11,種族的にも私は平凡
芝生の上で座って先生の話を聞くという謎の授業光景二限目も続き、二度目の時間を知らせる鐘の音で中断された。
その音を聞いて、先生は杖を一振りして浮かべていたあれこれを片付ける。
そして、いい笑顔で笑った。
「時間なので、ここまでにしましょう。皆さん次の授業に遅れないようにしてくださいね」
解散、と合図があってから生徒たちは一気に動き始める。
私も行こうと思ったのだが、横ですぴすぴと寝息を立て続けているソミュールを発見してため息を吐いた。
「ねえ、授業終わったよ」
「んえー……?」
「移動だよー」
「うん……ああ、そっかぁ。ありがとー」
くあっと大きな欠伸をして、ソミュールは立ち上がる。
……何だろうか、この違和感は。
微かな気配の違いというか、魔力の流れの差というか。
「……んふふ。ねえ、名前なんだっけ」
「セルリア」
「そっかー。セルリアは優秀な魔法使いなんだねぇ」
「なに、急に……」
「こんなに早く気付かれるとは思ってなかったなぁ」
楽しそうに言うだけ言って、ソミュールは移動を始めた。
その後をついて行きながら言葉の意味を探す。
……もしかしたら、だけれども。これはそういうことなのだろうか。
「ねえ、ソミュール」
「なあにー?」
「貴方の種族は?」
「んふふふ。他の子にはまだ言わないでね?」
そんな前置きをしてから、ソミュールは顔を寄せてきた。
こちらからも顔を寄せて彼女の口の動きが見えにくいようにする。
「夢魔族、だよ。聞いたことある?」
「……魔力の貯蓄をする種族?」
「そうそう、それぇ。知ってるんだねぇ」
楽しそうでいて眠たげなその笑顔も、種族名を聞いて納得してしまった。
なるほどな、と勝手に頷きながら歩き出すと、楽しそうに笑って後ろを歩く音がする。
「ねえねえ、セルリアー」
「なに?」
「知ってる?今年の新入生で魔法適性A+なの、僕ら二人だけなんだよぉ?」
「……むしろなんで他の人の評定まで知ってるの?」
「んっとねー。魔法陣の光で分かるんだ」
……目の作りが違うのか、それとも彼女の個人的な特技だろうか。
話しながら授業には遅れないように歩みを進める。
ソミュールも遅れるつもりはないらしく、ちゃんと歩いていく。
「僕らあんまり一緒にならないだろうから、こうして話す機会あって嬉しいなぁ」
「え?魔法使いだし、一緒になることありそうだけど」
「んー?ほら、僕ら固まると能力偏るから、ばらされると思うよ」
「ああ、なるほど……」
つまり、何か実技系が行われる時は今回固められていた魔法使い組はばらけることになるのだろう。
言われてみれば納得なので、素直に頷いて歩みを進める。
ソミュールは眠たげに欠伸を噛み殺しつつゆったりと歩いている。……この速度で大丈夫だろうかと少しだけ心配になったので、その背中を押すことにした。
「うへー」
「遅れるのはまずいし、ぎりぎりもまずいでしょ」
「分かったよぅ」
せっせとソミュールと移動させて、たどり着いたのは自分たち以外が移動を終えた教室。
まだ席に座っていない人も多かったのでどうにか目立たずに済んだようだ。
ソミュールが自力で机にたどり着いて枕を抱えて眠り始めたのを確認して、私も自分の席に座った。
……これは、友人と言ってもいい関係性なのだろうか。
まだ話したのか今回だけで、ちょっと一緒に移動しただけなのだが。
心配だー心配だーと最後まで言い続けていた姉さまとシオンにいに、少しでも安心させられるような報告をと思っていたのでいい話題なのではないかと考えてみる。
考えてみて、今手紙を書いたとしても話題はソミュールの種族についてしかないので諦めることにした。
彼女個人の性格云々ならまだしも、種族についてではあまりに味気ないしそれにしか興味が無いような書き方になってしまいそうだ。
私としては、ソミュールとは仲良くなれそうな気がしているのである。
なんとなくだけども。いままで外部に友人がいたことはないので、ただの希望的観測なのだけども。
どうにもならない思考の気配を感じて、ため息を一つ。
思考を切り替えようそうしよう。何がいいだろうか、なんて考えていたら教室の扉が開いた。
同時に鐘が鳴って、授業開始を知らせてくれる。
これで一旦他のことを考え無くなるだろうと一人笑って教科書を取り出して、教卓に立った先生を見上げる。
「やあやあやあや。授業始めるよ」
そんな風に緩く言いながら教卓に手をついた先生を眺めながら、指示通りに教科書を開く。
先ほどとは違い外に出たり何かを聞かれたりはなく、淡々と進む授業に眠気を覚えている生徒もいるようだった。
ちらっと見えたソミュールは完全に眠っていたが、先生は気にした様子がない。
寝ているのは問題ではない、というよりは、ソミュールだけはそれを咎めるわけにいかないのだろう。
夢魔族は、眠ることで魔力を貯蓄する亜人である。
眠ることで貯まる魔力に上限はなく、数年に一度しか起きない夢魔族もいると聞いたことがあるくらいだ。
その間ずっと魔力は溜まり続けるので、何か大きな魔法を行使する際に起こされることがあるのだと。それ以外は貯蓄と称して眠り続けるのだという。
そして、これが重要なのだが、夢魔族は眠気に逆らうことは出来ない。
それが戦場の最中であっても、敵陣に乗り込んでいる時であっても、彼らは一度感じた眠気には逆らえない。
それが夢魔族だ。ソミュールを見ている限り、魔法に精通した種族であるのだろうと思うが、それ以上に睡眠に対する特異性が勝ってしまう。
ソミュールに眠るなというのは、私に言うのとは訳が違う。
の、だろうと。まあ本人から聞いたわけではないし全ては憶測なのだが。
とりあえず、怒られていない理由はそれで当たりだろうと思う。
先ほど使った魔力を補填でもしているのだろう。
「さーて、一応言っておくけど、寝てる子は減点だよー。なるべく起きてなさいなー」
先生のその言葉を聞いて、他の生徒はびくりと身体を震わせて眠気を追い出しているようだ。
起きていないのはソミュールだけであり、当の本人は抱えた枕に顔を埋めて完全に寝ていた。




