女勇者の父、団らんを楽しむ
10時に間に合いませんでした。
すみません。
この年末年始は我が家に家族全員が揃った。
実は初めてのことである。
王立学校に通うルナは長期休みがなく、年に数回設けられた短い休みでは馬車で往復できない。
そのため、年末から年始にかけての2週間ほどの休みの間だけ帰ってくることができた。
一方、俺は各大陸、各企業のパーティーに顔を出して人脈を広げたり、情報を交換したりしていたため年末年始は家にいることができなかった。
ルナとはすれ違いの生活になってしまっていた。
しかし、家族が勢ぞろいするのが初めてと言った理由はそれだけではない。
俺と妻のアンジェリカ、そしてルナの3人ならルナが王立学校に入学するまでは毎日いっしょだった。
初めてと言った理由は、ルナに抱っこされている幼い子供、今は2歳になった次女のソラだ。
妻のアンジェリカと同じ金髪のルナと違い、ソラの髪は茶色い。
これは俺に似たのだろう。
年末に帰ってきて以来、ルナはずっとソラにつきっきりだ。
まだ言葉がはっきりと言えない妹に向かって必死に「ねえね」と自分を呼ばせようとしている。
王立学校の寮に戻るまでには必ず言わせてみせると燃えている。
そのため、俺はルナにもソラにも構ってもらえない。
「まあまあ。あなたには私がいるじゃない。」
そういって妻のアンジェリカが慰めてくれる。
「そうだな。しかし、アンジェリカには苦労をかけたな。」
この3年、あと3ヵ月もすれば4年か、俺は自分のやりたいことをするためにほとんどこの家に帰ってきていなかった。
魔王を倒すと旅に出て、世界の成り立ちや神々のゲームの話を知り、勇者と魔王を戦わせないために会社を起こした。
各方面に根回しするためにまた世界中を旅して、あちこちに蒔いた種がようやく実を結んだところだ。
その間、アンジェリカは文句も言わず(俺が家にいないのだから言えるはずもないのだが)この家を守り続けてくれた。
さらに、ソラが生まれる前後こそ予定をやりくりして側にいたが、妊娠中のほとんどと生まれてからの子育ては彼女にまかせっきりにしてしまった。
こうして家族4人がここで団らんできるのもアンジェリカの献身があってこそだ。
「ありがとう。」
自然と感謝の言葉が出てくる。
いきなりお礼を言われた側のアンジェリカはキョトンとした顔をする。
「……どういたしまして。アベルも頑張ったわね。なんとかなりそうなんでしょ?」
「ああ。ようやく計画が軌道に乗ったからな。俺がすることはあとほんの少しだ。」
「まさか、本当に魔王をどうにかしちゃうなんて。私の夫はすごいわね。」
そう言ってアンジェリカはウフフと笑った。
「別に倒した訳じゃないからな。旅に出た頃の俺は本気で魔王を倒すと思っていたけど、よっぽど切羽詰まってたんだな。」
「心配してたけど、無事に帰ってきてくれてよかったわ。」
「だけど、まだ終わった訳じゃない。4月でルナは5年生。卒業まであと5年だ。その間に魔族に新大陸に移住してもらわないとならない。」
5年丸々使える訳ではない。
魔族の新大陸移住のリーダー、クリムは六大陸連盟の議長を務めている。
その間は六大陸連盟の仕事に専念してもらいたいし、そうする義務がある。
議長の任期は2年で持ち回りと連盟の事務方のトップであるラウールと相談して決めている。
なので、実際に魔族を移住させることができるのは2年後以降となる。
クリムを魔族全体のリーダーとして認識してもらうためとはいえ、タイトなスケジュールにしてしまった。
「今になって考えるともっと簡単に問題を解決する方法があったんじゃないかって思うことが多くてさ。」
俺の娘が危ない目に遭うのは嫌だからというきっかけで世界を巻き込んでの大事業が始まってしまった。
これが本当に正解だったのか。
「六大陸連盟がきちんと機能して、世界中のみんなが幸せになればあなたの選択が正解だったってことでしょ。だから、あなたのお友達のことを信じて、あとは自分にできることを精いっぱいやればいいのよ。」
「うん、そうだな!」
そうだ。
六大陸連盟はきっと世界を良くする。
俺は世界中を旅してきて、様々な問題を見てきた。
俺ひとりの力ではどうにもできない問題も多くあったが、クリムやゾゾゾゾゾ、ラウールたちが世界中の国や組織と力を合わせればきっと解決できる。
だから、仲間たちを信じて、俺は俺にしかできないことを頑張ろう。
午後2時過ぎになるとソラが昼寝を始めてたので、ルナが俺の座るソファーの隣にちょこんと乗ってきた。
秋に10歳になったばかりのルナはまだまだ子供らしさで溢れている。
よく見ると顔つきや体つきが少しずつ大人びてきているのだろうが、いつまでも子供でいてほしい親の願いが俺の目を都合よく曇らせてくれている。
「パパは世界中を旅してたの?」
「そうだよ。」
「火大陸は行った?」
「もちろん、聖大陸を出て最初に行ったのが火大陸のドワーフ王国だよ。」
「ドワーフ王国の女王様って若い女の人に変わったらしいけど、パパは知ってる?」
「ああ、ププププププ女王だろ。パパの友達だぞ。」
「え、本当!?すごーい!!」
友達だよな?
少なくともソフィアの友達だし、友達の友達は友達ってことで。
「ププププププ女王はお日様みたいなオレンジ色の綺麗な髪の毛をしていて、太陽みたいにキラキラ笑ってたぞ。」
それから、俺はルナに世界中で俺が経験したことを話した。
船酔いは地獄のような苦しみを味わうが、ドワーフ族の薬が効くこと。
エルフの料理が口に合わなかったこと。
海人族のカッツォーとハナァーコ夫婦の話。
手先が不器用で変わったしゃべり方をする獣人族のガルウについて。
パパには魔族にも友達がいて、ルナにも将来は色々な種族の友達を作ってほしいと思っていること。
さすがにリュウジンのことは言わなかったが、ルナが将来、自分で辿り着いたりするのだろうか。
そんな俺の話を、娘は目を輝かせて聞いていた。
「じゃあ、次はルナが学校の話を教えてくれ。」
「うん、いいよ!えーっとね!じゃあ、リズちゃんのことから……。」
最後まで読んでいただきありがとうございました!
物語は終盤に差し掛かっていますが、ようやく家族の話を少しだけ書けました。




