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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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17,集中するのは悪いことではないので

 部屋に戻り、杖を置いてぐっと伸びをする。

 夕食の時間の、食事を終えた後。昨日までは暇を持て余すだけだったその時間に、今日はリオンと色々話をしたのだ。


 お互いの家族の話やら、自分の攻撃手段の話やら。

 統一性も何もなく、ただお互いに聞きたいことを聞いて聞かれたら答える。

 その時間は思ったよりずっと楽しかった。聞いたことのない話も色々とあったし、これは良い話題が出来た、とウキウキで引き出しにしまったレターセットを取り出した。


 普段は使わないのでしまっているペンも取り出し、それを使うためにインク瓶も引っ張り出す。

 普段使っているのは中にインクを染み込ませて使うペンで、付けペンは荷物が増えるからと引き出しで眠っているのだ。


 でも、このペンもお気に入りなので。

 手紙を書く時くらいこれを使ってもいいだろうと取り出して、久々にインクを付ける。

 付けてからどう書き出そうか考えて、一度ペンを走らせれば話したいことが色々あるせいでペンは止まらない。


 とにかく、心配はいらないのだと。

 今、知らなかったことを学ぶのはすごく楽しいと。

 そんなことを最後の締めにして、名前を書いてから見直してインクが乾くのを待って封筒に入れる。


 封を閉じて、先に宛名を書けばよかったと小さな後悔が一つ。

 ……それは次回の反省点にするとして、宛名はどうしようかと考える。

 主に姉さまとシオンにいが読むだろう、と書きはしたが、向けた先は家の全員だ。


 ならば、と封筒の表に「薬屋・リコリス」と書いて乾かし、裏に自分の名前を書いて満足の息を漏らす。

 これで届くはずなので、問題はないだろう。届かなかったら帰ってくるだけなのでそうしたら宛名を直せばいいだけだ。


 手紙を出したいときは中央施設の中にある届け物係、なる場所に行けばいいらしい。

 生徒宛のものはそこに一旦預けられ、中身に問題がないことを確認してから生徒のもとに届く。

 生徒が物を送る時も同じで、中身が問題になるものでなければ宛名の場所に届けてくれるらしい。


 明日は休みだ。朝にこれをお願いしに行って、そのまま読書に耽ろう。

 そんなざっくりとした計画を立てて今日は早めにベッドに入る。

 朝から読書に勤しむ予定なので、夜更かしする気はないのだ。基本的に、木漏れ日の下で本を読む方が好きな性格をしているので。


 今日は午前授業だったが明日は週に一度の全休である。生徒の多くは街に出ているだろうからきっと図書館はいつもより空いている。

 そうでなくとも席に困ったことはないのだが、静かならその方がいい。


 うるさい中で読書が出来ないわけではないけど、どうしても気になってしまうものなのだ。

 図書館はうるさいことはほとんどないが。

 あまり騒いでいると、怒られるかつまみ出されるらしい。


 何を読もうか、なんて考えている間に眠っていて、光に起こされて目を擦る。

 時間を確認するといつもの点灯時間だ。ぐっと伸びをしてベッドを降り、顔を洗うために廊下に続いている扉とは別の扉を開けた。


 こちらの扉の先には、狭いながらも脱衣所とトイレ、シャワーが存在する。

 個人部屋のそれぞれに付いていて、人目を気にしなくていいので大変有難い。

 欲を言うならバスタブが欲しいが、言うつもりはないのでこれで満足だ。


 顔を洗って髪を梳かして、服を着替えてからいつもつけている髪留めで髪の上の方だけを回収して後ろで止める。

 余計な髪が落ちてこないことを確認したら手紙と杖、そして借りてある本をもって部屋を出た。


 朝食はどうしようかと少し迷ったが、今日は休みである。

 普段は時間が決まっていてその時間でしか食べられない食堂は、今日は有料であるがいつでも食べられる食事処に変化している。


 なら急がなくてもいいだろう、と手紙を出しに行き、そのまま中庭を通って図書館に向かう。

 とりあえずは今借りている本を返して、そのあと何を読もうかと心を躍らせながら中庭を進んでいく。


「あら、おはようございます」

「おはようございます。これ、返却をお願いします」

「もう読み終わったのね。……今日はお休みなのに、街にはいかないの?」

「買うものもないですから。冒険者登録もしてませんし」

「ふふ。まあ、アオイさんは心配しそうだものね」


 この図書館の先生とは軽い世間話をするくらいの仲になっていた。

 私がほとんど毎日来るのが大きいのだと思うが、先生も意外とおしゃべりに付き合ってくれるのだ。


 図書館の先生、と言っているが、普段から図書館の管理をしているというだけで授業も行うことがあるらしい。

 ちなみに、お名前はレースさんというそうだ。


 姉さまの話も出てくるし、知り合いなのだろうか。

 今度姉さまに聞いてみよう、と思っているのだが、そもそもこの学校の先生たちは皆姉さまと知り合いのような気がする。


 学校自体と付き合いがあるのかもしれないが、少なくとも私は知らない。

 薬を卸していたりするのだろうか。ありそうな話ではあるが。

 ……そんなことを考えていたら、読む本が決まらない。


 何を読もうかしらーっと本棚の間をうろつき、そのまま行ったことがなかった二階部分に行ってみることにした。

 こちらにはどんな系統の本が納められているのか。考えただけで心が躍るようだ。


 ウキウキしながら階段を上がり、吹き抜けになっている中央部分から何となく下を見下ろして本棚に向かう。

 目的の本がないので、何も考えずに本棚の間を移動する。


 目についた本をパラパラとめくって数冊を手に取り、階段を下りて読書スペースに向かう。

 いつも使っているので、定位置になりつつあるソファに腰かけてサイドテーブルに本を置き、積んだ順に本を開いた。


 一度開けば、基本的に止まらない。

 読み耽って最後まで一気読みして、満足の息を漏らして本を閉じるとじいっとこちらを見ている金色と目が合った。


「……あ、ごめんなさい。驚かせた?」

「まあ、そりゃ、驚いたけど……」


 金色の瞳を輝かせてこちらを見ていた少女は、目が合ったのを確認して楽し気に笑う。

 この距離間でずっと見られていたのも驚きだが、全く気付かなかった私にも驚く。


「ごめんね、読書の邪魔しちゃ悪いと思って」

「こちらこそ、気付かなくてごめんなさい?」

「私が勝手に待ってただけだよ。ねえ、少し話さない?」

「いい、けど……」


 話すなら、移動しないといけないだろう。ここは図書館で、話すための場所ではない。

 本は一冊しか読み終わっていないので、手元に持ってきていた残り二冊のうち一冊は借りていくことにして後は本棚に戻しに行く。


 そのことを伝えて席を立つと、少女も当然のようについてくる。

 楽し気に揺れる茶髪は、ハーフアップを後ろ気味に二つに分けていた。

 ……見覚えは、ない。休みなのに着ている制服から研究職の生徒だということは分かるが、私に声をかけてきた理由も分からない。分からないが、悪い予感はしなかった。


前話の公開日とその翌日に怒涛の勢いで評価をいただきまして、どうもありがとうございます。

普段あまり評価等増えることがないので一気に増えたことに脳をバグらせながら喜び舞い踊っております。有難き有難き……

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