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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
113/477

113,岩を砕く風の槍

「はい、皆居ますね?始めますよ」


 非常に天気のいい午後、その日差しを浴びつつ何となく散らばっていた生徒たちを集める声が響いた。

 この時間は各自の専攻授業であり、私は攻撃魔法の時間だ。


 担当はノア先生。同級生だけでなく攻撃魔法を専攻している先輩たちも一緒に受ける授業なのでいつもより緊張感がある。

 まあ、全員が同じことをするわけではないから関わりは少ないんだけどね。


「それじゃあ、各自前回の続き……ですが、レベッカとエマは魔法の相殺をやりましょう」

「はい」


 返事をして魔法を使うために人と少し距離を取る。

 前回の続きなので、私は風の威力を上げるためにひたすら突風を撃ち続ける。

 撃つ方向は上。杖を真上に向けて、風で雲を裂くくらいの勢いで撃つ。


 それをひたすら繰り返す。ノア先生からは「岩を砕けるくらいの威力を付けましょうか」と笑顔で言われた。

 あの笑顔は本気だった。なので私は風で岩を砕く女にならなければいけない。


 風は物理力低いのに……とか言っていられない。

 何なら私は風で岩を破壊できるようになるまで次に進ませてもらえなさそうなのだ。

 まあ、出来たら絶対楽しいからやるけどね。リオン辺りをビビらせてやる。


「セルリア」

「はい」

「進捗はどうですか?」

「まだ岩は砕けなさそうです。凹ませるくらいなら……まあ……」

「そうですか。ふふふ、それならそろそろ扱ってもいい頃ですねえ」

「何をですか?」

「ひとつ、覚えて欲しい魔法があるんです」


 心底楽しそうに笑ったノア先生は、どこからか一枚の紙を取り出した。

 渡されたそれにざっと目を通した感じ、魔法の演唱のようだ。

 魔法名は、ウィンドランス。


「風の槍……」

「ただの風にかなりの威力を持たせられる魔法使いでないと発動しない魔法です。君なら扱えるでしょうから、やってみてください」

「これのために威力上げをさせてたんですか」

「ええ。私では扱えませんでしたが、この魔法はダンジョンの壁を破壊した記録もあるくらいですから見てみたくて、扱えそうな子を探してたんです」


 そんなことを言われると、俄然やる気が湧いてくる。

 岩どころかダンジョンを風で破壊する女になるのか……楽しそうだ。

 まずは演唱を覚えないといけないので、何となく風を空に飛ばしつつ紙に書かれた文字列を頭に叩き込んでいく。


 扱えるかどうかは後回しだ、まずは演唱を覚えないと何も始まらない。

 私は覚えるのも苦手ではないから、授業が終わるまでには一回くらい試せるだろう。

 こういう魔法は大体、初めて発動した時は威力が弱いから自分の扱いやすいように慣らしていかないといけないのだ。


 試行回数が必要な魔法はなるべく早く略式演唱で発動できるようにして回数を稼ぎたい。

 なのでとにかく早く演唱を覚えないといけない。

 声に出した方が覚えやすい人間なのでブツブツ言いながら特に意味もなく風を飛ばす。


「……我が道の……?……我が道に、立ち塞がりし……」


 どのくらいブツブツ言っていたのか、見ないで言えるようにはなったのでとりあえず杖を構える。

 撃つ先は空にしようかとも思ったが、なんだかちょっと難易度が高い気がしたので人が居ない方に向けて撃つことにした。


「突風吹きすさぶ我が道に立ち塞がりしは如何な物

 頑強なるその壁を打ち砕くは我が魂

 その一突きに無駄はなく

 その一突きに慈悲はなく

 ただ一心に純粋なる風の矛を突き立てん

 我が道を阻む障害は我が手で全て粉砕せん


 穿て  ウィンドランス」


 放たれた風の槍は草を刈り取りながら進み、さほど飛ばずに消滅した。

 ……ちょっと草が短くなったけど、そんなに威力はなかったな。

 これを繰り返して威力を高めていけば岩をも砕けるのか……今は、そんな感じはしないけど。


「おお、発動しましたね」

「しましたね。威力は全然でしたけど」

「一回目でこれなら凄いですよ」

「ありがとうございます」


 パチパチと拍手をしてくれたノア先生は、短くなった草を見て満足げに笑い、他の人の所に歩いて行った。

 先生って多分、単純に魔法好きなんだろうな。


 自分が扱えるか、というよりその魔法を見てみたい、で動いている人の気がする。

 だから私が扱えるだろうと思って用意をしていたんだろうし。

 学校の先生をしているのも、それが理由だったりして。


 なんて無駄な詮索をして、ふっと息を吐いて練習に戻る。

 今日中に略式で行けるようになるだろうか。

 暇だし放課後にもやっていようかな。


 そんなことを考えながら二発ほど撃ったところで終了の鐘が鳴り、練っていた魔力を霧散させて地面を見る。

 ……ここだけ草が切り揃えられちゃったな。


 今度からは地面が抉れるくらいになったらいいな。

 いや、そうなったら流石に学校内で練習できないか。

 木属性の魔法使いとか居たら草も生え揃えられるだろうけど……流石にそんなことを頼むわけにもいかないし。


「それじゃあ解散です。次の授業に遅れない様にしてくださいね」

「はい」


 返事をして杖を揺らしながら教室に向かって歩き出す。

 通り道にソミュールが居るはずだから回収した方がいいだろう。

 サポート魔法はソミュール以外にも選択者がいるけど、普段関りがないとどうしたらいいか分からないだろうし。


 ミーファが頑張ってソミュールの出席率を保ってるからね、ここでその記録を途切れさせるわけにはいかない。

 もしかしたらミーファがこちらに走ってきている可能性もあるけど、そうなったらいつも通り運べばいいだろう。


 そんなわけでテクテク歩いて寄り道をしたら予想通りソミュールが寝落ちていて、その傍で同級生二人がどうしようかと相談していた。

 起こすか運ぶか、と言っていたので見捨てていくつもりはなかったみたいだ。


「あ、セルリア」

「良かったー。俺らじゃどうしていいか分かんなくてさ」

「だと思った」


 明らかに安堵の表情をした同級生と話しつつソミュールを浮かせて移動を始める。

 寝ているところを浮かされて尚愛用の枕を離さない姿にちょっと笑ってしまった。


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