103,出発準備と新しい服
開けっ放しになっていた窓から朝の澄んだ風が顔を撫でていき、目を開けると朝日が入り込んでいた。身体を起こして伸びをして、窓の外をぼんやりと眺める。
休みももう残り少なくなっており、私は昨日から学校再開に向けて荷物をまとめ始めた。
明後日はフォーンに出店が行く日であり、学校の寮も開くのでそれに合わせて荷物整理を終わらせる予定だ。
休みの間は、家に居る時は家の手伝いやら魔法の練習やらをして、出店について行くときは向かう先の国をウロウロして、フォーンに行ったらリオン達と遊んで、カーネリア様に呼ばれてイピリアにお茶会をしに行ってと中々忙しい日々を送っていた。
まあ、楽しかったから良いんだけど本当に毎日それなりに忙しかった。
ちなみに姉さまは新薬の制作に苦戦しているのか唐突に外に出て来ては芝生に飛び込んでゴロゴロして、そのままお昼寝に移行してコガネ姉さんに回収されていた。
「セルちゃーん」
「はーい。どうしたの?シオンにい」
「ウラハとモエギが、なーんか騒いどるんよ」
「ご飯の支度?」
「ちゃうみたい」
「ふーん……着替えたらすぐ行くね」
「うん。まあ、急がんでもええよー」
ウラハねえとモエギお兄ちゃんが何かしているのはいつものことだけれど、シオンにいが私に声をかけてくるほどの事となるとちょっと珍しい。
この時間だから朝食の支度が何かの事情で間に合わない、とかかと思ったけれど違うらしいし、これはもう行って確かめるしかないだろう。
「おはよう、ウラハねえ」
「おはようセルちゃん。ちょっと来てくれるかしら」
「うん」
ウラハねえに呼ばれてキッチンの方に寄っていくと、どこからかサクラお姉ちゃんが飛び出してきてぎゅっと抱き着かれた。
驚いている間に足元にトマリ兄さんが現れてサクラお姉ちゃんごと私を抱え上げる。
「セルちゃん確保―!」
「どこ行きゃいいんだ?」
「客間!レッツゴー!」
「え?え?」
キッチンの方に呼ばれたから朝ごはんの支度の手伝いかと思ったら、いきなり捕まって抱え上げられて運ばれている。
しかもシオンにいはウラハねえとモエギお兄ちゃんが何か騒いでいると言っていたのに、キッチンにはウラハねえしか居なかった。
これから何が起こるのかは分からないけれど、もしかしなくてもシオンにいも共犯だろう。
それにしても、客間に一体何があるのか。普段お客さんが来ていない時は掃除だけして特に使っていない客間は、まあ何かを隠しておくなら便利な場所なのだろうけれど。
「到着!」
「お、来た来た」
「シオンにい、やっぱり共犯……」
「別に悪いことはしとらんで」
客間の中に入るとソファでくつろいでいたシオンにいがこちらにゆるりと手を振ってきた。
トマリ兄さんに抱えられたまま一体何事なのか聞こうと思ったら、奥の部屋からモエギお兄ちゃんが出て来てパッと顔を明るくする。
「おはようございます。こっちの部屋です」
「お兄ちゃん?私何も聞いてないんだけど……」
「あれ、説明してなかったんですか?」
「うん!」
「そんな元気よく……」
あまりにも元気よく返事をしたサクラお姉ちゃんにモエギお兄ちゃんが苦笑いして、ようやくトマリ兄さんに降ろしてもらえた私を手招きする。
そちらに歩いていく私の後ろをシオンにいがついて来ている気配がするのだけれど、シオンにいは奥の部屋に何があるのか知っているのだろうか。
「実は、セルちゃん用に動きやすい服を何着か作ろうって話になったんです」
「わあ、すごい量」
「ちょっと盛り上がっちゃって……」
私の着ている服は基本的にモエギお兄ちゃんとウラハねえが作ったもので、どんな服になるのかは私の希望やその時のお兄ちゃんたちの趣味による。
今まではそれなりに動きやすくてそれなりにふわふわしている服が多かったのだが、私が冒険者登録を考えていることもあってか動きやすさに全振りした服を制作中みたいだ。
……それにしても、ちょっと盛り上がった程度の量ではない気もするんだけどね。
服自体はすごく有難いので何も言うことはないのだけれど、これを全て持っていくとなると寮のクローゼットがぎちぎちになってしまう。
「朝ごはんの前に主を起こすまでの時間があるから、その間に何となくでも持っていくものを選んでもらおうと思って」
「そっか、姉さまは起こさないと起きないもんね」
姉さまはいつもコガネ姉さんに布団を剥がされるまでぐっすり眠っているので、多少朝ごはんの時間が遅くなっても気付かないのだ。
なのでうっかり朝食の準備に手間取った日は姉さまを起こす時間をずらして誤魔化していたりする。知らぬは姉さまだけである。
「一応、戦闘に出てもある程度は大丈夫なように耐久性の高い素材を使ってみたりもしたんですよ」
「最近わざわざウラハが買い物行ってたんはこれやったんやなぁ」
「私とも別行動で買い物行ってたもんね……」
ウラハねえがわざわざ一人でお店を巡っているのは知っていたけど、まさかこのためだったとは。
二人とも服を作るのが好きなのもあるんだろうけど、この量を生地を買ってくるところから始めてあの短期間で作ってしまうのは本当にすごい。
「気に入った物をもう少し作り込んで出発までに間に合わせますからね」
「はーい。どれにしようかな……」
動きやすさだけを求めるならもっと似たようなデザインの物を大量に作ることになる気がするんだけど、全くそんなことはなく全部どこかしらが違っている。
なので真剣に選ぼうと思うと朝食までの時間に一着も決まらない、なんてことにもなりかねない。
全部今決めてしまわないといけないわけではないにしろ、一着くらいは先に決めた方が後が楽だからとこの時間に呼ばれたんだろうし直感でも何でもいいから一つ選んでしまおう。
どうせどれを選んでも動きにくいわけはないしね。
「……あ、これいいな」
小さな服屋のようになっている部屋の中を見て回って、一着目に付いたものを手に取ってみる。
動きやすさを重視したという言葉の通り、普段来ている服と違ってスカートではなく後ろだけが少し長く下にズボンを履くようになっているみたいだ。
他にも私が左手に杖固定用のブレスレットを付けているからか左の袖だけ少し短かったり、完全に私が動きやすい、扱いやすいように作ってくれているみたい。
ここにある服が大体左側の布を短めにしてあるのは、私が左手で杖を回すからだろう。
「……うん、とりあえず、これは持っていこうかな」
「分かりました。じゃあ一回ご飯を食べに戻りましょうか」
「うん。ありがとう、モエギお兄ちゃん」
お礼を言うとお兄ちゃんはにっこりと笑って、先に部屋を出ていった。




