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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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16,これは友人と言っていいのでは

 一日の授業が終わり、いつものように図書館へ向かう。

 借りていた本を返して、別の物を借りて部屋に戻り、いつも通り夕食の時間までその日の復習をしたり魔法の練習をしてみたりと時間を潰す。


 夕飯の時間を知らせる鐘が鳴って、ため息をついて部屋を出た。

 食事が終わってもその場にいないといけないし、話す相手もいないしで暇なのだ。

 本は汚さないようにと置いて行っているので、やることと言ったら杖をいじくりまわすくらい。


 言っても仕方ないのでいつものように食事をもって空いている一角に座る。

 淡々と食事をしていると、なんだか近くに人が寄ってきている気配がした。

 ここくらいしか座る場所がなかったのだろうか。


「よ。ここ座っていいか?」

「あ、リオン。いいよ」


 やけに近いな、と見上げると、そこにはにいっと笑ったリオンが立っていた。

 ふっ……さては君も暇を持て余した勢だな?

 ……でもリオンはそれほど浮いている気はしないので、普通に話す相手はいると思うのだが。


「リオンって、他に話す相手居そうなのに」

「んー?あー。俺、混血だからさ。なんか広められたっぽくて避けられんだよ」

「え、馬鹿馬鹿し……っんん。大変だね?」

「もう言い切れよ。そこはもう」


 呆れたような目を向けられたが、そこは言わない約束だ。

 言い切ってしまった感はあるけども、誤魔化さないといけない気もするので。


「セルリアのそれって、結構貴重な感覚だと思うぜ?」

「えー?家の中はこんなんだったけど」

「いや、それが珍しいわ」


 余計に呆れたような目をされた。

 ……そんなに変なことを言っているだろうか。

 そもそもこの国は全面的に差別を否定しているのだから、混血だと騒いでいる時点で法律違反なのだから、気にしない分には何もおかしくはないだろう。


「そうは言ってもさー。言われてすぐに常識って変わんないだろ」

「私の中の常識ではそもそも気にしないんだけど」

「その常識は一般的な認識じゃねえわ」

「えー……」


 そんなに全面的に否定するほどだろうか。……ほど、であるらしい。

 姉さまの知り合いは混血のことが多いし、何なら家の中に人間は私と姉さまだけだった。

 その状態で育って、どうやって混血だの亜人だのを否定しろと言うのだろうか。……この感覚がおかしいと言われたら、まあ否定は出来ないので何も言わないが。


「居るだけで嫌そうな目ぇされっからさ。セルリアはそういうのなくて居やすいわ」

「そう?良かったね」


 食事をつつきながらそんなことを言うリオンに気のない返事を返したら、また微妙な顔をされた。……その顔、最近の流行りか何か?

 そういうのには疎いから、よく知らないんだよね。


「ミーファもそうだと思うぜ?分かりやすく獣人だし」

「……急に朝の挨拶とかされることがあったけど、それ?」

「それだろうなぁ。普通に返事くれんのが嬉しいんだろ」

「ほーん……なんていうか、大変だね」


 今まで触れてこなかったけれど、この差別云々の遺恨は深いらしい。

 姉さまは本当にそういった意識が全くなく、どちらかと言えば積極的に関わって行こうとして、関わろうとしすぎて怒られてしまっていたりする。


 あの人の感覚は本当におかしいらしい。何となく察してはいたが、どの程度ずれていたのか認識できただけでも家を出てきた甲斐があったというものだ。

 ずれているのだと言われてはいたが、どうしても家の中の感覚は姉さまに合わせてある。


「……ちなみになんて種族?」

「お前、それ普通に聞くのかよ」

「話したくないなら無理には聞かないけど。気になるじゃん」

「そういうもん?」

「そういうもんだよ」


 知識欲は人一倍だと自負しているので。

 読書に耽るのも半分はそれだ。後は、端的に物語を読むのが好きだから。


「んー……これ知ってる?」

「……あー。知ってる。なるほど」

「理解早いな」


 机の上に、リオンの指が滑る。見えなかったので魔法で水を乗せさせてもらった。

書かれていたのは丸の上に三角を二個くっつけたような、少し不思議な形。

 それだけではよく分からなかったが、丸の中に目と口が付けば察しは付く。


 鬼、という第七大陸特有の魔物だ。……魔物、ではなかったんだったか。

 第七大陸はかなり特殊な場所で、魔物の呼び方も特殊だったはずだ。


「……第七大陸行ったことあるの?出身?」

「いや、俺は行ったことねぇ。ばあちゃんが出身?らしい。じいちゃんもだったかもしれねぇ」

「へー。そうなんだ」


 なら、あまり暮らしなんかを知っているわけではないのだろう。

 知っているなら聞きたかった。姉さまが時々話してくれるが、それだけで収まるほどの好奇心ではないのだ。全く知らない、行くことすらできない場所。


 そんなところ、気にならない訳がない。

 この世界で、入国が難しい場所はあっても入れない場所というのは第七大陸くらいなのだ。

 ……姉さまは、入れるけども。あの人は特殊なので一旦無視することにしよう。


「とりあえず食器返してくるね」

「おー。席は任せろ」


 ぐっと親指を上げたリオンの皿にはまだまだ食べきらないであろう量が乗っていた。

 そもそも持ってくる量が違うのだ。私の方が少なくて、私が先に食べていたのだから当然である。

 これでリオンが食べ終わっていたら、本当に噛んでいるのか詰めよる勢いだ。


 人ごみの中をどうにか移動して食器を返し、来た道を戻っていると視界の端に白いうさ耳が見えた気がした。

 釣られるようにそちらを見ると、思った通りミーファが居たのだが、その横に食事を取りつつ寝かけているソミュールが居て何となく驚いてしまう。


 意外な組み合わせ、な気がするが。まあ、まだ学校が始まってそう時間は経っていない。

 あの二人の息があったとしても不思議ではないのだろうし、寝そうになっているソミュールをどうにか起こそうとしているミーファは中々可愛い。


「お。おかえりセルリア。どした?」

「可愛いものを見た」

「……良かった、な?」

「うん」


 不思議そうに返事をくれたリオンに、今見たものを事細かに説明しようか迷いつつとりあえず杖を弄る。これはただの癖なので意味はないが、リオンは興味ありげな視線を向けてきた。

 ……聞きたいことがあるなら聞いてくれていいが、全てに正確な返事が出来るわけではないことは理解してほしい。


 そもそもそれが出来るなら学校に来てまで魔法を学ぼうとは思わないのだ。

 ……あと、質問の前に食事を終えた方がいいと思う。


自分にとっての常識は、誰かにとっての非常識。セルちゃんは基本そういう思考を持って生きています。何せ自分の常識はだいぶズレていると知っているので。

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