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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
173/477

173,特別授業・午前

 歓声に迎えられて入ってきたクリソベリルは、全員私が知っている人。

 まあ先に聞いてたから知ってたけど、実はあったことない人もいるからなぁ。

 モクランさんは結構会うけどリュヌさん久しぶりに見たな。


「静かに。今回はこの四名に授業を行ってもらう。各自勝手な真似はせず指示に従うように」

「私たちは今日主体にはなりませんが、見ていますので失礼なことはしてはいけませんよ」


 生徒の移動も終わったので先生たちも中央に集まっている。

 しっかり釘をさしてくるあたり毎年何かしらあるのかな。

 ……まあ、あるんだろうなぁ。こんなに盛り上がってるわけだし。


 そんなことを考えながら話を聞いていたら、ツルバミさんと目が合った。

 驚いたように微かに見開かれた目に、思わず顔を逸らす。

 魔法の方にいると思ってたんだろうなぁ。自分でも魔法にいて当然だと思うんだから。


 ジェードさんが話したりしてるかとも思ってたんだけどそんなことも無かったみたいだ。

 というかむしろ、ツルバミさんが驚いていることに微かに笑っている感じがする。

 もしかして面白そうだから黙っていたとかそういうことなのだろうか。


「それでは、授業を開始する」


 考えている間にヴィレイ先生の号令がかかった。

 とりあえずこちらにしっかり集中して、何かしらの成果を得たい。

 ロイも居るし、今回はミーファとリオンに置いて行かれても心は折れないだろう。


「さて、それじゃあ物理近接の子たちはとりあえず移動しようか。場所は外だから、まあ移動してから話をしよう」


 ジェードさんの声が柔らかく響く。耳心地のいい声は昔から変わらない。

 コガネ姉さんがジェードさんと仲良しなんだよね。

 なんでか聞いてみたら、ジェードは実は狐なんだよと冗談めかして言われたことがあった。


 一回信じた後に流石に冗談だろうと思い直したのだけれど、ジェードさん本人から実は祖母が狐獣人でクオーターなのだと教えて貰った。

 コガネ姉さんは最初から気付いていたらしいけど、なにで判断していたのだろう。


「よし。じゃあまずは俺の自己紹介から始めようか。大体の人は初めましてだしね。

 俺はジェード。近接系の武器は大体扱えるから、全員に何かしらは教えられるんじゃないかな」


 外は晴天で、気持ちのいい風が吹いていた。

 これ、もし雨が降ったら場所足りなくなりそうだなぁ。

 そうならないように日程決めてたりするのかな?


 クリソベリルと先生たちを合わせれば誰かしら出来る人がいるだろうし、結構ギリギリまで言われなかったからそうだとしても不思議はない。

 言ったら騒ぐから、っていうのもあるんだろうけどね。


「授業って言っても、そもそも普段から人に教えてるわけじゃないしどうしようかと思ってたんだけど……それぞれがやりたい武器を俺が扱って見せるのが一番分かりやすいかな」


 人数は綺麗に四等分されたみたいだ。どこからかなんかやってるツルバミさんの声も聞こえてくる。

 なにしてるんだろ、やたら元気だな。ジェードさんも気になるのか声のする方を見ているし、本当に何をしているんだ。


「……気にしたら負けか。ツルだしな。うん、よし。こっちもさっさと始めようか」


 何をしていたのかも分からないし何に納得したのかも分からないけれど、気にしたら負けらしいのでとりあえず動き出したジェードさんを目で追うことにした。

 向かう先は、あらかじめ用意されていた多種多様な武器が納められている箱のようだ。


「何からやろうか。……というか相手欲しいな……ヴィレイさん」

「……誰か捕まえてくる」

「たまにはどうです?この感じ、普段生徒の前でやってないんでしょう」


 ……この流れはもしかして、ヴィレイ先生が戦闘面で授業に参加する感じだろうか。

 普通に強いとは聞いたことがあるけれど、本人が断固としてやってくれないから見たことがないヴィレイ先生の戦闘は非常に興味がある。


 というかジェードさんは見たことあるのか。

 もしかして先生クリソベリルとも面識がある……?

 実は冒険者登録してて高ランクだったりする……?


「……はぁ……仕方ない」


 面倒くさそうにため息を吐きつつ、ヴィレイ先生が持っていた紙を片付けて前へ出てきた。

 こんなに早く諦めるのは珍しい気がするけれど、もしかして過去に押し問答をして丸め込まれた経験とかあるのかな。


「先生が素早く動く瞬間すら珍しいのでは……?」

「ヴィレイせんせー走ったりしねぇもんな」

「楽しみだね……!」


 こんなに面白いことになるなら、もっと前の方陣取っとけばよかったなぁ、なんて思いながらどうにか人の隙間から見える位置を探す。

 リオンとロイは他の人の頭の上から見えてるみたいだけど、私とミーファは埋もれてしまっている。


「……まあ、見るのも勉強だし怒られないでしょ」

「セルちゃん?何かするの?」

「ミーファもおいで、ちょっと浮いちゃお」

「わあ……!」


 他の人の邪魔にならない程度に風で身体を浮かせる。

 ミーファが丁度右側に居たので手を繋いで一緒に持ち上げた。

 うん、よく見える。ちょっと振り返ってみたらロイが指で丸を作っていたので問題もなさそうだしこれで行こう。


 周りもみんなクリソベリルの剣術が見られるという興奮とヴィレイ先生が戦闘に参加するという驚きでいっぱいなので私とミーファが浮いている事を気にする様子はない。

 先生は気付いているだろうけど何も言わないあたり、浮いているのは問題ないんだろう。


「使う人も多いだろうし、片手剣からやっていこうか」


 箱の中から練習用の片手剣を抜き取ったジェードさんがヴィレイ先生に向き直る。

 ヴィレイ先生は何も持たずに長い袖に隠された腕をゆったりと広げて、静かに立っていた。

 閉じられていた目が開かれる。その綺麗な青銀の瞳が、記憶の中の何よりも冷たい色をしているから、思わず繋いだミーファの手をぎゅっと握ってしまう。


 視線の先ではジェードさんが剣を何度か振って何かを確かめており、それが終わったのか剣を構えて短く息を吐く。そのまま開始の合図も何もなしにジェードさんが踏み込んだ。

 ヴィレイ先生は避けるわけでもなくそれを見て、すっと右手を前に出す。


 剣が当たる直前に恐らくは手のひらだろう場所に半透明の何かが現れ、金属的な音を立てて剣を弾いた。先生の周りをクルクルと踊るように剣が振るわれ、先生は向きを変える程度でほとんど動かず全てを弾く。

 それが少しの間続き、ジェードさんが距離を取って構えを解いた。


「……こんな感じでやっていくけど、見たい武器とか質問とかはあるかな?」


 にこりと笑ったジェードさんに、勢いよく複数人が手を挙げた。

 勢いが良すぎてバッという音が聞こえたくらいだ。

 ……あ、この音リオンが手を挙げた音か……通りで良く聞こえるわけだわ。


 その後かなりの種類の武器の扱いを見せてもらい、質問への受け答えをして午前中の授業時間が終了になった。キリがいいからと少し早めに終わったようで、魔法組はまだ何かしているようだ。

 ヴィレイ先生が大分お疲れなのか壁に寄りかかっていたので、昼食を食べに食堂に移動する前にちょっと寄って行ってみることにした。


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