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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
190/477

190,ソミュールは強い

 当然のことだけれど、トーナメント方式の試合は進むにつれ次の試合までの待ち時間が減っていく。

 全員疲れは溜まっていくので条件は同じと言えば同じなのだけれど、これ普通に大変だなぁ。

 しかも午後はまた別の形式でやる事になるわけだし。


「はぁー……次の相手誰だろ」

「サヴェールじゃねえか?」

「ここに来て魔法使いか……」


 普通に疲れたのでちょっと休憩したい。

 まあ、そんなこと言っても仕方ないわけだけど。

 リオンこの後試合あるんだよなぁ。なんかいい感じに長引いたりしないかなぁ。


「魔力残量は余裕でしょ?」

「でも疲れるものは疲れるじゃん」

「それはそうだねぇ」


 魔力量で言うと私は割と規格外な保有量をしているので別段問題ないのだけれど、それと疲労感は別の話だ。

 次が対魔法使いとなるとまた色々考えないといけないし。


 何はともあれ頑張ろう、と気合を入れつつ杖を揺らしていたら、リオンが二戦目に呼ばれた。

 頑張れーと声だけかけて歩いていく背中を眺め、ふぁっと欠伸を噛み殺した。

 ミーファとの一戦で気を張っていたからなのかなんか一気に気が抜けたんだよなぁ……


 このまま放置されたら寝てしまいそうな気すらする。

 ソミュールは今日調子が良いのか薬の効果なのか眠そうにはしながらもずっと起きているので話しているのもいいかもしれない。


「セルちゃん大丈夫?」

「ん?うん。ちょっと眠いくらいだよ」

「枕使う?」

「それ本格的に寝ちゃうやつじゃん……」


 ソミュールの愛用枕はなんというか、もちもちしている。

 低反発でもちもちでしっかり頭は支えてくれる魅惑の枕なのだ。

 彼女が常に抱えて移動しているのも分かってしまうくらいには触り心地もいい。


 今の状態であの枕に頭を沈めてたらもう起きられなくなる。

 そんなわけで珍しく愛用枕の貸し出しを提案してくれたソミュールの好意だけ受け取って、始まったリオンの二戦目に目を向けた。


「リオンの剣って結局どのくらいの重さなんだろうね」

「セルリアは持てる?」

「まあ、持つだけならね」

「私もあれは振れない、かな」

「僕は力ないからなぁ。持てなそう」


 のんびり話しながら眺めている試合は終始リオンのテンポだ。

 そもそも勢いも付いて単純な重さ以上の重量があるあの大剣をしっかり受けられる人がそんなに居ないんだよね。


「リオンは筋力お化けだからなぁ」

「そうだねぇ」


 正面からリオンの一撃を受けると大抵の場合姿勢が崩れ、姿勢が崩れると次が受けられない。

 これがミーファとかならそもそも一撃も受けないで接近するんだよね。

 取り回しが難しいから近くに居られた方が困るってリオン本人が言ってたし、ミーファもそれを理解している。


「あ」

「あぁー」

「わぁ……痛そう……」


 三者三様の反応を同時に零す。

 視線の先ではリオンの大剣を腹部にモロに受けて吹き飛んでいった。

 場外に出る前に転移させられている辺り、あれが致命傷判定になったんだろう。


 振り抜いた大剣をそのまま鞘に納めてこっちに戻ってきたリオンがきょとんとした顔でこちらを見ている。

 なんでそんな顔してんだ?とでも言いたそうな顔だけど、人ひとりを余裕でぶっ飛ばしたんだからこんな表情にもなるだろう。


「筋力お化けめ……」

「セルそれ時々言ってるよな」

「その通りだもんねぇ」

「次の試合、ソミュちゃんじゃない?」

「んぇ、ほんとだー。行ってくる」


 歩き出したソミュールを見送って、私の前に来たミーファの頭を撫でる。

 ソミュールも問題なく勝ち上がるだろうなぁ。

 ……ん?あれ?もしかしてこれ……


「私、次勝ったらソミュールと当たる……?」

「……あ、そうだね」

「えぇ……しんど……」

「俺どっちかとしかやれねえのか」

「私の位置なら勝てばみんなと当たるよ」

「私の位置でも出来たね」


 リオンが何だかちょっと羨ましそうにしてきているけれど、実際この位置だったらしんどいって文句言うよ。

 実際私はものすごく文句を言いたいからね。


「あ?ソミュールもう終わってねえか?」

「いや流石に……終わってるねぇ?」

「ソミュちゃんって強いよねぇ……」


 相性的なものもあったんだろうけど、それでもあんなに早く試合が終わってしまうものなのか。

 一戦目とかだと結構早かったりもするんだけど、これみんな三戦目のはずなんだけどなぁ。

 そもそもの魔法適性が違うのか、無演唱で扱える魔法が圧倒的に多いソミュールはそれだけで非常に強い魔法使いなのだ。


 しかもソミュールの使う魔法って特定の属性に寄っているとかもないから予想が全然出来ない。

 魔法を発動させてから反射神経だけで避けないといけないとかザラだしね。

 私は物理接触で発動する魔法とかは周りの風で吹っ飛ばすからそのあたりは他よりちょっと楽だ。


「じゃあ次セルちゃんだね」

「もうちょっと休んでたかったなぁ……行ってくるー」

「おう。頑張れー」


 寄りかかっていた壁から離れ、再び手合わせ場に向かって行く。

 途中ソミュールとすれ違ったので手を出してペチンと叩き合わせる。


「早いよ」

「えへへぇ」

「えへへじゃないよ!」


 欠伸を浮かべつつ戻っていくソミュールを見送り、杖を揺らしながら円に向かう。

 ヴィレイ先生がこっちをじっと見ているのはなんでだろう。結構連戦だし一個前がミーファだったから心配されていたりするんだろうか。


 まあ、何かしら別の意味があるのかもしれないので終わった後にでも聞いてみよう。

 何もないならそれでいいしね。……何もないのに真剣な感じで見てこないでほしいけど。

 言っても仕方ないので大人しく円の中に降り、グルグルと肩を回す。


 とりあえず何を考えても仕方ないので、目の前の戦いに集中しよう。


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