14,多少苦手でも使えるから
戦闘実習といっても、いきなり戦わせるか。普通。
なんてぼやいてもここでは普通のことなのだとすればそれはもう仕方ない。
他の先生たちも、とにかく説明の前に行動を起こす人が多いのだ。
「……ちなみに二人とも、属性は?」
「火!」
「地、だよ」
「うーん……おっけい」
魔法使いではない二人に聞いてもどうにもならないかもしれないが、まあ確認は大事だ。
もう反射的に聞いてしまうことなので何も言わずに流してほしい。
とりあえずどうするかの相談をする時間でも稼ごうか、と動こうとする石の兵士を風で抑えておく。
……意外と強情だな、大人しくしなさい。
何とか抑えられはするが、あまり長くは保てなさそうだ。
「その剣であれに傷ってつけれる?」
「やってみるか」
「うん。石の硬さはまちまちだからね」
リオンはともかく、ミーファも意外と戦闘慣れしているようだ。
短剣を選ぶのにも迷いはなかったし、何かやっていたのかもしれない。
考えている間に石の抵抗が大きくなってきた。
一旦考え事はやめて、杖を握り直して小さく呪文を唱える。
上から重ねるように風を乗せている間に二人は石の兵士に肉薄していた。
ミーファは剣が弾かれたのか空中で一回転しながら後ろへ下がり、リオンは重たげな剣を勢いよく振り下ろして眉をひそめた。
「クッソかてぇ!」
「腕、しびれそう……」
「わあ……そっかぁ」
「どうするー!?」
「ちょっと待ってー今考える余裕がそんなにない」
こうも簡単に弾かれるとなると、何かしないといけないが絶賛抑え込み中で意識を大きく傾けられない。
どうしたもんかと考えている間は風の力が徐々に弱くなってしまうのだ。
「せ、セルリアちゃん!ちょっとだけなら大丈夫だよ!」
「こいつそんなに動き早くないと思うぜ!俺も抑えるほうやる」
「分かった、じゃあその間になんか考える」
素直に風を収めて二人の動きを目で追いながら頭を回す。
端的な打撃が駄目なら、魔法を乗せるべきか。
魔法への抵抗力は高くないのが分かっている。腕力で押し返されている感覚だった。
魔法、だけで打つよりも、二人の打撃に合わせた方がいいかもしれない。
何か無機物を対象に魔法を乗せるのはそれなりに得意だ。
それなら、出来なくはないが相手が石。属性的には地だろう。
「リオン、炎出せる?」
「出せねぇ!」
「分かった。雷苦手?」
「いや別に!?」
「そっか、了解」
流石に、演唱が必要だ。
でもやる前に説明が必要。何せ、今日初めて共闘するのだから。
「説明聞く余裕は?」
「ある!」
「私も大丈夫だよ」
「ありがとう。リオンの剣に雷を纏わせる。それで、少しは攻撃が通ってほしい」
「願望!?」
「わかんないんだもん。やってる間、ミーファちゃんの負担が増えるけど……」
「大丈夫だよ。このままなら一日くらいは避けられる」
何とも頼もしい言葉が返ってきた。
確かに彼女は全く危なげなく石の兵士の攻撃を避けていた。飛んで、跳ねて、回って走って。なんというか躍っているようだ、とまで思えるくらいに余裕が見える。
獣人の身体能力だろうか。少しだけ羨ましい。
リオンが私の横に来て、石の兵士は完全にミーファ一人を狙い始めたようだ。
彼女の耳なら、きっと私の演唱も聞こえる。演唱の締めくくりは大体分かりやすいから、きっと察してくれるだろう。
「ふう……輝かしきは雷の目、雄々しきは雷の声……」
雷は、まあ得意でも不得意でもない。
とりあえず問題なく扱えるのが、演唱はしっかりと。
実は水の方が得意だけど、水はあれに利かなそうだ。風もほとんど効いてなかったし。
「天を貫け。一閃せよ」
これで演唱完了だ。杖を向けていた先、魔力と意識を一身に向けていた先。
レオンの握った剣は、刀身に時折稲妻が見えるようになっていた。
「触んないでね、あと、そんなに時間は持たないと思う」
「じゃあ急ぐ!ミーファ、頭下げろ!」
「もう体ごと下がるね!」
ミーファも説明を聞いていたのか、リオンが飛び出すと同時に姿勢を低くして安全地帯……のようになっている私の横に避難してきた。
……なんだか、妙に怯えている気がする。
「雷苦手だった?」
「音が、大きいから苦手意識があって……」
「なるほど。あれは音はならないよ」
大丈夫大丈夫、と思わず頭を撫でていた。
怯えたように私の後ろに隠れて姿勢を低くしているので、頭が丁度撫でやすい場所にあるのがいけない。これはもう撫でろという天啓だ。
……一応、戦闘中なのでやめるけども。
視線をリオンに向けると、彼は石の兵士に切りかかるところだった。
重たげな剣が重たげな音を立てて、当たったところに傷をつけた。
「やっぱり魔法を纏わせれば傷はつくのか」
「でも、あれだけだと倒せないみたい」
「ミーファちゃんの剣にも纏わせるね。風だけど」
「うん。……ミーファでいいよ」
「ありがとう、カワイイ。……纏え」
なんだか本音が漏れた気がするけど気にしない。
風を纏わせるのは、端的に一言でいい。本当は言わなくても出来るが、まあ使うのが私以外なので分かりやすい方がいいだろう。
さて、こうなると私がやるべきは石の兵士の耐久力が尽きるまで、リオンの剣に纏わせた雷を保つこと。
持続に演唱し続ければ行けるだろうか。
どうしても途切れたら一度戻ってきてもらわないといけないな、と息を吐いて、雷の持続に演唱を始める。喉ではなく腹から声を出して、響かせなくていいから喉への負担を減らすように。
継続的な演唱が必要な時の必須スキルだ。私は、どうにか習得済みである。




