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女勇者の父、魔王と話す その4

「新大陸は魔王であるクリム王子に発見していただいてこそ、その真価を発揮するのですから。」


俺の発言に目の前のクリムが戸惑いの表情を見せる。


「アベルさんとお会いしてからこの短時間で何度口にしたか分かりませんが、また言わせてください。それはどういうことでしょうか?」


これまでの会話では確かに説明不足が否めない。

まだ会ったばかりで全てを正直に話すタイミングではないということ。

勇者と魔王であるルナとクリムが神のゲームの駒であることなど、そもそも話せない、話したくない事実もある。

単純に時間がないのも理由のひとつだ。

最大の理由はこうやってクリムが話に食いついてきてくれるので会話の主導権を握ったままでいられることだ。


「魔族の皆さんにとって、魔大陸というのは故郷です。いくら土地が荒れ果て、生活に困窮しようと離れるのは心情的に大きな抵抗があるでしょう。」


「アベルさんのように世界を渡り歩いている方でもそうなのですか?」


「私などは聖大陸を離れている時間が長い分、余計に家族や住んでいる街に対する想いが強くなる一方ですよ。聖大陸には妻とふたりの娘がおりまして、可能なら今すぐにでも家に帰って3人を抱きしめたいくらいです。」


俺がそう言って笑うのに合わせてクリムも表情を柔らかくする。


「アベルさんも私たちと同じような感覚を持っているのですね。失礼ながら少々意外でした。これまでの突拍子もないお話を聞いていると何だかあなたがまるで別の世界から来られた方なのではないかとすら感じてしまいまして。」


「いえいえ、私なんてごくごく平凡な人間ですよ。だから、私が魔族の皆さんに『ここに新しい大陸がありますよ!みんなでここに移住して新しい生活を始めましょう!』なんて呼び掛けても誰も反応してくれません。民衆を導くにはカリスマ性が必要なのです。クリム王子にはそれがあります。」


「なるほど、だから私が発見したことにさせたいと。」


「ご理解が早くて助かります。クリム王子があの岩礁地帯を抜けて新大陸を発見してきた。そして、クリム王子と共に新大陸を開拓する人を募集する。それが魔族の方々が魔大陸を離れる理由になり得るのです。」


さらに、移住の際の船はハザナワ商会が無償で用意する。

移住後の生活用品や家を建てる補助もハザナワ商会とリード商会が行う。

農地の整備には獣人族が協力し、必要な道具はドワーフ族が製作する。

エルフ族も必要なサポートをしてくれると約束してくれている。

以上のことをクリムに告げる。


「すでにそこまで準備ができているのですか。」


「本来であればクリム王子や魔族のみなさんの同意を得た上で動くべきでしたが、説得するためには先に各大陸の協力を取り付けておくべきと判断しました。お気に障ったのなら謝ります。」


「いえ、ただただその行動力に圧倒されているだけです。しかし、なぜ人族のアベルさんが我々魔族のためにそこまでしてくださるのですか?」


「私は会社を起こす前に世界を旅しました。その際にここにいるガルウを含め、多種族の友人ができました。彼らは見た目こそ若干の違いはあれ、本質は私たちと変わらない、愛すべき仲間だと感じました。そして、気付いたのです。人族も獣人族も、ドワーフ族、エルフ族、海人族、そして魔族。すべてのヒトはこの世界に生きる仲間だと。であれば、困っている人がいれば魔族でも人族でも同じように手を差し伸べたい。世界中の友人のためにできることがあるならしてみようと。」


これは嘘偽りない俺の本音だ。

最初は勇者である娘のルナが神々のくだらないゲームに巻き込まれないようにと始めたことだったが、会社を起こし、世界中で他種族と関わっている内に本当にそんな気持ちになってきた。


「アベルさんのお言葉を聞いて、私は目が覚めました。是非、魔族のために私に力を貸してください!」


そう言うと、クリムはソファーから立ち上がると深く頭を下げた。


「きっとそう言っていただけると信じておりました。私ひとりの力などたかが知れていますが、私の友人たちがクリム王子と魔族の皆さんのために全力でサポートさせていただきます。」


「ありがとうございます!」


クリムはテーブルの上で力いっぱい俺の手を握る。

力強く握られた手のひらごしに、彼の熱意を感じた。


「それで、まずは何から始めましょうか?」


俺の手を握ったまま質問するクリムに俺は答える。


「大陸や国を超えて世界の問題を解決する組織、仮に六大陸連盟とでも呼びますか、それを発足させます。初代の責任者はクリム王子、あなたです。」


クリムの口からまたあのセリフが飛び出る。


「……どういうことでしょうか?」


「魔族の皆さんの新大陸への移住に関してのサポートについては、私やハザナワ商会の社長から各種族の上層部にすでにお願いをしてはいます。」


火大陸はドワーフ族のゾゾゾゾゾゾ王。

土大陸はエルフ族の最大勢力にして、ソベルタ地域を併合し地盤を盤石にしたイベルク地域の責任者ムリアーテ。

このふたりには俺からお願いした。

水大陸と風大陸はハザナワ商会の社長にお願いし、根回しを済ませている。

聖大陸は、俺も国会議員にまでなったものの国王に直訴できるほどではなく、この件に関しては逆に他の5大陸から働きかけてもらうことになりそうだ。


「しかし、貴重な人材や資材を他大陸のために無償で提供するというのは市民にとって納得のいく話ではないかもしれません。国の財産には国民から徴収した税も含まれているのですから。」


「確かに、私も他国のために財産の一部を無償で差し出せと言われれば面白くはありませんね。」


「なので、先ほどの六大陸連盟という組織を立ち上げて大々的に宣伝します。そして、困ったときは大陸間でお互いに助け合うという意識を市民レベルで根付くように仕向けるのです。そうしないとフラストレーションがどこか危険な方向に向く可能性すらあります。」


そこまでは心配し過ぎかもしれないが。

あと、この六大陸連盟の責任者にクリムを据えることで、魔族の中で彼の存在を大きくする目的がある。

成人前の王子がいきなり大陸の垣根を超えた新しい組織の長になる。

魔大陸中で何やらすごい若者がいると噂になるだろう。

こうやってクリムのカリスマ性を上げることで、移民としてついてくる人間が増えるという計算だ。


「しかし、そのような組織の長が私に務まるのでしょうか?」


「ご安心ください。事務方のトップとしてたいへん優秀な者を王子のサポートにつけさせていただきます。」


そう言って俺は、口説き落とすのに非常に苦労した、エルフ族の男の顔を思い浮かべた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


この章に入ってから「作者より頭のいいキャラは書けない」という言葉が頭から離れません(泣)

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