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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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19,忘れてなどいませんとも

 授業が終わる鐘が鳴る。

 ぐっと伸びをして荷物をまとめ、人が減っていく教室内を眺める。

 入学してから一か月が経ち、皆慣れてきたので動きには迷いがない。


 次々に教室を出ていく生徒たちを眺めていたら、背後から魔法の気配がした。

 振り返らずにじっとしていると頭の上に本が乗せられる。

 それを手に取って、今度こそ振り返った。


「セルリア。暇か」

「はい」

「準備室の整理を手伝ってくれ」

「はーい」


 乗せられた本は、表紙に初期魔法集と書いてあるので、私に見せるためというより手元にあった本を適当に乗せたのだろう。

 その本ももって杖を抱え、他の荷物も持って経ったら席を立つ。


 後ろに立って私の支度を待っていたヴィレイ先生は、私が立ったことを確認してから歩き出した。

 横に並ぶと左側からでは髪のせいで顔がほとんど見えない。が、先生は基本右側を歩かせてくれないので仕方ない。


「まだ所属を決めてないのか?」

「……強制参加じゃなかったですよね?」

「強制ではないが、ほどんどが参加しているな」

「参加しないと駄目ですかね……」


 ちらっとこちらを見たのを、視線だけで感じ取る。

 目を向けてみてもこちらからは見えないのだ。

 今話題に上がっているのは、放課後に行われる「研究室」のこと。


 研究室と名前は付いているが、その実態は教師の趣味や生徒の希望で作られたその研究室のテーマに沿った活動をするという、まあ言ってしまえば授業ではやらないような遊びのようなことをする場所である。


 故に、別名は「遊び場」であり本当に色々とやっているところがあるのだ。

 入学から一か月も経てば、各種研究室からの勧誘もひと段落してみな自分の所属場所を決めたところである。


 なので、どこにも属さず放課後に暇をしている私は少数派だ。

 ヴィレイ先生はそんな私を見かねてなのか、単純に手が足りていないのかよくこうして手伝いをさせてくれる。


 興味のない人にとってはただの雑用だろうが、先生の受け持つ授業は考古学と魔術であり、どちらも興味しかない私にとっては滅多に入れない準備室の入場許可は願ってもないことだった。


「見て回りはしたんだろう」

「しました。興味があるのも、ありはするんですけど……」

「参加しない理由はなんだ?」

「……なんと、いうか。それだけしか出来ないのは、嫌だなと。狭く深くやるよりも、広く浅く色々見てみたいなと、そんなことを思ってしまいまして……」


 流石に我が儘が過ぎるだろうか、怒られたりするだろうかと先生を窺う。

 窺ったところで顔は見えないのでどうにもならない。


「……まあ、分からなくはないがな。だが、一つ極めることを見つけるもの悪くはないぞ」

「先生は何を極めたんですか」

「極まってはいない。そんなに簡単に極まるものか」

「魔術ですか」


 返事はない。このあたりは、触れてみても教えてはくれないのだ。

 魔術系なら、まあ簡単に関わらせたくないというもの分かる話ではある。

 姉さまの知り合いに何人か魔術師が居るらしいが、皆姿を見せることはほとんどないのだと言っていた。


「さて。今日は本を棚に戻すぞ」

「はーい。ちなみにこれは?」

「それは借り物だ。机の上に乗せておけ」


 言われた通り、一部だけ整えられている場所に本を乗せる。

 この場所がヴィレイ先生の作業場所だ。何をしているのかは知らないが。

 準備室と言ってはいるが、実質先生の研究部屋のようになっている部屋なので、物がとにかく多い。


 棚に戻すための本を手に取るために一旦上に乗っている紙をどかすためにインク瓶とペンをどかすための場所を作るために物をどかす、と言った具合だ。

 もう面倒なので一旦浮かせてしまおう、とものが揺れない程度の風を起こして上に物を乗せる。


 何も言われないので、これはやってもいいことだ。

 魔法を使ってはいけない時は、まず最初に杖を置くように言われる。

 ただ、杖を持っていると片手が塞がって面倒なので他に人もいないしいいか、と杖置いて指に魔力を集め始める。


 普段は使わないが、私はいくつか魔導器を身に付けている。

 普段からつけている指輪二つのうち一つが魔導器であり、普段から荷物に忍ばせているタスクの杖があるのだ。


「どこで作った?」

「杖は両方ガルダの店です。リングは……貰いもの?モクランさんがくれました」

「なら見立ては問題ないか」

「壊れそうに見えますか?」

「いや、確認だ」


 きっと、この部屋が飛んだら困るから確認を取ったのだろう。

 リングと呼ばれる指輪型の魔導器は、他の魔導器に比べて圧倒的に歴史が浅く、魔力を込めすぎると割れてしまうのだ。


 割れるときはそれはそれは盛大に魔力が爆発するので、この部屋の中くらいなら余裕で吹き飛ばせるだろう。

 流石の先生もそれは防ぎきれないのか、防げるとしても面倒なのか不穏な動きをするとすぐに止められてしまう。


「さて。話題を戻すぞ」

「やめときましょう」

「研究室、気になってるところはどこだ?」

「聞いてくれない……えっと。魔道具の研究と、新魔法創生部?」

「……まあ、分からなくはない選び方だが」

「あとは鑑定」

「それはどうしてそうなったんだ」


 先生が動きを止めてジトっとした目を向けていた。

 ……駄目だろうか、鑑定。楽しそうだと思ったのだが。

 それがしたいなら研究職に行っておけということなのだろうか。


「最初に出した課題は覚えているな?」

「……難しいです」

「だろうな」


 当然のように言いながら作業に戻った先生の背中を恨めし気に見つめてみても、反応はないので仕方なく整理に戻る。

 どうしたものか。と考えてみるが、忘れてはいないが考えないようにしていたので改めて悩む。


 作業をしている間に話題も逸れ、整理に集中していると最終的には思考の外に追い出されていく。

 結局今回も改善は見られず、まだ時間はたっぷり残っているので諦めて本の戻す場所を探す。

 ……なんでこんなにも棚があって、これだけ埋まっていて、そのうえでこんなにも外に出ているのか。先生はもしかしなくても整理整頓ができない人なのだろうか。



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