109,授業開始の日
天井の明かりが点いて朝を知らせ、それに身体が反応して目が覚める。
身体を起こして時計を確認し、制服に着替えて髪を結んで部屋を出た。
今日から授業が始まるので少し早めに食堂に向かうことにする。
適当な朝食とお茶を取っていつも座っている場所に陣取り朝食を食べ始め、少しするとロイがやってきた。
ロイもいつもより少しだけ早いだろうか。
「おはようロイ」
「おはよう、セルリア」
「今日はちょっと早め?」
「そうかな?……まあ、確かにちょっと早かったかも」
お互いちょっとソワソワしているみたいだ。
授業が始まると言っても今日は全員帰ってきているかの確認と、今年の授業のあれこれを説明されるだけなのだけれども。
ちなみに明日が入学式だ。
またあの長い話を聞かないといけないのかとちょっとげんなりしてしまう。
あれをしっかり聞いている人は居るのだろうか。
「おはよぉ……」
「おはようシャム」
お茶をパンを持ったシャムが合流して私の横に座り、ちまちまとお茶を飲み始める。
食堂の中は随分と人で賑わい始めたけれど、リオンは今日起きてこないのだろうか。
初日から遅刻は不味いと思うのだけど。
「ふあぁ……明日から後輩たちが入ってくるんだよね?」
「そうだね。入学式の後すぐに一緒にはならないだろうけど」
「後輩が入ってくると何かあるの?」
「研究室に人が来るかどうか、かな」
「あ、そっか」
私は結局研究室に所属していないのであまり考えていなかったが、一年生がどれだけ入ってくるのかも重要らしいのだ。
あまりにも人数が少ないと研究内容を引き継げなかったり色々あるらしい。
まあ、私は全く関係ないんだけどね。
今年も研究室に所属する予定はないけれど、遊びにおいで、とは言われているから所属していないのに遊びに来る人になる予定だ。
「おーっす」
「あ、リオン。起きたんだ」
「まあ初日くらいは流石にな」
「毎日ちゃんと起きなよ」
シャムがパンを千切り始めたのを見ていたらリオンがやってきた。
相変わらず朝から持ってくる量が多い。
これを毎回食べ終えているのだからどういう食べ方をしているのか不思議になる。
「つーか今日って何すんだ?」
「お知らせ読んでないの?」
無言で目を逸らされた。つまり読んでないらしい。
各部屋にお知らせの紙が届いていたはずなのだけれど、まさかそれすら確認していないのだろうか。
「今日は今年の授業とかの確認だよ。後は休み明け恒例人数確認」
「そうなのか」
「本当にお知らせ読んでないんだね……」
「リオン、文字が読めないわけじゃないんだよね?」
「おう。普段なんも来ねえから確認すらしてなかっただけだ」
私はよく家から手紙が来るのでそれなりの頻度で確認しているけれど、そういうことがないとそもそも見ないのか。
ちょっと驚きだけれど、納得もしてしまった。
まあ集合場所が特殊というわけでもないしいつも通り教室に来ればいいのだから見なくても問題はないのかもしれない。
そんなことを話している間にリオンの持ってきた朝食は半分まで減っていて、あまりの速度に二度見してしまった。
シャムなんてまだパン食べ終わってないのに……
また喉に詰まらせないといいけど。
「……ロイ、パン食べる?」
「うん、貰うよ」
リオンを眺めていたらシャムがパンの三分の一くらいをロイに渡していた。
今日も食べきることは出来なかったみたいだ。
まあ、半分以上食べただけでもシャムの朝食としては多い方だろう。
「さて、じゃあ行こうか」
「うん。セルちゃん、リオン、またお昼にね」
「お昼にねー」
手を振って二人を見送り、ラストスパートをかけ始めたリオンを眺めて時間を潰す。
お茶も飲み切ったし後は本当にリオンが食べ終えるのを待って移動するだけだ。
「よっし、行くかー」
「本当に噛んで食べてる?」
「食ってる食ってる」
疑わしい速度だったが、時間内に食べ終えているわけだしこれ以上何か言うことも無いだろう。
そんなわけで食器を片付けて教室に向かっていたらソミュールを引きずるミーファを見つけたのでいつものように浮かせて手伝うことにした。
「おはようセルちゃん!リオンも!」
「おーっす」
「おはようミーファ」
「聞いて聞いて!先生がソミュちゃんの部屋の鍵くれたの!」
「そうなの?良かったね」
「うん!魔道具らしくて、私以外には使えないんだって」
「なるほどそれなら安心か」
先生たちも去年一年間ソミュールが一限目から教室に居るのがミーファの功績だと知っていたのだろう。
ついにスペアキーを入手したミーファは朝からウキウキだ。
真っ白なうさ耳がぴょこぴょこ動いている様子はあまりにも可愛らしい。
撫でたい。今はやめておくにしても近いうちに撫でまわそう。
心の中でそう決めて、教室に入ってソミュールを席に座らせて落ちない様に頭の位置を調整する。
そんなことをしている間に時間になったらしく、鐘の音と共にヴィレイ先生が教室に入ってきた。
入ってきてすぐに教室内を見渡して、青銀の瞳が細められる。
思ったより人が多い、なのか、思ったより人が少ない、なのか。
基準が分からないのでどちらなのかは分からないけれど、多分どちらかだろう。
それでも何も言わずに教壇に持っていた書類を置き、改めて生徒たちを見渡した。
「さて、始めるぞ。各部屋に届いただろう今日の日程を読んでいないものもいるだろうが、気付かない奴は知らん。内容を聞いて察せ」
相変わらず切り捨てる勢いがいい。
まあ、これを聞くと授業が始まるって気分になるから嫌いではないんだけどね。




