15,魔法(物理)も出来るが
石の兵士が崩れたのは、私が同じ演唱を繰り返しすぎて面倒くささが勝ってきたころ。
よかったよかった。もう少し長引いていたら杖で殴り掛かるところだった。
魔法使いが皆物理攻撃に転ずるわけじゃないからね、二人に在らぬ誤解を植え付けることにならなくて一安心だ。
「おー、武器も消えた。これで終わりか」
「そう、みたいだね」
「二人ともお疲れ」
「セルリアお前、あんだけずっと呪文唱えてたのに声変わんねえんだな」
「出し方があるんだよ」
なんてのんびり話していたら、先生がやってきた。
先生の方ものんびり具合は負けず劣らず。のんびり拍手なんてしていたりする。
「お見事。早かったな」
「お、せんせー。俺ら何番目?」
「二番目だよ」
「一番はソミュールですか?」
「そ。あっちはあの子一人でやっちゃった感じあるかな。他の子の動きが硬かったね」
「先生、それ私たちが聞いていいんですか……?」
ミーファは真面目に心配しているけど、まあいいのではと思ってしまう。
聞かれて困ることならここで言わないだろうし、ならまあ別に聞かれようがどうなろうがいいんだろう。ただの真実だしね。
「そんなわけでおめでとう第二着!まだ他は時間かかりそうだし質問とかあったら聞くよ?」
「はい!」
「はいリオン」
「せんせーは魔法使えんの?」
「使えないよ。こいつを動かした理屈ならセルリアが知ってるんじゃないかな」
「わあ。丸投げされた。姉さまがよくやるやつだ」
「セルリアそれ言っていいの?アオイさん、基本は厳格な最上位薬師様で通ってるけど?」
「ただの真実ですよ。何が悪いかって言われたら丸投げする姉さまが悪い」
ニコーっと笑って見せると、なるほどシオンさんの影響か……なんて呟きが聞こえてきた。
前から思ってたけど、この学校の先生たちは姉さまと知り合いらしい。一定以上の仲の良さもしくは関係性があるんだろう。姉さまの素も知ってるみたいだし。
「で、他質問は?」
「あ、あの。さっきのって、まだ他にも埋まってるんですか?」
「埋まってるよ。授業で使う以外にも、非常時には防衛に使うからね」
聞いているミーファの耳がピコピコしている。カワイイ。触ったら怒られるだろうか。
なんて邪心をちらつかせている間に質問は私の番になったらしい。
何か聞きたいこと。……この授業の内容だけって指定はされてなかったよね?
「グラル先生のその剣はどこで作ったものですか?」
「それ聞く?今聞く?」
「気になってたので……」
「これは第一大陸のシャナで作った剣だよ。見る?」
「見ます!」
勢いよく食いつきすぎて、横にいる二人からちょっと引かれている気がする。
まあいいや。気にしない気にしない。
「わあ……」
「セルリア、剣も好きなの?」
「いえ、これって魔法込めてありますよね?込め方に見覚えがなかったので……」
「どこまで行っても魔法の子だったか。生徒増えるかと思ったのに」
「取るならレイピアなので長剣はちょっと……」
「丁寧にとどめ刺さないでよ。シオンさんの影が見えるなぁ……」
抜いてもらった剣を間近で眺めていたら、横の二人も気になり始めたのかちょっと寄ってきた。
先生的には自分の剣を眺められるのは楽しいらしい。
少しでも興味があるなら生徒が増えそう、ってことなのかな?
「二人はどう?長剣やる気ない?」
「俺は大剣じゃないなら槍取るんで……間合い変わんないし」
「わ、たしは、斥候職の予定なので……」
「振られた……三連続で振られた……」
全員から丁寧に振られて、先生が少し落ち込んでいる。
ごめんなさい。嘘はなるべく吐くなって言われてるんで……
なんて戯れをしている間に先生が行かなければいけない場所が出来たらしく、剣をしまって歩いて行ってしまった。
その姿を目で追ってみると、どうやらやられかけの生徒が居たので石の兵士を壊すらしい。
あそこはリタイアって扱いになるのかな?分からないけど、私たちの戦績は良い方みたいだ。
そこからはのんびり話しながら周りの観察に勤しんでみた。ざっくりだけど、ちゃんと倒せたのは半数くらいらしい。
「よーし。全部終わったね。どうだろう。初めてで連携を取りにくかったにしても、魔法使いと物理攻撃が揃うのって大切だって分かってもらえたかな?」
それが目的だろうとは思っていたけど、魔法使いの中でも苦手分野があることはご理解いただけるだろうか。
私は慣れているからいいが、物に魔法を纏わせるのって意外と苦手な人も多いのだ。
それを急に、よく知らない相手の武器に合わせろと言われたら渋い顔をしたくなる人もいただろう。それで文句を言われたりした余計にだ。
まあ、私は何を言われてもじゃあ自分でやれ。と言い返すが。それで相手は大体黙ると教わったので。
これを言うと、知り合いは誰の言葉か予想大会を始める。
ちなみにこれを言ったのは魔法特化種の姉、コガネ姉さんだ。
やる機会があったら鼻で笑うように言ってやれ、とシオンにいが付け足していた。まだやったことはないけれど。
「倒せたところも、多少の改善点は残ったんじゃないかな?今後、しばらくはその組み分けで色々とやっていく予定だから、それぞれの得意不得意くらいは認識しておいてね。残りの授業時間は反省会の時間にするから、各自話し合うこと」
そういって笑顔で手を叩いた先生に、生徒たちは戸惑いながら動き始める。
何も知らずに組んだこのメンバーが暫定パーティーらしい。私は文句も何もないが、騒がしくなってきたところもあるようだ。
「反省会って、何すりゃいいんだ?」
「……改善点、とか?」
「得意不得意の確認、って言ってたね」
二人もパーティーに文句はないらしく、その場に座って反省会を始める。
反省と言っても、結構ベストを尽くした感じがあるので何を話せばいいのやら。とりあえずは得意不得意の確認からしよう、となって、順番になぜか挙手して話始めた。
「俺は力押しはそれなりに得意だけど、考えて動くのは無理。難しい指示も覚えらんねぇ!」
「凄く分かりやすい……」
「もうむしろいいと思う」
そこまで堂々とされると何か言う気にもならない。力押しが出来るならそれでいいのだ。
リオンが持っていたのは大剣だし、戦い方もそれで合っているのだろうし。
「私は、力押しはそんなに得意じゃない、かな。逃げ回るのは、得意。殺気にも敏感って言われる」
「なるほどー。セルリアは?得意なのは風魔法だろ?」
「……炎の魔法は、ド下手くそだから使わせないで」
ススっと目を逸らしたらなんだか笑われてしまった。……笑うな!




