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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
129/477

129,姉さまはいつも唐突

 サラサラと便箋の上をペンが走る。

 質のいい紙を数枚使って書きたかったことを全て書き終え、封筒に宛名を書いて折りたたんだ便箋を入れる。


 封蝋を押して忘れていることがないかを確認し、出来上がった手紙を持って書斎を出た。

 外に出て畑に向かうと予想通りそこで何かの種を埋めていた二人組が居り、声をかけて片方を呼び寄せる。


 ふわふわと広がる長い桜色の髪を撫で、その姿が小さな鳥に変わったところで手紙を渡して念を押した。

 いつも行っているから大丈夫だとは思うが、寄り道はせずに帰ってくること、学校の中を勝手に動き回ってはいけないこと。


 分かった!と元気よく返事をして飛び立ったサクラを見送って、アオイは空を見上げた。

 もう少しで長期休み。我らが愛しの妹が帰ってくる頃である。

 今回の手紙は、その話をしたくてちょっと長くなってしまった。


 セルリアはそれほど間隔を空けずに手紙を返してくれるだろうから、今回の休みはどうなるのかがそこで分かる。

 どちらに転んでも問題はない提案だから、こちらとしては気軽に返事を待てばいい。


「さて、どうなるかな」


 呟いて家の中に戻り、書斎ではなく物置に向かった。

 今日はコガネが物置の整理をしているはずだから、それを手伝うことにしよう。




 部屋の郵便受けを確認して、そこにリコリスの封蝋がされた手紙が入っていたので手に取って椅子に座る。

 今日はもうやる事もないし、後は寝るだけなので寝る前に確認してしまおう。


 いつも通り出した手紙の返事と家の中で起こったちょっと愉快な出来事のお知らせくらいかな、と思っていたのだけれど、それに加えて休みのことが書かれていた。

 そういえば、あとひと月くらいで長期休みか。


「……え?」


 多分またあちこち連れまわされるだろうなぁ、なんて思って手紙を読み進めてみたら、予想外のことが書かれていて思わず声が漏れる。

 ……いや、まあ確かに?姉さまならそういう思考にもなりそうだけど?


 それでも急にそんなこと言う?……あ、だからひと月前にこの手紙なのか。

 なんて脳内で一人会話をして、とりあえず手紙を最後まで読んでから天を仰ぐ。

 書かれていたのは、休みに家に帰る時にソミュールも一緒に来れないか、というもの。


 ソミュールだけではなくリオンやシャムやロイ、あとはミーファも来れたりしないかなーなんて緩い感じで名前を挙げられていた。

 無理にとは言わないし、出来ればでいいからと書いてはあったけれども。


「ソミュールは……薬の関係だろうけど……なんで他も皆?姉さまが会いたいだけでは?」


 確かにあの家には客間と呼ばれている離れがあるから泊まるのは全く問題ないんだろうけど、それでもそんな気軽に誘うだろうか。

 ……いやでも、姉さまだしな……誘うか……そっか……


 まあ、ともかく決めるのは私ではない。

 明日皆に聞くだけ聞いてみよう。

 ロイとシャムは村に帰る可能性が高いけど、他三人は意外と来るかもしれないし。


 とりあえず今は考えるのをやめて寝てしまおう。

 明日の事と返事は起きてから考える。

 そうしないといつまでも考えて寝不足になってしまいそうだ。


 なんて思って寝たのだけれど、起きても結局どうしたもんかという思いは消えていなかった。

 姉さまの気まぐれ、と言えば私は納得出来るのだけれど、誘う時にそれを言うのはどうかと思う。

 けど姉さまの真意を分かっていないのに適当なことは言えないし。


「……姉さまめ。帰ったらもうちょっと詳しく書いてって言わないと」


 とはいえもし皆が遊びに来てくれるなら絶対に楽しいから誘わないという選択肢もないのだ。

 ……もう、何も隠さず理由は分からないけど遊びに来ないかって姉さまが言っている、ってそのまま言うのがいいかもしれない。


「とりあえずロイだなぁ……シャムは朝話して認識できるかな……」


 ぶつぶつと呟きながら支度を済ませ、杖を持って部屋を出る。

 ミーファには移動中に話せばいいとして、問題はソミュールだ。

 空き時間に起きてくれるといいのだけれど。


「うぅーん……」

「おはようセルリア。どうかしたの?」

「あ、ロイ。おはよう」


 唸りながらパンを千切っていたらロイがやってきた。

 いつもより来るのが早かった気がするのは、私の行動が遅かったからだろうか。

 心配そうに見てくるロイになんと切り出そうかと考える。


「んーっと……ロイ、長期休みの予定って何かある?」

「え、休み?そうだな……今回は村には帰らないことにしようかとは思ってたけど」

「あれ?そうなの?」

「うん。リオンと同じ宿にでもーとか考えてみたりね」


 それなら誘ってしまってもいいのではないだろうか。

 何かやりたいことがあってそうするなら、無理かもしれないけれども。


「実は、姉さまが次の休みに友達を家に誘えないかって言ってて……」

「……遊びに行く、ってこと?」

「いや、泊まりに来いって」

「最上位薬師様の家に」

「うん。……理由は私も知らないの……昨日手紙で急に」


 流石のロイもこれには言葉を失って天を仰ぐしかないみたいだ。

 そうなるよねぇ……私もなったもん。

 姉さまの行動に慣れているはずの私でもなるんだから、何も知らないでいきなり言われた時の衝撃は計り知れない。


「おはよぉ……ロイなにしてるの……?」

「おはようシャム。今度の長期休みって何か予定ある?」

「お休み?いつも通りかなぁ。他にすることないし」

「実は姉さまが長期休みに泊まりにおいで、って言ってるんだけど」

「……もしかしてロイに先に話した?」

「うん」


 あらぁ……と呟きつつお茶を飲んでいたシャムは、静かにカップを置いた後、ロイと同じように天を仰いだ。

 うーん、愉快な光景。朝食を食べに来た人たちが二度見していく面白い状態になっている。


 ここにリオンも加わったらもっと面白かった気もするけれど、今日は起きてこなかった。

 とりあえず二人も朝食は食べ終えて、返事は別に急いでいないからそのうち聞かせてもらうことにする。


 一度切り出してしまえば思ったより説明の必要もない話題だったので、残りの三人にもさくっと聞いてみよう。

 ……まあ、ソミュールが起きるかは分からないんだけどね。こればっかりはタイミングが合わないとどうにもならないので、のんびり待つとしよう。


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