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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
199/477

199,浮かれた校内

 図書館で本を二冊ほど借り、足早に廊下を進む。

 ああ、どうしようかな。部屋に居るのが一番確実なんだけど……明日が一番部屋に引きこもっているべき日だし、今日はあまりにも天気が良くて引きこもるのはもったいないんだよなぁ……


 なんて考えながらせかせか歩いて廊下を進んでいたら、曲がり角の先からチリンと鈴の音がした。

 この音は……イザールかな。ぶつかったらいけないしちょっと足を止めておこう。

 角の手前で止まっていると、予想通り黒猫な後輩が現れた。


「あれ?先輩だー。やっほー」

「やっほーイザール」

「なんか急いでるの?」

「いや、急いでるってわけじゃないんだけど……」

「ふーん……なら一緒に行く?俺今から外でゴロゴロするけど」

「……行こうかな」


 一人で引きこもるよりイザールといる方がいいだろうし、私も外でゴロゴロしたいし。

 そんなわけで外に向かうイザールについて行き、人のあまりいない場所……イザールが割とよく居る気がする林の端あたりに移動する。


 うん、やっぱり引きこもるにはもったいないいい天気だ。

 本を抱えたまま来たし、ここでのんびり読書でもいいかもしれないなぁ。

 ……まあ、いつもは全くと言っていいほど人が居ないこの場所にも何人かの気配を感じるわけだけども。


「皆浮かれてるねー」

「テストも終わったしね」

「先輩は行くの?ダンスパーティー」

「行かないよ。イザールは行くの?」

「ま、情報収集がてらにね。先輩が行くなら誘おうかと思ってたのに」

「はは。私ああいうの苦手」

「何となくそうかなーとは思ってたけどさ」


 シャムは今年も行くらしい。

 テストが終わってお茶会してる時に誘われたけど、苦手だからと断ってしまった。

 前の休みの時にモエギお兄ちゃん達から渡されていたワンピースドレスが着れる、とご機嫌だった。


 ダンスパーティーは明日なので、明日はもうずっと引きこもっている予定だ。

 今年もミーファが避難してきたりするかなぁ、なんて思いつつ日持ちする食料を貯め込んでいたので一日引きこもるくらい余裕だったりする。


「休みの間、イザールは王城に居るの?」

「いや、もともと住んでた家に居るよ。定期報告の他には呼ばれた時しかお城には行かない」

「へぇ……そうなんだ」

「先輩は休みにはイピリアの王城でお茶会でしょ?」

「……なんで知ってるの?」

「王様は最上位薬師様と仲良しだよねぇ」


 ケイさんから漏れたのか……全くこの黒猫は耳が良いんだから……

 話しながら借りてきた本を開くと、イザールは隣で横になっていた。

 うーん、猫耳が近くに居るなぁ?


「ちょ、先輩俺の耳狙うのやめてってば」

「まだ何もしてないじゃん」

「視線を感じるんだよ」

「それはそうと、テストどうだった?」


 流石に手は出さないから話をずらしておこう。

 どこか不満げに尻尾を揺らしていたイザールは、最終的には流されてくれる気になったようで再び寝転がって目を閉じる。


「とりあえず全部無事終わったよ。先輩は?」

「とっさの魔法が大体全部薄いから要改善、かな」

「え、そんな風に思うような相手でも居たの?」

「ソミュールには流石に勝てなかったからね。飛行能力も伸ばしたいし、察知も伸ばさないと」

「ええ……先輩の学年強い人多くない……?」

「そう?先輩も割とこんなんだったと思うけど」


 上の学年ってやたら強く見えるよね。分かる。

 私も未だに先輩たちには敵わないなぁと思い続けているし。


「イザールも後期入ってすぐくらいに先輩と戦ったでしょ」

「うん。ぜーんぜん敵わなかった」

「つまりそういうことだよ。大体みんな強い」


 怖いねぇ。やっぱり意欲的に学んでる人って言うのは一年でびっくりするくらい伸びるもんね。どの学年も個人戦の上位組は強いだろう。

 そしてそれで言うとイザールは上位組だと思うんだけど……まあ、リオンの馬鹿力とか見たんだとしたら意味わかんねぇな、ってなっててもおかしくはないか。


 リオンとかミーファとか、やっぱり物理攻撃は凄さが分かりやすいよなぁ。

 魔法も派手なものはあるけど、私が扱うのは難易度が高くなればなるほど風が多くなっていくから大体見えないんだよね。


「先輩は風以外だとなにか得意な属性あるの?」

「んー……水と氷かな」

「へぇ……珍しくない?風の人って雷とかのイメージあるけど」

「人によるんだよ、なんだって」


 属性的な相性で言えば風と炎は纏めて扱いたい組み合わせだけど、私は炎使えないし。

 ああいうのは多分、なにに触れて育ったかなんだと思う。

 水とか氷とかの扱いを教えてくれる人が居たから私は風の他だとそれに触れる時間が多くて、だから得意。


「あ、そうだ。イザール来年の選択授業決めた?」

「片手剣かな。先輩は二個目何取るの?」

「レイピア。……の、予定。もしかしたら変えるかもしれないけど……まあ、多分確定」

「なんか曖昧だね」

「一ヵ月で考えが変わる可能性って意外とあると思うんだよね」


 家で何かしら、私が選択授業を改めて考えないといけないような事件が発生しないとも限らないわけだし。

 そのあたりの話題については普通の家と違って事欠かないからね。


 ダラダラ話しながら廊下を通る人を眺めていたのだけれど、浮かれた生徒の他に先生たちも早足に通り過ぎていく。

 なんか忙しそうだなぁ……まあ、明日はダンスパーティーで一日潰れるから今日のうちにあれこれやっておかないといけないのかもしれない。


「……ねえイザール。部屋の掃除とか整理整頓とかって得意?」

「え、なに急に。俺の部屋そもそも物が少ないからそんな散らからないよ」

「くっ……じゃあ駄目か……」

「先輩もしかして俺の事ヴィレイ先生に生贄として捧げようとしてない?」

「いや、ちょっと手伝ってほしいなくらいの感覚だったけど。特に休み明けとか」


 流石に全て丸投げしたりはしないよ。

 前提として私があの部屋片付けてるの意味わかんないんだけどね。

 休み前に片付けに行く感じになっているけど、休みが明けたら何がどうなってそうなったのか一から説明を求めたいくらいの状態になるんだよね。


 魔術準備室だしヴィレイ先生的にもあんまり立ち入る人数を増やしたくはないんだろうなぁなんて思うわけだけど、とりあえず連れていくだけ連れて行ってみたい。

 まあ、無理にとは言わないのでこの話は一旦おしまいだ。


 ……兄さん達の誰かしら、誰でも続けられる収納術的なの知ってたりしないかなぁ。

 先生は本当に、私が卒業した後どうするつもりなんだろうか。

 休暇中の暇な時にでも何かしらの対策を考えてみるか、とぼんやり空を見上げた。


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