114,夕食の喧騒
夕食の時間になり、トレーを持っていつもの場所に移動していると何やら周りが騒がしいことに気が付いた。
とりあえず無視して人混みの中を進み、シャムの横に滑り込む。
私が最後だったようで他の三人はもう揃っていた。
リオンなんかはもうすでにパンを頬張っている。
逆にロイは来たばっかりかな。ちょっとタイミングがズレていたら合流してただろう。
「これなんの騒ぎ?」
「分かんないけど、誰か喧嘩してるみたい」
「片方は新入生みたいだよ」
「へぇ……」
すぐ傍で喧嘩が発生していようと気にせずに食事を続けるのが私たち四人の共通点だ。
だけど、片方が一年生となるとちょっと気になる。
軽い口調だったとはいえ襲われてたら助けるって言ってあるしなぁ。
「あ?セル気になんの?」
「うんちょっと。新入生の方って獣人?」
「いや、多分違った」
「じゃあいいや」
「お前一瞬で興味失うじゃん……」
「気にする必要ないって分かったからね」
割としっかり見ていてくれたロイに感謝だ。これで何も気にせずご飯が食べられる。
急に興味を失った私に三人は少し不思議そうにしていたけれど、すぐに食事を再開した。
イザールのことは誰にも言っていないけれど、まあ聞かれたら話してもいいだろうくらいに思っている。
私は研究室に所属していないのに先輩と交流があったりするから、後輩とちょっと仲良くなっていても違和感はないだろうし。
これもまあ、大きく分ければ姉さま関連だからそういえばそれ以上何か言われることはないはずだ。
「話は変わるけど明日って合同授業だよね?」
「そうだね」
「合同って何すんだ?」
「リオンまた話聞いてなかったの……?」
私が何か言うまでもなく話題は変わったが、リオンがまた何も話を聞いていなかったことが判明した。言われてたでしょうに、内容も場所も。
「いや、ちげぇよ、今回は聞いてなかったってか、聞きなれない言葉でよく分かんなかったんだよ」
「リオンが焦ってるー」
「普段からセルリアに怒られてるのがよく分かるね」
「怒られてねぇよ」
「そうだよ怒られてる相手は私じゃなくてヴィレイ先生だよ」
私は別に怒ったりしない。呆れるだけだ。
でもまあ、聞きなれないからよく分からなかった、というのは分からないでもない。
あまり一般的ではない内容だから合同授業でやるんだろうしね。
「明日って魔法歌だよね?」
「そうだよ。ノア先生が授業するって」
「その、マホウカって何なんだよ。花?」
「歌だよ。僕もよくは知らないけど」
詳しくは授業でやるだろうから今話すことはないだろうと食事を続け、話題は何度も変わって最終的にはそれぞれの研究室に新しく入った後輩の話になった。
私は全く分からない話題なので聞きに徹して相槌を打つ。
魔法適性Dでも使える魔道具を……略してD道具の研究室には時々遊びに行っているけれど、あそこにも数名の新入生が入っていた。
普段いないのに時々顔を出すから私は何なのか謎扱いされているらしいけれど、面白かったのでそのままにしてある。
「リオンの所って入室した亜人のリスト作ってるんでしょ?」
「おう。まだ来てない亜人一覧もあるぞ」
「普段何してるの?」
「雑談」
「ええ……」
「基本的にすることねえからなぁ。たまに地図作ってんぞ」
「地図?どんな?」
「それぞれの出身地入れてどこにどの亜人が住んでんのかーって」
その地図面白そうだな。見れたりしないのだろうか。
研究室の活動日はそれぞれ違うので、リオンと放課後に遊んでいるのも違和感はなかったのだけれどそもそもやる事がないらしい。
本当に研究室は自由なのだろう。
研究室より遊び場という呼び名の方がよく聞くのはそういうのが理由なんだろうと思う。
シャムの所は結構しっかりした研究室という印象なので遊び場と呼んでいるのはあまり聞かない。
「……ん」
「お?」
これだけのんびり話していても終わっていなかった食堂での喧嘩が激化していき、不穏な気配を感じて杖に手を伸ばす。
手早く防御を張り、喧騒の元に目を向けると空の皿が飛んできて結界に当たって割れた。
「わぁお」
「ナイス防御―。セルちゃん結界術得意なの?」
「まあ嗜む程度にね」
結界術は第一大陸のクンバカルナという国で発展したものだ。
魔法と似ているけれど別のもので、魔法使いはむしろ扱えないこともある。
私は昔からちょっとだけやっていたので攻撃でもないものを防ぐくらいは問題ない。
「激化してきたね」
「ねー。先生たち止めに来ないな……」
「何かあったのかな。普段ならすぐに来るのに」
「……ちょっと見てみる?」
「お、じゃあ私も間借りしよーっと」
結界はそのままに最近練習の成果が出て来て大分安定感が増した遠視魔法を使用する。
シャムは属性が光なので安定感をそのままに一緒に目を運ぶ事が出来るので、複数人で使う時の練習相手になってもらっていたのだ。
なので二人分の目を運ぶのも慣れたもの。
まずは食堂を上から眺め、現状を把握してから外に出て誰か先生がこちらに来ていないかを確認する。
「……あれ?」
「あー、なるほど」
「お、なんだよ教えろよ」
食堂を出てすぐにノア先生が気配を消して立っていて、私の遠視魔法を見つけて唇に指を当てる。
ここに居ることは内緒らしいけれど、まあもう声に出してしまったのでそれは仕方ないだろう。
リオンとロイには言ってもいいか。
「ノア先生が見てる。なんか理由が合って止めてないみたい」
「先生何してるんだろうね」
「さあ……」
よく分からないけれど、何かあるのだろう。
なんであれ近くに先生は居るので、私たちが気にすることはなさそうだ。




