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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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176,放課後の片付け

 授業終了の鐘が鳴る。先生が授業を締めくくって教室を出て行ったのを見送ってぐっと身体を伸ばした。

 クリソベリルの特別授業から二日ほどが経って、ようやく生徒たちも落ち着きを取り戻してきた感じがする。


 去年の私はクリソベリルの来訪に全く気付いていなかったわけだけど、それだけ周りへの関心がなかったのかと自分でびっくりした。

 それでもシャムとかは知って居ただろうし、シャムが話題に出していたなら私も多少覚えていそうなものだけれど。


 なんて考えながら荷物をまとめていたら、頭の上に何かが乗せられた。

 重さ的に教科書か何かだろう。手に取って表紙を確認すると、思った通り私が今年使っているのと同じ教科書だ。


「暇か、セルリア」

「はい。暇ですよー」


 私の頭の上に無言で物を乗せるのなんてヴィレイ先生くらいなので、振り返って普通に返事をしつつ本を返す。

 歩き出したヴィレイ先生を追って教室を出て向かう先を確認すると、魔術準備室であることが分かった。


「今日は掃除ですか」

「ああ」

「ああって……一週間前くらいに片付けたのに……」

「以前よりは酷くない」

「それ先生基準じゃないですか」


 そう言われた部屋が酷くなかった時がないのだ。

 ヴィレイ先生は他の事ならともかく部屋の散らかり具合については一切信用が出来ない。

 本当にもう、なんで私が片付けるのが当たり前みたいになってるのかなぁ……せめて時々のお手伝いくらいにしておいて欲しい。私を主体にするな。


「そういえば、何を考えこんでいたんだ」

「え?……ああ、去年クリソベリルが来てた時はこんなに賑やかになってるの気付かなかったなぁって思いまして。私が周りに興味ないにしても話題すら気付かないのはどうなんだろうって」

「それか。まあ、話してしまってもいいか」

「あ、何か仕掛けがあるんですか」

「一学年だけでもこれだけの騒ぎになるからな。他は認識出来ないように魔法陣を組んである」

「なるほど……」


 姉さまと出店リコリスが関連付けられないように認識の阻害をしているあれと同じ感じかな。

 規模が大きいけど、期間が短いからそのあたりでどうにかしているのだろう。

 詳しく聞いたら教えて貰えるだろうか、なんて考えながら、到着した魔術準備室の現状にため息を吐く。


「短期間でよくぞここまで……」


 呟いた言葉に返事はなかったので諦めて掃除を始めることにした。

 一週間でなんでここまで、とも思うけど、休み明けとかに比べればマシなのでさっさと終わらせてしまおう。


 そんなわけで片付けを始めたのだが、どれがどこにあるべき物なのか大体把握してしまっているという事実に何とも言えない気持ちになる。

 そりゃあ、なんだかんだ入学したころからやってるからもうすぐ丸二年になるんだから把握もしていておかしい事は無いんだけど……


「……あれ?ヴィレイ先生、棚の奥に魔石転がってますけど」

「ん?……ああ、こんなところにあったのか」

「また無くしてたんですか……」


 うっかり触らない方がいい物とかも普通に転がってるから、見覚えのない物は声をかけて確認してもらった方がいい。

 この部屋はヴィレイ先生の研究室になっているけど魔術準備室だから魔術系のものも置いてあったりするんだよね


 そんな部屋の掃除を私がしてるのはどうなんだろう……と考えたのも一度や二度ではない。

 なんてうだうだ考えている間にも着々と部屋は片付いていく。

 私、入学する前と比べて一番伸びた能力は混沌とした部屋を整理することだと思うんだよね。


「……セルリア」

「はい?」

「槍の扱いを覚えたいそうだな」

「はい。風の槍を強化するのにやってみたいなぁって」

「アガットが暇を見て教えると言っていた。そのうち声がかかると思うから放課後にあまり予定を入れるなよ」

「アガット先生って、槍の担当の先生ですよね」

「ああ」

「やったー!ありがとうございます!」


 シャムに教えて貰って槍の担当をしている先生は知っていたのだけれど、声をかける勇気がなかったのでいつかやりたいなぁとぼやくだけになっていたのだ。

 そんな私を見かねたのか、単純に話を聞いたからなのか話を通しておいてくれたらしい。


 ヴィレイ先生はやる気がある生徒には結構世話を焼いてくれる。

 私が片付けてるこの部屋のものも大半は授業で使う物だったり生徒の為の物だから、やっぱりいい先生だ。それでももう少し片付けておいてほしいけど。


「そういえば、クリソベリルって学校に勧誘目的で来てるんですか?」

「目的の一つではあるかもしれないが、それが全てな訳じゃない。国王がクリソベリルに教えを乞うたことがあるらしく、その頃の縁で若者の育成に手を貸している」

「なるほど……」

「勧誘だけが目的なら四年目に見に来るだけで済むからな」

「あ、確かに。二年あれば相当伸びますもんねぇ」


 クリソベリルって次世代育成好きだからそれで来てるのかと思ったら、国王様が呼んでいたらしい。

 姉さまから話を聞いたことがあるけれど、フォーン建国時から何かと手を貸していたらしいしこれもその一環……なのかな。


「お前も誘われたのか」

「はい。選択肢の一つにって」

「なんだ、保留にしたのか?」

「まあ、後二年で私が何始めるか分かったもんじゃないので」


 今後本格的に冒険者活動をするとして、そこでまた何か別のものに興味が移る可能性も大いにあるのであまり先のことに返事は出来ないのだ。

 急に空を飛ぶのをやめて地面に潜る可能性もある。私が一番私の事よく分かってないから可能性だけなら無限にある。


 とりあえず今は新しい魔法の習得と風の槍の威力上げとレイピアの練習に忙しいから他の事あんまり考えたくないんだよね。

 そのあたりも察していたのか、先手を打って「選択肢の一つ」として言うだけ言った感じなんだろう。


「卒業時に悩むことになりそうだな」

「うーん……まあ、その時やりたいことを優先する気もします。最悪家に帰ってちょっと考えます」

「気軽に決めるよりは良いだろうが……」

「二年後ですからね、今は分かりませんよ」


 そんな話をしている間に片付けは終わり、お駄賃代わりにヴィレイ先生が貸してくれた本を早速開く。先生の私物らしいけど、これどこで見つけたんだろう。

 見たことも無い古代魔法についての研究書みたいだ。


 持ち出し禁止と言われたので夕食の時間ギリギリまで魔術準備室で読み耽り、鐘が鳴ってから本を返し全速力で食堂に向かうことにした。

 続きもそのうち読ませて貰えるらしいので楽しみにしていよう。


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