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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
170/477

170,賑やかな学校内

 その日は朝から皆落ち着かない様子で、食堂の賑やかさもいつも以上だったような気がする。

 理由としては、分かりやすいのが一つだけ。

 私たち二年生が対象の、校外から特別教師を招いての特別授業が行われるからだ。


 内容的には戦闘職が対象ではあるけれど、来る人が来る人だから研究職も対象にして丸一日特別授業の日になる。

 そしてその特別教師が、第三大陸のガルダに拠点を置いて活動している冒険者パーティー、クリソベリルなのだ。


 有名人が来るってなるとそれだけで盛り上がるものらしい。

 クリソベリルは人数も多いので、誰が来るのかも話題の一つのようだ。

 シャムがモクランさん来るかなぁ、とウキウキしてたなという印象が強い。


「セルー」

「ん、リオン。何してんの?」

「林の方行こうぜ、もう来てるらしいぞ」

「へぇ。授業は明日なのにね」

「反応薄いなお前」

「まあ知り合いだし」

「俺は見てぇから行こうぜ」


 廊下の反対側から歩いて来たリオンと合流し、まあ別に他の用事もないからと林の方へ足を向ける。

 徐々に人が多くなっていくから分かりやすい。

 さて、誰が来ているのか。誰が来てても問題は無いんだろうけど、何を基準に選んでいるんだろう。


「おー、すげぇ人」

「もう嫌になってきたんだけど」

「セルって人混み嫌いだよなぁ」

「森の中でのびのび育ってるからね」


 ダラダラと話しながら人混みの中を進み、途中で私が嫌になって別の道から行くことにした。

 別の道、それすなわち窓。飛び降りるわけじゃなくて飛んでるからセーフってことにしよう。

 そんなわけで窓から外に出て林の方に歩いて行ったら、何やら冷気が漂ってきていることに気が付いた。


「……ツルバミさんだ」

「え?なんて?」

「ツルバミさん。クリソベリルの魔法使い。属性は水で氷を扱うのも得意な人」

「おう。それが?」

「居るしなんか魔法使ってる」

「……なんで?」

「さあ。魔法使うの趣味だからじゃない?」


 適当言うな、みたいな目を向けられても困る。

 ツルバミさんは本当に魔法使うの趣味なんだよ。

 使えない魔法でもとりあえず演唱丸暗記してるくらいの魔法バカなんだよ。


 流石の私も使えない魔法の演唱を覚えたりはしない。

 そんな話をしていたら、少し先を漂っていたはずの冷気が足元にまで忍び寄ってきていた。

 反射で風を起こして身体を浮かせ、リオンも上に持ち上げる。


 次の瞬間先ほどまで立っていた場所に氷が張られ、生えていた花が氷の中に閉じ込められていた。

 それもすぐに溶け、水が地面に染み込んでいく。

 クツクツと笑う声が聞こえたので地面に降りたってリオンを下ろし、そちらに目を向ける。


「上達したじゃねえか、セル」

「お久しぶりです、ツルバミさん」

「ごめんねセルちゃん、うちの馬鹿が」

「馬鹿って言うな」


 予想通りニヤニヤしながら杖を揺らしていた背の高いおじ……お兄さんが居たのでとりあえず挨拶をしておく。

 その後ろからツルバミさんの相方的立ち位置のジェードさんも顔を出した。


「というかツルバミさんが来たんですね」

「まあ、うちで攻撃の魔法使いってツルとバンゼスとアナベルだけだからね」

「モクランさんは?」

「モクランは一応サポートだし。あ、モクランも来るよ。アオイちゃんの所寄ってから来るから遅れてるけど」

「そうなんですか」


 確かにクリソベリルは魔法使いより物理攻撃手が多いイメージがある。

 実際そうだったんだな。初めて知った。

 そんなことを話していたら、リオンが横で固まっていた。……どうしたんだろう、珍しい。


「まあいいじゃねえかよ。暇かセル」

「暇ですけど嫌です」

「せめて聞けよ」

「というかリオンどうしたの?」

「何でも、ねえけど……」


 ツルバミさんのお誘いは大抵魔法系の遊びだ。

 楽しいからいいんだけど、ここでやったら目立ちそうだからちょっとご遠慮したい。

 またそのうちクリソベリルの拠点に遊びに行くだろうからその時に遊びましょ。


 昔から遊んでもらった記憶があるのでツルバミさん自体は好きなのだ。

 ただ、ちょっと魔法関係でお互いにテンションが上がり切ってやらかして怒られた記憶もいっぱいある。


「人集まってきちゃったしそろそろ行った方がいいかな」

「おー。じゃあなセル。また明日」

「はーい、明日はよろしくお願いします」


 喋っている間に私たちが居た建物と壁の間にまで人が集まりだしていたようで、ジェードさんとツルバミさんは去って行った。

 久しぶりに会ったけど何も変わってなかったなぁ。


「ところでリオンはどうしたの?さっきも聞いたけど」

「いや普通緊張するだろ!?」

「え、姉さま相手には全然平気そうだったじゃん」

「アオイさんはセルの姉ちゃんとしか思ってねえし。クリソベリルは知ってっから緊張するんだよ」

「なーるほど。とりあえずシャムにモクランさん来るらしいよって言いに行こ」

「おう」


 私は最初から姉さまの知り合いの人たちとして関わってるから、すごい人なのは認識しているけど会ったら遊んでくれるし魔法も教えてくれる人くらいの認識なんだよなぁ。

 リオンは正しく冒険者パーティーとしてのクリソベリルを見てるんだろう。


 まあ、私はそれでも時々会うと遊んでくれるお兄さん達だと思ってるけどね。

 モクランさんは姉さまの恋人なんだろうと思ってるからちょっと認識違うけど。

 なんだかんだ明言されてないけど、あの二人どういう関係なんだろう。


「あ、シャムいた」

「あれー?セルちゃんとリオンだー。何してるの?クリソベリル見てきたの?」

「そうだよ。モクランさんも後から来るってさ」

「本当!?やったー!」


 伝えた瞬間、ピョーンと見たことも無い高さまでシャムが跳んだ。

 え、凄い。シャムってそんなに跳躍力あったんだ。知らなかった。

 ミーファが軽く跳んでるくらいの高さが出てる。ミーファはウサギの獣人だからね、跳ぶことに関しては本職と言っていい。


 シャムのテンションが一気に上がって、それに釣られるようにリオンも徐々にテンションが上がっていく。

 というか、緊張が解けて興奮が表に出てきたんだろうなぁ。そんな二人の様子を眺めつつ、私は明日までに決めないといけないことがまだ決まっていないことにため息を吐くのだった。


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