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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
196/477

196,午後の試合

 ヒュンッと音を立てて杖を回す。

 昼寝したからかな、調子が良くなった気がする。

 魔力もちょっとは回復したみたいだからとりあえず問題ない。


「いけるかー?」

「うん。やっぱり仮眠は大事だね」

「ソミュールは仮眠から戻って来ないけどな」

「起きなかったねぇ……」

「戻ったらもう少し頑張ってみようか」


 話しながらそろそろ終わる前の試合を眺める。

 私が肩を回したり伸ばしたりしている横ではリオンが屈伸運動を繰り返していて、反対側ではミーファが高く跳んでいる。


 分かりやすく準備運動中なわけだけど、昼食後だからちょっと早めに始めてかれこれ五分くらいやっていたりする。

 なんだかミーファの高度がどんどん上がっていっている気がするんだけど、気のせいかな?


「なんか作戦とかあんのか?」

「各自いいように」

「無いんだね、分かった」

「まあ、剣に風を纏わせはしとくよ」


 ま、作戦なんて立てないで今まであれこれやってきたからね。

 何か明確に対策するべきものがあるならするけど、今回はそういうわけじゃないから別にこれでいいのだ。


 試合が終わったので準備運動は終わりにして屋外運動場に設置された手合わせ場に入る。

 陣形ってわけでもないけど、リオンが戦闘でその真後ろにミーファ、ちょっと距離を開けて私が立つのが基本になっている。


「試合開始」


 ヴィレイ先生の声に反応し、杖を振り抜いて二人の剣に風を纏わせて自分は少し浮いておく。

 円の中を風で満たしつつ相手の動きを探る。

 魔法使いが一人、片手剣が一人、槍が一人、弓が一人。中々バランスのいいパーティーだよね。


 とりあえず私の役割は弓の無力化と魔法使いの足止めだろう。

 弓は風を強めればある程度どうにかなるので急ぎは魔法使いの方になる。

 サポートの魔法使いは仕事をさせると本当に厄介だから何かする前に抑えたい。


 そんなわけで、魔法使いらしくなくて申し訳ないがとりあえず杖で殴り掛かることにした。

 なんだかんだこれが一番わかりやすいからね、仕方ないね。

 杖に強い風を纏わせて、あわよくばこのまま場外に飛ばしてしまおうと上からではなく横から殴る。


「うわぁ!?」

「ごめんねっとぉ!」


 まさか私が来るとは思わなかったんだろうなぁ。

 上げられた悲鳴に反射的に謝りながら杖を振り抜いた。

 流石にリオンみたいにそのまま腕力で吹き飛ばすことは出来ないので、身体が少し浮いたところで風に乗せて飛ばす。


 そこまでやったところで私の方に誰かが殺気を向けているので私も風に乗って逃げる。

 直後に振り下ろされたのは……片手剣だろうか。ってことはどっちか他の人の相手してるんだな。

 風に意識を向けて確かめてみたら、ミーファが槍の相手をしていてリオンは私が吹き飛ばした魔法使いの追撃に行っているみたいだ。


 ……あ、魔法使い落ちた。私は風を使っても吹き飛ばしきれなくて態勢を立て直されたのに、リオンは一撃でしっかり吹き飛ばしたみたいだ。

 なんて考えている間にミーファも槍の人を倒したらしい。まあ、あそこまで接近したらミーファの勝ちだよね。


「おいセル!」

「はぁい」


 観察に勤しんでいたらリオンに呼ばれたので、そっちに風を向けて多分こっちだなぁーと弓の人に向けて撃ち出す。

 文句が聞こえてこないのでこっちで合ってたみたいだ。


 私は私で片手剣の人に狙われてるのでとりあえずミーファの方に逃げよう。

 ……というか、ミーファが既にこっちに来てくれているみたいだ。

 これは上に逃げて置いた方がいいかな。その方がミーファが動きやすいだろう。


「セルちゃん!」

「はいはーい」


 宙返りしつつ下を通過していったミーファに呼ばれてそちらに風を送り加速させる。

 ついでに相手の周りに風を起こして逃げられないようにして、ミーファが接近したのを確認してリオンの方に目を向ける。


 あ、もう終わってるや。

 なんて思っていたら目を離した隙にミーファも片手剣の人を仕留めたみたいだ。


「そこまで」


 先生の声が響いて、剣を鞘にしまっている二人の横に着地する。

 結構速かったんじゃないだろうか。

 やっぱり前衛が居ると演唱の必要がある魔法を使わなくていいから楽ちんだ。


「よし、お疲れー」

「おう」

「やっぱりセルちゃんは味方がいいね」


 個人戦より回数が少ないこともあり、こっちの方が早く終わりそうだ。

 あと、個人戦より戦力の偏りがある。

 私たちはかなり強い方だと思う。休日に三人でクエストを受けたりもするから連携も取れてるしね。


「さーてと、じゃあソミュール起こすかぁ」

「やっぱり起きてないね、ソミュちゃん」

「あれ起きんのかぁ?」

「多分起きない」

「お、起きるかもしれないよ……!」


 喋りながら端の方で寝ているソミュールの場所まで戻り、まだまだ起きなさそうなソミュールを起こす作業に戻る。

 ソミュールと同じ組の人も頑張っていたみたいだけど……これは駄目そうな気がするなぁ。


 普段からソミュールを起こしているミーファが駄目そう……と言っている時点で察しられるものがあるが、まあミーファが頑張るなら手伝わない訳にはいかない。

 リオンも同じ考えのようで、順番を気にしつつ揺すったり枕を取ろうとしてみたりする。


 そんなことをしている間に他の試合は順調に進んでいき、結局ソミュールは起こせず順番が回ってきてしまった。

 ヴィレイ先生もわざわざ確認に来るくらいには頑張ったんだけど……こればっかりは種族的な問題だからね、仕方ないっちゃ仕方ない。


 まあ、ソミュールは個人戦優勝だし成績にはそんなに響かないと思っていいだろう。

 そもそも寝ていた授業の内容は起きている間に補完していたりするし、ソミュールも真面目なのでそんなに心配しなくていいのだ。


「……うん、自分たちの試合に集中しよう」

「そうだね、まだまだあるもんね」

「作戦とかなんかあるか?」


 あまりうだうだ考えてもいられないので、切り替えていこう。午後の試合は始まったばかりなのだ。


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