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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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158,楽しい座学

「はーい、始めるよー。起きてー」


 午後一番、昼休み明けの教室にチャイムの音と共に女性の声が響いてくる。

 紺青の髪を一つに纏めた女の人。ハーフエルフのアリシア先生だ。

 昼食を食べて午後の日差しを浴びて眠気に負けている生徒たちを見て困ったように笑っている。


「寝てる子はこのまま減点するからねー。それじゃ、魔法知識の授業を始めます」


 魔法知識というこの授業は、まあその名の通り魔法の知識を幅広く教えて貰う授業になる。

 非魔法使いが魔法への対処法として知識を得るという意味ももちろんあるけれど、日頃魔法使いがなんとなくで行っていることへの理解を深めて魔力消費を抑える、という意味もあるらしい。


 演唱してみて発動しそうだったら何回か繰り返してみれば結構分からないままでも発動出来るからね、魔法って。

 しっかり理解しないと発動しない魔法もあるにはあるけど、魔力と演唱でごり押し出来る魔法が多すぎるのだ。


「前回は魔法相性とかやったの覚えてるかな?今日は複合魔法の基礎知識やるから思い出してねー」


 耳心地のいい声と共に教科書のページが捲られる。

 言われた通りのページを開いてとりあえず書かれていることを読む。

 文字ってとりあえず目で追っちゃうよなぁ。見たら読むのが当たり前になっている感じがする。


 まあ、二年生になってすぐに教科書大体読んじゃったんだけどね。

 新しく読んでない本を大量に渡された感覚だったから、ウキウキで読んでました。

 楽しかったです、はい。悪い事じゃないので許して欲しいです。


「魔法はそれを構成する属性が増えるほど複雑になり、難易度が上がっていくよ。攻撃よりも補助の方が複属性魔法が多いかな。

 理由、分かる人。はい挙手」


 ニコニコと笑顔で教室内を見渡す先生と目が合ったけれど、他の人が手を挙げると思うのでこっち見ないでください。

 とりあえず目を逸らしておこう。


「はい、マリウス」

「純粋な威力だけを求めるなら、単独属性の方がいいから、です」

「その通り、素晴らしい。複数属性の魔法は操作に意識を向けないといけないから、威力の面で言うと単独属性に劣る事がほとんどだ。

 熟練の魔法使いが相性のいい属性を混ぜて使えば威力が上がることもあるけど、そのレベルに至れる人が少ないからね、あれは例外」


 目を逸らしている間にちゃんと挙手した人がいたらしい。

 分からなかったわけではないけれど、こういうところで自主的に答えるのは得意じゃないのだ。

 家の中でぬくぬく育った人見知りを舐めないでほしい。


「複数属性の魔法は難しい代わりに発動した際の効果は便利なものが多い。遠視や罠、水中移動なんかもあるし、音楽演奏なんてのもあるね」


 魔法は数えきれないほど種類があるから、なんだそれ、みたいなものもあったりする。

 音楽演奏もその類だろう。実用性とは別に面白そう、で魔法を作る魔法使いが居るからよく分からない物も増えていくのだ。


「攻撃魔法の複数属性で使用例が見られるのは、風と炎の融合とか水と雷の融合とかかな。

 これも威力というより効果を狙って使うことが多いし、威力を上げたいときは複数人で一属性ずつ行う魔法融合の方が多いね」


 威力上げのためではなく操作のために複数人で一つの魔法を扱うこともある。

 私が遠視魔法を使う時にシャムに光を操作してもらうのがその類だ。


「とりあえずここまでで何か質問あるかな?」

「はい」

「アンナ、どうぞ」

「複数人での魔法融合って、何か条件があるんですか?」

「お、いい質問。複数人での魔法融合には二つ種類があるから順番に説明しようか」


 にこっと笑ったアリシア先生が楽し気に人差し指を立てる。

 その立てた指をクルクルと回しながら、楽しそうに説明を始めた。


「魔力には相性があるの。他人との魔力相性は、合わせてみないといいか悪いか分からない。

 それぞれ得意な属性を小さく発動させてみて一か所に重ねて反発しなければ相性良し、反発したら相性悪し。

 複数人で魔法融合を行う時は、相性の良し悪しで種類が変わるよ。

 相性がいい人同士は名の通りの魔法融合。二つ以上の魔法を混ぜ合わせて威力を上げる物だね。

 相性が悪い人同士で行うのが、魔法反発って呼ばれ方もする融合の形。魔力同士が反発するのを利用して、相性の悪い属性を混ぜて大規模攻撃をするのに使われるけど……融合に比べて危険だし、相性が中途半端に悪いとあんまり反発しなくて威力が出ないし、って使い辛くてあんまり見ないね」


 魔力の相性が悪い人は相性のいい人よりもずっと少ないらしい。

 そういえば姉さまは精霊魔法っていうかなり上位の魔法融合を見たことがあるって言ってたけど、どんな状況になったらそんなものを見ることになるんだろうか。


 普段から戦場に居る人とかならともかく、大事に大事に守られている姉さまがそんな危険な状況を目撃しているのは何事なのか。

 その話を聞いた時にコガネ姉さんが遠い目をしていたから多分大変なことだったんだろうな。


「魔法相性は実際見られれば分かりやすいんだけど……相性いいのはともかく悪いのはなぁ。あー……今すぐには見せられないけど、ラタム先生とヴィレイ先生の魔力が相性悪いから機会があれば見せてもらうといいよ」


 ラタム先生はダンジョン補佐と鑑定の先生だ。

 教師になる前はソロAランクの冒険者だったらしく、詳しいダンジョンの内部構造なんかも教えて貰えるってロイが言ってた。


 右腕の肘から下をダンジョン内で失って、引退したところを教師として勧誘されたって話を誰かから聞いたことがある。

 隻腕でも器用にあれこれこなしている穏やかそうな人だ。


「相性のいい魔法融合は今見せちゃおっか。ソミュール起きてる?」

「はぁい」

「じゃあソミュールとセルリア、ちょっと前に来て」


 呼ばれたので杖を持って立ち上がる。

 私は割とシャムとかソミュールとかと魔法融合して遊んでいるので、魔力相性については知られていたみたいだ。


「見やすい属性がいいな……水と雷でやろうか。どっちがどっちやる?」

「僕はどっちでもいいよぉ」

「じゃあ私が水で」


 まあ、どっちでも良かったんだけどね。

 どちらかといえば水の方が好きっちゃ好き、くらいの感じだ。

 雷も練習はしているので使えはするし。


「セルリアが水、ソミュールが雷ね。演唱は無くていいよ」


 このくらいの大きさにしようか、と両手で円を作ったアリシア先生を見て、それに合わせて杖を水を作っていく。

 クルクルと杖を回して水球を作り出したそれを右手の手のひらの上に移動させた。


 ソミュールの方を見ると、彼女も既に雷球を完成させて、私と同じように手のひらの上に浮かせていたのでそっと水球を前に移動させる。

 このくらいの融合なら特別何か気にする必要もないので、水球を押し出した。


 ソミュールが押し出した雷球と水球が重なった瞬間、少しの光と共に水と雷が混ざり合い、雷を纏った水の球が出来上がった。


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