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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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110,休み明けの確認

 淡々と今年一年間の予定を話し始めたヴィレイ先生は、時折何かを確認するように耳に手を当てている。

 ……またどこかに移動したりするんだろうか。


「……さて、それぞれ個別に予定表を制作済みだ。各種確認と共に渡すから、呼ばれた者から来い」


 そんな予想をしていたのだけれど、移動することはなくヴィレイ先生は廊下に出ていった。

 最初に呼ばれた生徒がその後ろを追い、暇になったので持ってきた本を開く。

 図書館で昨日借りておいたのだ。


 前の休み明けの時はまだ開けていなかった荷物の中に入っている本のことを聞かれて戸惑ったので、今回はしっかり荷物整理を終わらせてある。

 ちなみに入れた覚えのない荷物は二、三個しか出てこなかった。


 前回は五、六個出てきたから今回は少ない方だろう。

 姉さまが雑に薬を突っ込むのだけは阻止したから数が減ったというのもある。

 最高級の薬を隙間埋めついでに入れるのだけはね……駄目だよね……


 あまりのことに本の報告とともにヴィレイ先生に報告しちゃったもんね。

 呆れた目で自分で保管するか送り返すか決めろって言われた。

 送り返すのもあれだからと今も部屋に置いてあるけど、本当にびっくりしたのだ。


 ちなみにヴィレイ先生が呆れていたのは私にではなく姉さまにだったみたいで、怒られたりはしなかった。

 むしろちょっと慰められたくらいだ。


 なんて考えながら本を読んでいる間に順番が巡ってきたので本を置いて立ち上がる。

 今年の予定、というだけでちょっとワクワクしてくるので貰えるのが楽しみだ。

 ついに本格的に攻撃魔法を学び始めることができる。


「これがお前の予定表だ。取った科目に間違いがないか確認しておけ」

「はい」

「休みの間の確認は……杖を弄ったか?」

「いいえ。点検はしてもらいましたが、特に調整はしてません」

「そうか。荷物の中に入れた覚えのない物は?」

「本と茶葉と服が出てきましたが薬は入ってませんでした」

「そうか」


 先生もしかして今ちょっとホッとしましたか?

 姉さまの行動で頭を抱えがちな人だから今回は無くて安心したのだろうか。

 なんていうか、ヴィレイ先生は意外と苦労人だよなあ。


 周りを振り回してそうな見た目してるのに大体振り回される側だし。

 魔術関係の人のはずなのに常識人だし。


「お前、今何か失礼なことを考えてるな?」

「……ソンナコトナイデスヨ」

「それで乗り切れると思うなよ」


 ヴィレイ先生には必殺笑って誤魔化すも通用しないから厄介だ。

 なんて考えていたら睨まれたので目を逸らしておく。

 横顔に視線が突き刺さっているのを気付かぬふりを通したらため息が聞こえたので、これは許されたようだ。


「まあいい、今年も研究室所属の予定はないんだな?」

「はい。とりあえず今は」


 私の確認事項はこれで全てのようで、戻って時間まで待っていろと指示が出た。

 この確認の時間は結構人によってかかる時間に差がある。

 確認事項の内容と量に寄るんだろう。ちなみに私はちょうど中間くらいだ。


 教室の中に戻って本を開き、時間になるまでに読み終わるだろうか、と考える。

 まだそれなりに時間はあるので、読み終わらなかったとしてもかなり進むだろう。

 そうなると別の本を借りに行かないといけない。


 今日はこのまま終わりになるが、皆は研究室の方に行くらしいので暇なのは私だけだ。

 荷物の整理も終わっているし、本を借りてきて部屋でお茶をすることになるだろう。

 いつの間にか荷物に入れられていた茶葉があるし、それを飲んでみようと思っていたのだ。


 そんなことを考えながら本を読んでいる間に全員の確認が終わったらしく、ヴィレイ先生が教室内に戻ってきた。

 これで終わりかと思ったけれど、それにしては時間が余っている気もする。


「全員確認は終わったな?荷物をしまえ。移動するぞ」


 どこに行く、とは教えて貰えなかったが、全員が黙って荷物を整理して廊下に出るヴィレイ先生について行く。

 わざわざヴィレイ先生が先導するということは今まで行ったことのない場所だろうか。


 学校の敷地は結構広いが、立ち入り禁止の場所はあまりないのでその気になればすべての教室も把握は出来る。

 まあ使わない教室を覚えている人はそう居ないだろうけど。


「これから向かうのは研究職との合同授業の際に使う教室だ。覚えろ」


 向かっている方向的に生活施設の方だろうか。

 研究職と戦闘職の間、となると確かに妥当なのかもしれない。


「ここだ。全員中に入れ」


 鍵のかかっていた扉を開けてヴィレイ先生が中に入っていく。

 その部屋の中は奥が低い作りになっていて、幅の広い階段に合わせて席が置かれていた。

 最奥の広めにとられた空間に合同授業の教師が立つのだろう。


「基本的には左に研究職、右に戦闘職が座ることになる。それぞれの教室から近い入口に入ればいいだけだから分かるだろう。

 ここで行う授業は座り順は自由だが、あまり騒ぐようなら引き離す」


 淡々と説明をしながら、先生は最奥に向かって行く。

 何か確認することでもあるのだろうか。


「さて、今日の日程はこれで終了だ。各自解散していいが、明日の準備をしているからそれを邪魔するようなことはするなよ」


 はぁい、と返事をしてそれぞれが目的地に向かって去って行った。

 私も図書館に行こうと思ったのだけれど、ヴィレイ先生がじっとこちらを見ているので何となく動きにくい。


 ……今日までヴィレイ先生の手伝いを避けてたからそれだろうな。

 私もそろそろ片付けに行かないと、とは思っていたけど、それも何かおかしい気がして結局行かないままにしていたのだ。


 何となく動けないまま室内は私だけになり、何かの確認を終えたらしいヴィレイ先生がこちらに歩いてくる。

 ……無言で見られるとどうしていいか分からなくなるのだけれど。


「セルリア、暇か」

「……片付けですか」

「ああ」

「そんな堂々と……」


 まあ、暇ではあったし。片付けを終えた後でも図書館には行けるだろうし。

 いつかは行かないとと思っていたので別にいいけど、この人は私が卒業した後どうするつもりなのだろうか。


 私が卒業までに姉さまの関わらない価値観を作るのよりも難易度の高い課題な気がする。


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