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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
121/477

121,攻撃魔法の先輩

 今日はあいにくの雨で、専攻授業が実技ではなく室内での演唱確認等になってしまった。

 魔法実技はやっていて楽しいからちょっと残念だ。

 でもまあ、座学も嫌いではないし別にいいか。


 そう思っていたのだけれど、どうやら私は演唱暗記以外をやる事になったようだ。

 授業開始と同時にノア先生に呼ばれ、寄っていくともう一人呼ばれたらしい人が居た。

 攻撃魔法の授業で見かけるから覚えている。特殊な形をした杖を持った女の先輩だ。


「二人にはちょっと付き合ってもらいたいことがありまして」

「なんですか?」

「飛行魔法についてです。二人は違う魔法で飛んでいるので丁度いいかな、と」


 そう言われて、先輩と顔を見合わせる。

 この先輩も空を飛ぶタイプの人らしいが、どんな魔法を使うのだろう。


「まずは自己紹介ね。私はエマ、よろしくね」

「セルリアです。よろしくお願いします」


 にこりと笑った先輩に笑い返して杖を揺らす。

 先輩の杖は先端の飾りの下に円盤のようなものが付いているステッキタイプだった。

 あまり見ない作りだけど、どこで仕立てたのだろう。


 気になるけど、今聞くことでもないだろうから大人しくしておく。

 そのうち機会があれば聞いてみよう。

 なんて考えている間にノア先生が他の人への指示を出し終えて戻ってきた。


「では移動しましょう。ついて来てください」


 飛行魔法関係、ということでここではなく天井の高い所に移動するらしい。

 他の授業で使われていないと分かったのが授業が始まる直前だったらしく、前からやりたかったことがやっと今日になって色々と噛み合ったのだとか。


「この教室です。では早速始めましょう」

「何をすればいいですか?」

「まずは、二人ともいつものように飛んでみてください」


 言われた通り、いつものように風を起こして身体を空へ持ち上げる。

 左手で持った杖を軸にその場で回って状態を確かめ、特別調子が悪いとかもないのでエマさんがどうやって飛んでいるのかを見てみることにした。


「え」


 思わず声が出てしまった。

 エマさんは、杖の円盤の上に立ってそこに浮いている。

 ……杖は、人が魔法を使うために絶対必要なものだ。


 直接触れていないと使えないはずであり、裸足で乗っているならともかく靴を履いてその上に乗って魔法が使えるなど聞いたことがない。

 ……いやまあ、裸足でやってても驚くけどね。曲芸かな?ってなる。


「そのまま少し下まで降りてきてください」

「はい」

「……あ、はい」


 あまりの驚きに反応が少し遅れてしまったが、とりあえず先生の前まで降りる。

 先輩もすぐ横にやってきて、私の方を見てにこりと笑った。


「お互いに相手の飛行手段が気になっているようですし、ちょっと説明してもらってもいいですか?セルリアからで」

「はい。風魔法で身体を浮かせて、もう一つ風を作ってそれに乗って移動してます」

「続いて、エマは?」

「私は物体の操作魔法で杖を飛ばしてその上に乗ってる形ですね。同じ魔法でよく見るのは葉っぱとかの上に乗ってる形?」


 ……ああ、なるほど分かった。

 魔力操作の練習で、魔力だけを飛ばして目的の物に纏わせて魔力を動かす形でその物を動かす、というものがあるのだけどそれの原理だ。


 属性的には無属性魔法だったはず。

 私もやった記憶があるし、それで空を飛ぶ方法も知っている。

 ……けれど、それもやっぱり杖を手に持った状態で行うものだったと思うのだけれど。


「他に使える飛行魔法……の前に、エマの杖の仕組みを説明しましょうか」

「ああ、そうですね」


 私が不思議に思っているのがバレたのか、先生に笑顔を向けられた。

 先輩も笑って地面に降りているし、これは私も降りた方がいいのだろうか。

 とりあえず降りてから考えることにして、風を霧散させて地面に足を付ける。


「私の杖は、リングと同期させてあるの」

「リングと同期……ですか?」

「うん。運用テストも兼ねてるから調整かけるごとに性能はブレるんだけど……今はとにかく同期性能を高めてる感じ」


 そう言いながら見せてくれたエマさんの両手には合計で五つのリングが装備されていた。

 右手の人差し指と薬指、左手の親指と人差し指、小指。

 デザインは全て同じで、杖とも似通った色味と飾りがつけられている。


「リングと杖を同期させるってことは、杖に乗ったまま動かせるのはリングで動かしてるんですか?」

「正確に言うと、リングを経由して杖に魔力を通してる感じ。五つのリングはどれに魔力を通しても均一に回るようになってるから、上限も結構押し上げてるの」


 これをやるために職人を見つけて一から作製お願いしたらしい。

 物体操作で適当な物を浮かせてそれに乗るより、常に持ち歩いている杖に乗れた方がいいな、と思って考え始めた形らしく、その目的のために杖に円盤状の足場まで付けたのだとか。


「凄いですね」

「まあ、元々は不安定な足場に乗るのが苦手だからどうにかしたい、って言うのが始まりなんだけどね」

「そうなんだ……そういえば、ノア先生は飛行魔法は何を?」

「ああ、私は飛行魔法は扱えませんよ」

「あら、そうなんですか?」


 飛行魔法にもそれなりの種類があるから、先生なら一つくらい出来るものだと思っていた。

 エマさんも同じ考えだったようで驚いたようにノア先生を見ている。

 そんな私たちの顔を見てか、先生は困ったように頬を掻いた。


「魔法の発動が問題なのではなくて、酔いやすいのが問題なんですけどね……」

「先生飛行酔いするタイプなんですね……」

「はい。なので空に上がる必要があるなら氷の柱を作って地上から真上に上がります」

「わあ、一番派手……」


 話がズレた気もするが、知らなかった面白い話を聞けたのでまあいいか。

 なんて一人満足していたら、先生がパンッと手を叩いた。

 いつもの、話を切り替えたり視線を集めたりするための合図だ。


「それでは、ようやくですが本題に入りましょうか」

「はい」

「今日は二人に、扱える飛行魔法の系統調査に付き合ってもらいたいのです」


 系統調査、という事は得意な飛行魔法には何かしらの関連性があるのではないか、という話だろう。

 話を聞く限りエマさんは私がド下手くそな炎属性の人らしいからどんな結果になるかちょっと楽しみだ。


 ウキウキしながら杖を揺らしていたら、内容の説明をしている先生に微笑まれてしまった。

 魔法となると何でも楽しいのが私だけれど、それは先生も同じだと思うのだけれど。


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