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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
149/477

149,少し歪んだ円形

 昼食を食べながらこの後の行き先を話し合い、金物細工のお店の位置を確認する。

 まあ大体は行きの出店の中で確認していた通りなので、確認は一応しておくか、くらいのものだ。

 それよりもロイの買った謎の煮物で盛り上がった。


 一口食べさせてもらったけれど、結局何かは分からない。

 いや、美味しかったは美味しかった。けど、材料も味付けも覚えがなさすぎるものだった。

 誰も分からなかったからロイが器を返しに行くときに聞いてきてもらうことになったくらいだ。


「何だったんだろうなぁ」

「美味しいけど知らない味だったね」

「どこかの伝統料理とかなのかな」


 食べ終わっても話題は謎の煮込み料理のことで持ち切りだ。

 姉さまとかなら知ってるのかなぁ。謎知識に定評がある人だし。

 もしくはモエギお兄ちゃんとウラハねえ。普段から料理をする人だから食べたら材料くらい分かるかもしれない。


 ロイが器を返しに行っている間も正解を予想して盛り上がる。

 材料とかどこの料理だとかそういうことを当てずっほうで予想して、戻ってきたロイにどうだったか聞いてみたら、にこりと笑顔を向けられた。


「第二大陸の料理らしいよ。材料は薄切りの肉と根菜だって」

「第二かぁー」

「肉入ってたか?」

「野菜……煮溶けてなかった?」

「でも美味しかったんだよなぁ」


 一応の正解は分かったけれど、それでもわりかし謎だ。

 最終的にはまあ美味しかったからいいかと話がまとまり、そのまま大通りに戻って金物細工のお店を目指すことになった。


 こういう時の先導役は大体ロイがやる流れになる。

 一番地図読むの得意だし、一番状況判断得意だし。

 私とかリオンは多少迷ってもとりあえず進めーって感じで動くから先導はしちゃ駄目なタイプ。


「こっちだね」

「お、そっちか」

「リオン逆行こうとしてなかった?」

「逆ではねえよ、逆では」


 こうなるからね、私も道分かってなかったけど進む前に確認するからリオンよりは多分マシ。

 なんて考えていたのがバレたのか、リオンにジトっとした目を向けられた。

 とりあえず目を逸らしておこう。多分話題も逸れるだろうし。


「……あ、あそこかな?」

「あそこだー!看板かかってる。ちゃんとやってるみたい」


 売るよりも作る方が好きな職人さんがやっている店だからたまにやっていないことがあると聞いていたので、やっているかちょっと不安だったのだ。

 やっていたのだから邪魔にならない程度にお邪魔しよう。


 そんなわけで揃って店の中に入り、並べられたものを見る。

 蝶番なんかは棚に収められているけれど、柵なんかの制作依頼も出せるみたいだ。

 店の一角に置かれた箱の中には金属のボタンが雑多に収められていた。


 皆が好きに店内を見始めても、私の足は縫い付けられてしまったかのようにその場から動かない。

 そっと手を伸ばしてそのうちの一つを手に取り、明かりの下で角度を変えて眺める。

 柄が彫り込まれたシンプルなボタンは、光を反射してキラリと光る。何度も揺らして見ていたら、急に横から別のものが差し出された。


 驚いてそちらを見るとエプロンを付けたおじいさんがにっこりと笑っている。

 もしかして、ここの店主の職人さんだろうか。

 とりあえず差し出されたボタンを受け取って同じように明かりの下に持っていくと、私が見ていたものよりずっと形が整っていることに気が付いた。


「お嬢さん、どっちが好きだい?」

「どっちも綺麗です……けど、こっちの方が」

「そうかいそうかい。気に入ってくれたのなら何より」

「……作った人が違うんですか?」

「ああ。こっちは儂が作った。お嬢さんが選んだのは、儂の弟子が道具の扱いに慣れるために作ったものだ」

「お弟子さんの……」


 歪、とまでは言わないまでも、完璧ではないボタンの形は練習中だったかららしい。

 どうしてだか完璧な円形よりもこっちの方が綺麗に見える。

 柄の幅もところどころズレているのに、それでも手放す気になれないのだ。


「柄の種類も多いし、値段もここで一番安い。気に入ったものがあったら是非買っていてくれ」

「はい。そうします」


 箱に入れられていたのとおじいさんが見せてくれたボタンは別なので、そちらはおじいさんに返して箱の中から別のものを拾い上げる。

 掘られた柄の違いとか、一つ一つの個性とかを見ながら選んでいたら、いつの間にか横にミーファがやってきていた。


 手は出さずにじっと見ているのでこのまま続けていいのだろう。

 そう思って選び続けていたら、今度は反対側にシャムがやってきた。

 最終的には後ろからロイとリオンに覗かれて、思わず笑ってしまったので手を止める。


「なぁに?もう」

「いや、セルがそんな真剣に選んでんのあんま見ねえから」

「ボタン何かに使うの?」

「使う予定があるわけじゃないけど、使いたいから何か考えようかな。買ってくるからちょっと待ってて」

「おー」


 選んだのは三つほど。

 その三つを持ってレジに向かうと、椅子に腰かけたおじいさんがにっこり笑う。

 代金を払って小さな袋に入れてもらったそれを受取ろうとしたら、奥から誰かが覗いているのが見えた。


「三つ、選んだ理由はあるかい?」

「理由……好きだから、ですかね」

「そうかい、そうかい」


 奥に居た人影は目が合ったら引っ込んでしまったけれど、もしかしてこのボタンを作った人だろうか。

 まだ小さな子のようだった。もっと私と同じくらいか少し上の人を想像していたのだけれど。


 そんなことを考えながらおじいさんにお辞儀をして店の外に出て、買ったボタンをカバンの中に仕舞う。

 この後はどうしようかと話しながら通りを進んでいると出店リコリスが建物の隙間に納まっているのを見つけた。


「あ、リコリス止まってる」

「コガネさんしかいない?」

「トマリ兄さんは買い出し中かな」


 コガネ兄さんがこっちに気付いたので手を振ってみる

 振り返してくれた兄さんは、そのまま右側を指さした。

 何かあるのかと目を向けてみると本屋が一軒看板を出している。


 シャムと顔を見合わせて、同時に笑いだしてとりあえず兄さんにもう一度手を振っておいた。

 そのままコガネ兄さんが指をさしていた本屋に向かって歩き出す。

 後ろから笑い声が聞こえてくるのでリオン達もやり取りの意味は分かったみたいだ。もともと本屋は何件か回る予定だったから、反対意見もなくみんなで本屋に行くことになった。


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