そしてそのままご飯食べて帰ってくるんでしょ。目に浮かぶもん。
まあ、それはそれで楽しいだろうからいいんだけどさ。
ギルドのお姉さんたちから常々微笑まし気に見られている身からすると、あの目線が加速しそうだなぁと思うくらいだ。
「……ん?じゃあロイ、剣も買うの?」
「それはまたみんなで行かない?流石に一人では行きづらいし」
「じゃあ戻ってきてからか」
話している間にミーファとソミュールが手を振って横を通過していき、手を振り返したりしながら時間を確認していたらロイとシャムが乗る乗り合いの馬車が出る時間が迫ってきていたので解散することになった。
とはいえ大体の道は一緒なので大通りを歩いて行き馬車の方に向かう二人と別れ、門まで見送りに来てくれたリオンに手を振って門を潜って外に出る。
少し進んでから荷物を持ち直して杖を揺らし、魔力を練り上げていく。
「……よし、帰ろう!」
「チュン」
声を上げるのと同時に風に乗ってふわりと浮き、先に飛び立ったお兄ちゃんを追いかけた。




