2年後の君は
ガガガガガガガガ
土木工事でもしているかのような轟音のボリュームであるが、リズミカルに奏でてもいるタイピング音。
人間を辞めていると比喩がされるものだが、彼にとってはそれが平時。休むことなく動いている。
後ろには彼の手で壊れてしまったキーボードの数々とPCの残骸達。スーパーコンピュータを導入してやっと、彼の動きについてこれる。
ギイイィィッ
その彼を大切するように防音の特注部屋に、コーヒーを運びに来た女性。
「宮野。どー?調子は?」
「…………酉。今、いいところ」
AIがAIを作っている時代。
まだまだその技術は正確なものとなっていないが、それが現れてもなお人間の一部は想像や想定を超えていく。
ゴキュゴキュ
「ぷはぁ~……まぁ、もうすぐできるよ」
「さっすが、宮野。カッコイイね~」
座っている彼の顔に両胸で抱いてあげる酉であったが、イラッと来たのか。カップに残っていたコーヒーを酉の服にぶちまける。
「離れてろ。俺の仕事に入ってくるな」
「あつ~……素直じゃないわね。あんたと私はいつまで経っても、変われないね」
「……当たり前だろ、何年付き合ってると思うんだ?」
コーヒーでできた染み。新しくしようか、それとも染み抜きしようか。
そんな想いも2年も経てば忘れてしまうこと。
今、宮野が作っている代物はそんなもの。
◇ ◇
「緊張するな」
って思っていても、もう10社目だ。もう慣れちまったなぁ~。
就活めんどくせぇ。給与良くて、休みもあって、とにかくホワイト企業。そんな会社にだけ入りてぇーんだよ。
コンコン
「失礼します……!」
おぉぉっ……。
そんな気持ちになったのは面接官ではなく、就活生であった。魔王でも座ってそうな邪悪なデザインをされた椅子に、腰掛けろという状態。椅子の背もたれは大樹のように太く、伸びており、上にはモニターがついている。
なんか会社間違えた?……そう思ってしまう、雰囲気。今まで経験した事がない。
「座っていいですよ」
「は、はい!」
しかし、その後は様式美。自分の名前、志望動機、経歴、仕事内容などなど……一般常識を問われて、それを答えていくだけ。椅子のデザインにビックリしたが、なんか普通の面接だった。
なんでこんな椅子なんだ?
「それでは、今日はありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
バタンッ
就活生、退室!
「……じゃあ、モニターを見ましょうか」
「面接だけの情報で彼の2年後が見えるとは、面白いAI導入したものですよ」
そうして、面接官はスイッチをいれ、椅子に取り付けたモニターに2年後の彼が映し出されていた。
「おおぉ、彼は1年間は働いているのか。まずは合格点」
なんだその回答。
そして、モニターに映る彼の仕事の様子。
『あー……マジでつまんねぇ仕事。毎日毎日、同じような仕事して、給与も全然上がんねぇ。でも、彼女がいるから頑張るか~』
「うわぁっ、めっちゃ仕事に対しての熱意なくなってる。でも、彼女いんのかよ!クソが!」
心の様子だけでなく身辺状況まで、このAIは予想するらしい。ひとまず、熱意はなくなったけど。事情があって仕事を続けているようだ。
『残業残業。新人は生意気だし、上司はクソだし。あー、転職しよっかなー。キレて転職しちゃおっかーな?俺、戦力だけど。会社困るだろうなー』
「あー。まぁー。好きにどうぞ」
事情で仕事をやるタイプありがち。仕事を辞めたら、会社困るだろうな~、という謎の自信。
熱意に対して、対価が乏しければそんな事になってもしょうがない。しかし、会社がそーいう待遇をしないという事は彼の実力がどーいうものか、想定できる。
『こんな会社でも出世するより、他の会社行った方がスキルアップするな!でも、会社がそんなこと知ったら、怒るだろうな~。俺、戦力だから……よし。転職するか!』
「……なるほど、分かりました」
2年後の君は我が社を抜けて、ライバル会社に行く。戦力とも言い辛い未来も観た以上。
「不採用」
◇ ◇
「酉さーん、報告でーす」
就活生の2年後を予想するAI。そのプロジェクトを受け持った酉に結果報告が来た。
「どれどれ……」
『なんで8割ほどの就活生が2年後で転職ばかりする結果になるんですかね(怒)』
『転職を想定した人を入社させるなんてできませんよ(怒)』
『こっちは奴隷が欲しいんだよ!』
そーいう風に作ったつもりはないんだけど。
そーいう人達だったって事じゃない?
「まったく、失礼ね」
「いや。そんなAIを作るなよ。就活生が可哀想だろ……たぶん。中にはその、真面目に働く人だっているんだから」
4年くらい前かな。ウチの会社を辞めた人と、先輩が一昨日会ったらしいんですよ。
彼が辞める時、『夢を追いかける』って言ってたんですよね。
音楽関係の夢にね。
どこで先輩に会ったかって言うと、○○ク○フで。
「……あれ?○○だよね?ウチで働いていたよな?」
向こうは先輩の事をよく覚えてなかったらしいんですが、こっちはその彼の辞め方が印象的だったんで覚えてたんですよ。逆ギレで辞めたから。
「お前、学校行って、プロになるんじゃなかったの?」
「あ、その……1年で辞め、…あ、諦めました」
「……そうなんだー」
すげぇ気不味い空気だったと、先輩は言ってました。
そんな近況を聞いて自分は驚きました。
「え?あいつ今、○○クオフなの?去年、ケ○タッ○ーで働いてましたよ」
「知っていたよ。知ってる上で聞いたんだよ。一昨年は工事現場の誘導係だろ?」
転職とかはいいんだけどね。
コロコロ職場をよく変えてるなーって、彼に関心しました。