101,ソミュールの保護者代理
ソミュールとミーファを追いかけるように部屋に入ってきた人は、私と目が合うとにっこりと笑みを浮かべた。
この人がソミュールの知り合い、この家の家主なのだろう。
魔法関係の人だ、とは前に聞いたことがあるけれど、魔法が関わるものは結構幅が広くそれだけでは何をしている人なのかは分からないのだ。
私は魔法使いだけれど、魔法関係という括りにすると魔道具職人も同じジャンルになってしまう。
「やあ、君がセルリアだね?」
「はい。初めまして」
「初めまして、僕はヴェロー。ソミュールの保護者代理みたいな者だ」
「保護者代理……?」
「ソミュールの母親と昔からの友人でね。彼女は数年に一度しか起きないから、出来れば気にかけてやってくれと言われているんだ」
ソミュールは純血の夢魔族なので両親も夢魔族なのは分かっていたけれど、母親が数年に一度しか起きないと聞くとどうしても驚いてしまう。
……それとは別のことだけれど、ヴェローと名乗ったこの人は人ではない気がする。
魔力の感じが人間のものとは違う気がするので、混血なのか亜人なのか、どちらかだろう。
学校に行き始めてから色々な種族と関わった結果、ちょっとだけそのあたりの探知が上手くなったのだ。
「ヴェローはエルフだよー」
「そうなんだ」
「そうだったのか」
「リオンは知らなかったんだね……」
実は純血のエルフと会ったことがほとんどないので、これがエルフの魔力……なんて思ってしみじみ見てしまった。
……ヴェローさん、多分女性だと思うのだけれど、一人称は僕らしい。
ソミュールもそうだし、もしかしてソミュールはこの人の真似をしているのだろうか。
なんて考えながらソミュールを見ると、彼女はソファの横に置かれた一人掛けの不思議な形の椅子に沈み込んでいた。
スヤスヤと心地よさげな寝息を立てているので寝ることが分かっていたから最低限の案内などを終わらせてお気に入りの場所に座ったのだろう。
割と学校でもよく見る光景なのでそのまま放置しておく。
「さてさて、ソミュールが君のことを随分褒めていたから、気になっていたんだ」
「褒めてた、ですか?ソミュールが?」
「あれ、そんなに褒めたりとかしないタイプだったっけ。べた褒めだから本人にも言ってるものだとばかり」
「ソミュちゃんはセルちゃんが居ないところでよくセルちゃんの話してるよ」
普段私とはそんな話をしないのでかなり驚きだったのだけれど、ミーファからすれば当たり前のことになっているみたいだ。
驚きはしたけれど、悪い気はしないのでそれ以上は聞かずにヴェローさんに向き直る。
「ヴェローさんは魔法の研究をしているんですか?」
「うん。研究もしてるよ。他にも古代魔法の解読とか、魔道具の制作とか……あとは魔法回路とか魔導基盤とかも研究対象だね」
「幅広いですね……」
「せっかく魔法に長けた長命の種に生まれたのだから、あれこれやってみるべきかと思ってね」
これもエルフの知識欲の一種なのだろうか。
全て魔法に関連していることなら別のことでも少しづつ関りがあったりするのかもしれないし、まとめて研究することで見えてくる何かがあるのだろう。
……古代魔法の解読とか、すごく気になる。
シオンにいが古代風魔法解読書をくれたので今読んでいるところだけれど、解読できたのはごくごく一部でまだ演唱の一割ほどしか分かっていないのだ。
それが分からないと試すことすらできない。
しかもどんな魔法なのかも分からない。だからこそ古代魔法の研究はロマンなわけだけれど……出来るなら使えるようにもなってみたい。
「魔法ってそんな種類あんのか」
「細分化しようとすると無限に細かく出来るよ」
「私も最初は驚いたよ……三種類なんだと思ってたの」
「まあ、ざっくり三種類だからね。時代により魔導書の記入も三種類だったり四種類だったり、もっと多かったりもするんだ」
魔法使い以外はあまり関わりのない話だろうけど、魔法というのは本当に種類が多いのだ。
今は「攻撃魔法」「補助魔法」「回復魔法」と三種類に分けるのが主流だけれど、その他に「防衛魔法」を加えて四種としている時代や「即死魔法」を入れて五種にしている時代もある。
ちなみに数十年前に即死魔法は禁術指定されてたので、今は扱うことも学ぶことも出来ない。
その他にも「移動魔法」を別にしている時代があったり「生活魔法」なんて区別があった時も存在するらしい。
そんな話をミーファとリオンにざっくり説明すると、二人は顔を見合わせて首を傾げる。
言いたいことは何となくわかる。なんでそんなにあるんだ、だろう。
私も初めて聞いた時は同じことを思ったし、今そんなに種類が分けられていなくてよかったな、なんて思ったこともあった。
「生活魔法ってなんだ……?」
「普段の生活に役立つ魔法。火を起こすとか、水を生み出すとか、重い物を運ぶとか」
「それは今どの分類になってるの?」
「火を起こすのは一番簡単な火の魔法だから分類的には攻撃かな。水を生み出すのも攻撃のはず。重い物を運ぶのは補助だったと思うよ」
「セルが普段使ってんのは?」
「空飛んでるのは補助。それ以外は基本的に攻撃魔法かな」
余計に訳が分からないという顔をされた。
そんな分類を気にして使う魔法を選ぶ魔法使いは居ないのだから分類はごちゃまぜにもなる。
使えりゃいいんだよ、使えりゃ。とは私が知る中で一番強い攻撃型魔法使いの言葉だ。
「ははは、本当に詳しいな。ちなみにこれとか見たことある?」
「……結構古い魔道具、ですね。……雷?移動用ですか?」
「当たり。常に魔力見てるわけじゃないんだね」
「まあ、私ただの人間なので……」
「え、そうなの?四分の一くらいエルフとか混ざってたりしない?」
「何回か同じようなことを言われた記憶がありますけど純血の人間です」
本当に、これは結構言われるのだ。
エルフが混ざっているんじゃないか、もしかしてエルフが魔法で耳の形を誤魔化しているんじゃないか、みたいな。
そう思う理由は魔法適性と魔力量、それから読書への執着心らしい。
確かに読書欲は強い方だと思っているし、魔力量も多いから下手な杖を持つなとも言われているしけれど、それでもイコールエルフは違うんじゃないかと思う。
「でもなんか森の気配もするんだけどなぁ……本当に違う?」
「森は多分家が森の中だからですね」
「そっか……うーん……まあ、そういうこともあるか」
首を傾げてはいるけれど、納得はしてくれたみたいだ。
森の魔力と最初に聞いた時は不思議に思ったけれど、エルフは森に住む種族であり別の呼び名で森魔族という呼び方もある。
なのでエルフは特に森に漂う特有の魔力に敏感らしいのだ。
森、という種類の魔力はないはずなのだけれど、分かっていないだけであるのだろうか。
そのあたりの話も聞いてみたいなぁ、なんて思っていたのが顔に出ていたのか、ヴェローさんがお茶を淹れてくると一時退室し、リオンとミーファは運動してくる、と外に出ていった。




