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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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166,鑑定授業の進み方

 手元に置かれた二つの石を見比べる。

 大きさと形は大体同じ。色の濃淡が違うかな?

 ……光、光欲しい。ライトどこだろう。


 光源を探して机の上に目を向けるとミーファが眉根に皴を寄せながら石二つを眺めているのが見えた。集中しているからなのかいつもは別方向に向いている耳がしっかり前を向いている。

 そんなミーファ観察もほどほどに、見つけたライトを引っ張ってきて手元の石を照らす。


 ……お、光当てると結構違うな。

 片方は光を通さないけれど、片方は光を乱反射させる。

 んーっと、これは乱反射させる方がお題の石ですね、こっち。


「……セルちゃん終わった?」

「うん、終わった」

「ライト借りてもいい?」

「どうぞー」


 ライトをミーファに渡して、石を持って席を立つ。

 向かう先は教卓横の椅子に腰を下ろして本を読んでいるラタム先生のところ。

 歩いていく足音で気付いたのか、先生が顔を上げた。


「判断ついたかな?」

「はい。こっちが蜃中石だと思います」

「……うん、正解。じゃあ次はこれが何か当ててね」

「分かりました」


 鑑定の授業は基本的にこうやって個人進行で進んでいく。

 私とミーファがさっきやっていた二つの石から指定された石を選ぶのは今日の二個目の課題で、リオンはまだ一個目の課題に唸っている。


 選択授業なのでミーファとリオンは同じ授業だけど、ソミュールはこの時間星詠みなのでここには居ない。星読みの授業ほとんど寝てるけどプリントは貰えるから嬉しい、なんて言いながら放課後に教室でプリントを眺めるソミュールにくっ付いて横から内容を読むのがこの選択授業があった日の恒例行事になっている。


「よし。……あ、セルちゃん」

「お、ミーファも終わった?」

「うん。行ってくるね」

「二人ともすげぇな……」

「リオンはどうにかなりそう?」

「そろそろ記述部分見つかる気はする」

「そっか、頑張れ」


 一つ目の課題である木片とそれに付いての記述が乗っている本をペラペラと捲り続けているリオンの横に腰を下ろし、三つ目の課題である液体に使った花の瓶を両手で持って観察する。

 ……液体漬けにしないといけない花、か。


 そもそもこの液体何だろう。水より粘度があるからそういう保存液だろうけど……とりあえず花を観察しよう。

 見覚え、あるんだけどどこで見たんだったか。


 花自体はそれほど特別珍しい形ではない。

 白い花弁が十枚、その下にしっかりとしたがく。色は深緑で、同じ色の茎にはギザギザした葉っぱが二枚付いている。


 おしべとめしべは取ってあるみたい。

 保存するのに邪魔なのかそもそも用途的に必要ないかの二択だろう。

 花図鑑で見たならこの状態で見覚えはないはずなので、他の場所で保管状態で見たことがあることになる。


 となると家かな?薬の材料ならある程度見覚えはあるだろう。

 候補は絞れたので、本を捲って目的の物を探し出す。

 このあたりに書いてありそう。……えーっと、花弁は十枚、色は白……


「お!!これだろ!」

「見つかった?」

「おう!!」

「リオンうるさいぞー。音量落とせー」

「サーセン!」


 一つ目の課題の正解を見つけたらしいリオンが勢いよく立ち上がり、そのまま先生の方へ歩いていく。

 ミーファはいつのまにやら戻ってきていて私の前で花の入った瓶を眺めていた。


 先生に木片を渡して勢いのいいガッツポーズをしているリオンを確認してから花の正解を探す作業に戻る。

 この本は情報量が非常に多く、絵とかは無くて全て文章なので探すのは結構大変だ。


「セル、セル」

「なあに?」

「今回俺最後じゃなかったぞ」

「お。おめでとーう」


 毎回第一課題で最下位争いをしているリオンは最後じゃない場合こうして報告してくる。

 今回は時間はかかったけど一発正解だし、さては一回あてずっぽうして怒られたの気にしてるな?

 ラタム先生怒ると怖いからなぁ。ヴィレイ先生も怖いけど、慣れてるせいであんまり気にされてない感じがある。


 さて、私はこれを終わらせて三課題クリアで終わりたい。

 なのでとりあえず流し読みで内容を把握していく。

 白、白……花弁十枚、葉っぱの形……お、これかな?


 用途は一旦置いといて、保存時の注意事項は……うーん、違うみたい。

 というか、この液体思い出した。

 薬学書に作り方乗ってるやつだ。保存用でもあるけどこれを使って薬も作れる。


 姉さまが一時期ひたすらに花の種を漬け置きして効果を見ている時に使っているのを見た記憶がある。

 薬学以外で用途はないってコガネ姉さんが言ってたから、これは薬学関係の花で確定だろう。


 と、いう事はこのあたりは飛ばしていいな。

 ここら辺から……よし、みっけ。しっかり内容を読んでみた感じ使用の際におしべとめしべは使えないので保存する際に取ってしまう方がいいって書いてあるし、これで合っていそうだ。


「は、セル早くね?」

「知ってるやつだった。行ってくる」


 瓶を持って席を立ち、終了準備を始めた先生のところに駆けこむ。

 気付いて手を止めて待っていてくれるのでとりあえず急いで傍まで寄る。

 ニコニコしながら待っていてくれるから駆け寄る側も気が楽だ。


「早かったね、知ってた?」

「はい。途中で思い出しました。アルアレーテの保薬液漬けですね」

「うん、正解。これで終わりになるからそのまま戻っていいよ」

「はーい」


 瓶を渡して席に戻り、こちらをじっと見てくるリオンにピースを向ける。

 いえーい。これで今回は第三課題クリアでゴールです。

 ミーファは拍手をしてくれた。


「はい、じゃあそろそろ終了時間だから今回の課題……四つ目に行った子が居たから四つ分解説しようか。一個目は全員終わってるけど、一応説明は入れるからちゃんと聞いてねー」


 鑑定授業の最後はその日の課題の見分け方や判断のための特徴を解説してもらって終わりになる。

 その日一番進んだ人に合わせて解説がされるので私は見なかった四つ目の課題も見ることが出来るのと、単純にラタム先生の解説は聞きやすいので聞いていて楽しいのだ。


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