111,やっぱりつまらない入学式
入学式の会場を爽やかな風が吹き抜けた。
きっちり一年前にも同じことをしていたのでなんだか懐かしい気持ちになる。
……うん、まあ、懐かしむしかすることがないだけなんだけども。
うーん、暇だなぁ。これ私たち居る必要あるのかな。多分ないよな。
なんで居ないといけないんだろう。もうどうせならこの時間ずっと会場の上空を飛んでるとかの方が良いんだけど。
なんかもう眠くなってきたから、何か目が覚めるようなものはないかと座っている生徒の頭を見渡す。
……リオンとか見えるところに居ないかなぁ。
なんて思って視線を動かしていたら、ノア先生と目が合った。
笑顔で手を振られるとむしろ怖い。
怒っては、居ないみたいだけど。
目を逸らして壇上を眺めることにしたけれど、興味のない知らない人を見ていても眠くなるだけだ。
……リングで魔力練って遊んでてもいいかな?
ちらっと横目でノア先生を見たら手でバツを作られた。
駄目?というか私の考えてることバレてる?
まあでもダメって言われたから大人しくしてるかぁ……
あ、でもまた何かしてる。
うーん……もう少し、かな?
もうちょっとで終わるから大人しくしてろ、ってことか。
先生がそう言うなら仕方ない。眠くなるし何も面白くないけど壇上のおじさんを眺めていることにしよう。
あー……暇だなぁ……もう興味なさ過ぎて何言ってるのか認識すら危ういレベルだ。
「以上で入学式を終わります」
あ、終わった。やーっと終わった。
はーもう背中バキバキだよ……
両手を組んで上に向けると、肩から背中にかけてバキッと音がした。
「よーセル。何してんだ?」
「凝り固まった背中と肩をほぐしてる……これ絶対私たちが出る必要ないよね」
「それは思った」
「いえそうでもありませんよ?」
「うわ、ノア先生……」
「セルリアは終始つまらなそうでしたが、この時間に新入生を品定めしている子もいますからね」
「品定めって……」
笑顔で言うことでもないと思うけれど、まあ多分その通りなのだろう。
どんな人を求めて新入生を眺めているのかは分からないけれど、ロイとシャムが何かやる気だったのは知っている。
「ノア先生は聞いてて暇にならないんですか?」
「私は生徒を眺めてますから」
「つまり俺らで暇を潰してんのか」
「ええ。なので寝ている人はすぐに分かります」
「げっ……」
また寝てたのか。まあ私も眠かったから何も言わないけど。
話しながら会場を後にして、今日はこの後自由時間なので何かしよう、ということになった。
先生とは会場を出てすぐに解散し、何も決まらないままリオンと二人てくてく歩く。
「とりあえずロイとシャム探すかー」
「今日暇なのかな?新入生のあれこれとかあったりしない?」
「明日からじゃねえの?」
「そうなのかな」
まあ、分からないなら探して誘うしかない。
何をするのかは決まっていないけど。
「どこに居んのかなー」
「研究職の人混みに居るかな」
「行ってみっか」
見つからなかったら用事があって早々に移動したということだろうから無理に探す必要もないわけだし。
そんなことを話しながら研究職の人混みを眺めていると、私たちが見つけるより早くロイがこちらを見つけたらしく歩いてきた。
「お、シャムもいんな」
「どうしたの二人とも!何かするの?」
「何かしようとは言ってるけど何をするのかは決まってないんだよね」
私たちが二人を探していたというだけで何かしようとしているのだろうという認識になるのはあまりにも話が早い。
まあ放課後暇なら集まって遊んでいるのだからそれくらいしか思いつかないというだけなのかもしれないけれど。
「じゃあ何するか決めるところからだね」
「二人も暇なんだ?」
「うん。明日からはちょっと忙しくなると思うけど、今日は特にすることないよ」
「そうなんだ」
何をするにもまずは移動を、という話になったのだけれど、今日は新入生の校内案内があるので邪魔にならないようにしないといけない。
いつも居る林の前は通り道になりそうなので、別の場所がいいだろう。
「もう何なら町出るか?今日って外出自由だろ?」
「ありだね。私ペン買いたかったんだ」
「シャムまた壊したの?」
「ま、まだ壊してないよ!ちょっと危うくなってきただけで……」
「僕もノート買い足したいかな」
「じゃあ決まりだな」
各自着替えて荷物を持って門に集合ということになり、部屋に一度戻って適当に荷物を用意する。
着替えはまあ、これも適当でいいだろうからさくっと着替えて、髪が乱れていたので整えてから杖と荷物を持って部屋を出た。
それなりに早く支度を終えた気がしたのだけれど、ロイとリオンが既に居て何か話していた。
二人とも支度早いな……
「お、セルも来たな」
「二人早くない?」
「まあ女の人の方が支度に時間はかかるよね」
ちなみに一番早かったのはリオンだったらしい。
その数分後にロイが来て、その後が私。
……つまりリオンの支度が早すぎるのだろうか。
なんて話している間にシャムが走ってきてその勢いのまま私に抱き着いた。
転ばない様にくるっと回って勢いを殺し、シャムを着地させてから走って乱れたらしい髪を手櫛で整える。
「お待たせー!結構急いだつもりだったんだけど皆早いね」
「私もさっき来たところだよ。男子二人が早かった」
そうなんだーと何か納得した風に頷いたシャムが私の手を引いて歩きだし、なぜかそのまま手を繋いで歩くことになった。




