20,拝啓姉さま、友達が増えました
放課後に図書館に寄り、借りていた本を返して別の本を借り、それを部屋に持って戻り日課にしているあれこれをこなし、鐘の音を聞いて部屋を出る。
夕食に向かっているとリオンがいつの間にか横にいた。
最近、夕食はいつも一緒に食べているので食堂に入る前に合流することも少なくないのだ。
私が急に杖を揺らしても被害がないように、と右側を陣取る慣れ具合である。
「今日の夕飯なんだろうなー」
「何でも嬉しいんでしょ?」
「まあな」
ルンルンで答えたリオンに苦笑いしつつ食堂に入り、夕食を確保したら空いている場所を探す。
空いている場所、というか、最近は特定の人を探すところからなのだが。
「セルちゃーん!」
「あ、いた」
呼ばれて振り返ると、そこにシャムが座っていた。
しっかり二人分の空きを保ってくれていたらしい。
シャムの向かいに座っていた青年がひらひらと手を振ってくる。
「やあ。こんばんはー」
「よう。ロイは何食ってんだー?」
言いながらリオンが青年、ロイの横に流れるように腰かける。
私の定位置はシャムの隣だ。
ロイは、同期の研究職生でシャムに引っ張られてきたのを始まりに夕食は四人で食べるようになった。
なんだかんだ自己主張が強い私含め三人に対して、常に聞き手に回っているのがロイである。
シャムとロイから研究職の座りっぱなしの授業内容を聞き、私とリオンは教師陣から唐突に繰り出される実技課題を語る。
「今日なんてよぉ、急に背後に氷の人形が現れてよぉ……」
「うわぁ。大変そうだね」
「まあ、いつも通りって言ったらいつも通りなんだけどね……」
実技は鐘が鳴った瞬間から全員が臨戦態勢で話を聞いているくらいだ。
今日は、背後の氷人形から一定時間逃げ回り続ける課題だった。
魔法等の使用は許可されていたが私は炎で身を守るということすら苦手なので、全力で上に吹き飛ばさせてもらった。
駄目とは言われなかったからね。怒られもしなかったからあれでいいのだ。
リオンは一回は攻撃をしようとしたみたいだったが、武器を凍らされて断念したらしい。
そこから逃げきれているのだから身体能力が高い。
「私たちは今日、すごく眠たくなると有名な歴史の授業が始まったよ」
「眠かった?」
「いや?楽しかった!」
「シャムが寝たらそれは本当に子守唄だよ」
笑いながら言っているロイも眠くはならなかったらしい。
彼も彼で楽しかったよーと言っているので、これはもう本当に好みの問題なのだろう。
それとも、二人が知的好奇心に溢れているからなのか。
「……ちなみにどんな内容だった?」
「教科書なら図書館に置いてあるってさ。聞かれると思ってタイトルメモしてきた」
「ありがとー!シャム好きー」
「私もセルちゃん好きー」
横にいるシャムに抱き着くと、すぐに抱きしめ返された。
向かいの男子たちは慣れたように無視している。
まあ、新しい科目の話聞くたびにやってるやり取りだし、慣れるのだろうけど。
「セルリア、研究職くれば良かったのにってちょっと思うよ?」
「魔法が全部戦闘職なの」
「まあ、分かってたけど」
苦笑いされてしまった。
ロイは、なんというかこの中で唯一「一般的な」思考を持っているので、どうしても常識から外れがちな私やシャムの軌道修正をしてくれることが多い。
ので、ロイに苦笑いされるとなんだか私の思考がまた、常識と別方向に向かっているだろうかと少し不安になってしまうのだ。
今もしっかり、ヴィレイ先生からの最初の課題は進行中である。
とりあえず「一般的な」常識を身に付けようとしてみているが、そうすると姉さまがいかにズレた生活をしていたかが分かってしまいちょっとだけ複雑な気分だ。
やっぱり、最初の荷物に入っていた傷薬は荷物の隙間埋めに使うようなものではなかったし。
「んぐっ!?」
「静かだと思ったら何してんの!?」
「わあ!お水もって来なきゃ!」
「コップだけならあるけど」
今日はいつもより静かだとは思っていたが、まさかご飯を詰め込みすぎてむせてるとは思わなかった。
空のコップを差し出されたので杖に魔力を込めてクルクルと手首を回す。
意味がないという人もいるけど、自分の属性以外を操る時に一定の動作を組み込むとやりやすくなるのは事実だ。
生成した水を零さないようにコップに注ぎ、慌ててリオンに差し出した。
水を一気に飲みこんで一息ついたのを確認して、杖の先に浮いたままになっていた水滴を顔にかけてやる。
驚いたように声を出したが、文句は言えない立場だと思っているのか何も言い返してはこなかった。
「わああ、びっくりした」
「俺もビビった……」
「何をそんなに詰め込んだの」
「……肉?」
「ちゃんと噛みなさい。危ないよ」
「おう」
子供のような窘められ方をしているのは分かっているのだろうか。
まったく、とため息を吐いてからお茶を啜る。
無事だったからよかったが、次に同じことをしたら水を出すのではなく杖で叩いてやろう。
「セルリア、不穏なこと考えてない?」
「考えてないよ」
「いつもより棒読みだよセルちゃん」
「ソンナコトナイヨ」
指摘されたら余計に繰り返してやれとシオンにいが言ってたので。
こうすると大体は誤魔化されてくれるのだ。
シオンにいはなんでそんなに誤魔化し方を知っているのかと尋ねたら、笑って誤魔化された。
懐かしいな、なんて思い返している間にも時間は進む。
ふと時計を確認すると、夕食の時間ももうすぐ終わりになるようだ。
リオンは私の倍以上持ってきていた夕食を食べ終えたみたいだ。本当に、食べるのが早い。
「そんなんだから詰まらせるんだよ」
「え、なんで俺改めて文句言われた?」
「うるさいバーカ」
「セルちゃんの悪口が低レベルになってる……」
二十話目にしてようやく揃いました、この四人を中心に話を書く予定です。
シャムとロイの初接触なんかも、忘れていなかったらそのうち書いていると思います。




