134,いざ我が家へ
荷物を持って部屋を出て、中央施設に鍵を返して集合場所にしている木陰に移動する。
ちょっと早めに来たので私が一番乗りだ。
杖を回しつつ時計を眺めて他の人が来るのを待つ。
「おはようセルリア。早いね」
「おはようロイ。一応、一番最初に居た方がいいかと思って」
「真面目だなぁ」
「ロイに言われると本当に私って真面目なのか、って思えるよね」
リオンに言われてもこうはならない。
ロイは納得していないみたいだけど、なんかこう、日頃の行い的なものがね、あるよね。
そんなことを言っている間にソミュールを背負って荷物を引き摺ったミーファが現れ、とりあえず風を起こして運搬のお手伝いをする。
その後すぐにシャムがやってきて、約束の時間まではもう少しあるのにリオン以外が揃ってしまった。
リオンが遅れているわけじゃないのに遅れているみたいになっているのがちょっと面白い。
「まだ時間あるんだよね?」
「うん。とりあえずもうちょっと待ってよっか」
ダラダラと話しながら去って行く人を眺めていたら、校舎の方から荷物を抱えたリオンが歩いてきて一度立ち止まり、ちょっと小走りになった。
明らかに、もう全員揃ってるしちょっと待つの飽きてんじゃねえかなんだもしかして俺は寝坊したか?の顔をしている。
「俺もしかして寝坊したか?」
「くっふふ……いや、まだ、時間ちょうどくらい……」
「セルちゃん?どしたの?」
「あまりにも想像通りの事を言うからね、ちょっと面白くてね」
ともあれ時間通りに全員が揃ったのはいい事だ。
全員忘れ物も無さそうなのでこのまま移動することになった。
横に広がらない様に縦長に並んで移動し、大通りを抜けて門の前で一度止まる。
「もう来てるかな……」
「時間は?決めてあるんだよね?」
「うん。まだちょっとあるんだけど……コガネ姉さんならもう来てる気もする」
国外でダラダラしているのもどうかと思ったから一度ここで止まったのだけれど、コガネ姉さんならもう来ててもおかしくはないんだよな。
なんて思って門の内側から外を覗いたら、聞こえていたのかやけにニコニコしたコガネ兄さんと目が合った。
「……来てた。いこっか」
「あ、来てたんだ」
「ほんとだ。わあすっごい笑顔……」
なんかもう、笑顔でゆったり手なんて振っている。
やけにご機嫌だなと思ったけど、別にご機嫌な感じでもないな。
とりあえず荷物を抱えて門を潜り、コガネ兄さんの所に向かう。
後ろには出店リコリスが止まっていて、普段コガネ兄さんがいる場所にトマリ兄さんが座っていた。
今日は荷物が積まれていないからなんだか出店の中が広く感じる。
「やっほー、コガネ兄さん」
「久しぶりだなセルリア。このまま出発して大丈夫か?」
「大丈夫だと思うよ。誰か何かあるかな?」
「心の準備が……」
「それは乗ってからにしてくれ。トマリ邪魔だどけ」
「へいへい」
気だるげに座っていたトマリ兄さんは立ち上がることなくそのまま影の中に沈んでいき、私の足元から出てきた。私は慣れているからいいけれど、ミーファが驚いて跳んだからやめて欲しい。
「トマリ兄さん」
「悪かった。ほら、荷物積め」
「はい」
「うーっす」
トマリ兄さんに促されて荷物を積み込み、そのままリコリスに乗り込んで適当な位置に座る。
私はいつも通りの場所に座ってとりあえず杖を横に置いておく。
ふーっと息を吐いてから動き出した出店の中を眺めると、楽しそうに外を見ている人と固まってる人で綺麗に別れてる感じだ。
コガネ兄さんはいつも通り足を投げ出すように座っていて、ソミュールは愛用の枕に顔を埋めて眠っている。
リオンとシャムは小窓から外を見ているみたいだから緊張もそんなになさそうで安心なのだけど、ミーファがソミュールの横で完全に固まってしまっているのでちょっと心配だ。ついでにロイも固まってるし。
「ミーファ、大丈夫?」
「う、うん……」
「ロイは?置物みたいになってるけど」
「いや、なんか、どうしたらいいのか分からなくなってきて……」
分からなくなった結果、置物みたいな固まり方をしていたらしい。
大変そうだなぁ。最初話した時はシャムも結構緊張していたはずなのに、今は全然平気そうだから余計ロイの緊張具合が凄く見える。
どうにか出来ないだろうかと視線を向けてみたけれど、コガネ兄さんは何も言う気がないみたいだ。
まあ確かに姉さまに対しての緊張なら、オフモードの本人に会うのが一番だよね。
あのゆるふわーんって感じの雰囲気の前に緊張してろって方が無理な気もするし。
最上位薬師スイッチが入ってる時は本当に美人で格好いいんだけど、それ以外の時はほわほわだからなぁ。
なんて考えている間にリコリスは森の中に入って行き、シャムとリオンが歓声を上げる。
「俺、迷いの森の中初めて入ったわ」
「私もー!」
「まあ普通は避けて通るからな」
「森の中って迷うんじゃないんすか?」
「慣れていれば普通の森より入り組んでいる程度だ。それに、全ての道具が誤作動を起こすわけじゃないからな」
「へえー」
話している三人の声を聞きながら出店の外に目を向けて、今どのあたりかを確かめる。
半分を少し過ぎたあたり、かな。
この進み具合ならもうそんなに時間もかからずに到着しそうな感じだ。
なので、そろそろロイを解凍しないといけない。
そう思ってロイの方に移動しようとしたところで、ソミュールがぐっと伸びをして起き上がった。
ちょうどいいタイミングで起きてくれたので、このまま起きていて欲しい。
「おはようソミュール」
「おはよ……ふああ……今どのあたり……?」
「もう着くぞ」
聞こえていたらしく前方からトマリ兄さんの声が返ってきた。
その直後、木に遮られていた日差しが差し込んできて一気に視界が明るくなり、開けた空間に出たのを確認して杖を掴む。
そのままの勢いで出店リコリスから降りると、建物の玄関前に立っていたアオイ姉さまが目を輝かせて両手を広げる。
腕の中に飛び込んでただいま!と叫んでから振り返ると、皆あっけにとられた顔で固まっていたので思わず笑ってしまった。




