132,お手伝いと雑談
姉さまから返事が来たのは、私が手紙を出してから三日ほど経った後だった。
色々と書いてあったのだけれど、とりあえず必要な内容だけ皆に伝えて残りは順次説明することにした。
一気に言っても訳が分からなくなるだろうという事でのんびり説明することにしたのだけれど、ソミュールには説明しきれるかちょっと不安だ。
最悪タイミングが合わなくて説明きれなかったらミーファが起きている時に伝えて置いてくれるらしいのでまあ大丈夫だろう。
なんて考えながら放課後の人が居なくなった教室を出て、とりあえず図書館に行こうと廊下に出る。
扉を開けたところでヴィレイ先生とぶつかりそうになった。
結構危なかったけれど、衝突はしなかった。……まあ、ヴィレイ先生の髪とはぶつかったけど。
「危なかった……」
「そうだな」
「こんにちは、ヴィレイ先生」
「暇か?セルリア」
「割と暇です。掃除ですか?」
「いや、今日は道具の準備だ」
言いながら歩き始めたヴィレイ先生の後ろを付いていき、空き教室の中に入る。
その中に置かれていたのは数個の木箱で、中には大小さまざまな魔石が入っていた。
ヴィレイ先生が小さな箱を用意しているので、今日はこれを仕分けるのだろう。
「休みにリオン達を連れて戻るらしいな」
「先生はそれ誰から聞いてるんですか?」
「さあな」
教えてくれないらしい。
もしかして校内で話したことは全部聞こえていたりするんだろうか。
下手なことは言うもんじゃないな。別に聞かれて困ることは何も言っていないけれども。
「キャラウェイが言ったのか」
「はい。多分姉さま的にはソミュールが本命なのかなって」
「何をする気だ?」
「夢魔族が眠らずに活動できる薬を作りたい、って前の休みに言ってたのでそれだと思います」
「……なるほど。出来れば便利ではあるな」
仕分けの準備をしつつ振られたこの話が、多分今回のメインなのだろう。
まあ、ヴィレイ先生は姉さまのことを結構面倒な存在だと思っているみたいだから、急に友人を連れていくなんて話になってびっくりしただろうな。
「ソミュールだけを呼ばない理由は?」
「さあ?私に姉さまの思考回路は分かりませんから」
「予想でいい」
「んー……やっぱりただ気になってるだけだと思いますよ?コガネ姉さんとトマリ兄さんはリオン達とも話したことありますけど、姉さまはないから話してみたいんじゃないですか?」
姉さまが人を呼ぶときに利益が絡むことはあまりない。
仕事関係の時は、基本的に自分から出かけるから呼んでいる時点でただ話したいだけなんだろうなぁと思っている。
ヴィレイ先生がため息を吐いているから、姉さまなら言いそうだと思い至ってしまったのだろう。
そんなことを話しながら仕分けの準備が完了し、ヴィレイ先生が座った場所の向かい側を示されたので座って杖を置く。
「仕分けですか」
「ああ。纏めて安値で買い取った関係で一切の仕分けがされていない。属性と内部魔力量で適当に仕分けるぞ」
「はぁい」
道具の準備って言ってたし、とりあえず仕分けて置いて今後何かに使うんだろうな。
もしかしたらヴィレイ先生が使うわけではないのかもしれない。
先生たちって結構得意分野でお互いの仕事を受け持ったりするみたいだから、私が手伝うことも前提にして今回の仕分け担当になったとかかな。
「あ、先生これ砕けてます」
「そっちの箱に入れておけ」
「はい」
魔石は基本的に小さくても使えるけれど、砕けていると魔力を保っていられないのか使い物にならなくなるので別の箱に入れる。
これはこれで使い道もあるので捨てずに箱に投げておく。
もう砕けてるからね、多少雑に扱っても問題はない。
他の魔石はちゃんと扱ってるからヴィレイ先生も何も言わないからこれでいいのだ。
なんて言い訳をしながら仕分けを続け、ある程度続けたところでぐっと身体を伸ばす。
「……ヴィレイ先生、その裾邪魔じゃないですか?」
「慣れているからな」
「そういうものですか」
「そういうものだ」
ヴィレイ先生は服の裾がとても長くて、手が全く見えない。
それなのに器用に物を持って移動させているから、いつ見みても不思議な感じがする。
慣れでどうにかなるものだろうか。
「……何だ?」
「いえ、何でもないです」
ちょっと眺め過ぎたのか、呆れたような目を向けられる。
これは大人しく作業に戻ったほうが良さそうだ。
……ヴィレイ先生は、魔術に関わることは教えてくれない。
だから見えていない腕や左目も何か魔術に関係があるのかな、なんて邪推をしてしまうわけだけど、あまりしない方がいいんだろう。
気にはなるんだけどね。ものすごく気になるけどね。
「手を動かせ、手を」
「動かしてますよー」
一応ちゃんとやっているのに釘を刺してくるあたり、先生も飽きてきているのだろう。
まあ単純作業だし、飽きる気持ちも分かる。
私は割とこういう作業好きだから良いんだけどね。
というか、そもそもヴィレイ先生は細かい整理とか苦手なのかな。
そうじゃないと部屋があんなに散らかるとは思えないし……ああ、何だろう、なんか納得しちゃった。
「先生、これ私が手伝わなかったら一人でやってたんですか?」
「その時はノアあたりを巻き込む」
「一人ではやりたくないんですね……」
話しながらダラダラと作業を続け、終わるころには夕方になっていた。
身体を伸ばしながら窓の方を向いていたら、ヴィレイ先生が立ち上がる音がして頭の上に何かを乗せられる。
「……何ですか、これ」
「やる。好きにしていい」
乗せられたものを手に取ってみると、仕分けていた魔石の一つのようだ。
内部の魔力は炎で、結構大き目の魔石である。
どうやら今回の報酬らしい。面倒な作業だったからなのか、結構いいものを貰ってしまった。
しかも炎な辺り、ヴィレイ先生は私が苦手なものを選んでくれたのかもしれない。
……うん、休みの間に加工方法と使用方法を相談して、使えるようにしてもらおう。




