女勇者の父、動き出す
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風大陸でアベル・コンサルティング社としての最初の商談を成功させ、聖王国の王都に戻ってきた翌朝。
俺はガルウと共に王都に借りているアパートメントから、アベル・コンサルティング社に出勤するために王都の中を歩いていた。
「アベル議員、おはようございます!」
すれ違う人たちが俺に声をかけてくる。
俺とガルウも愛想よく挨拶を返す。
自分で言うのもなんだが、俺は今や王都の人気者だ。
1月から行われた聖王国議会において、俺はいくつかの新しい法律を提案した。
それらは施行されればどれも市民の権利を守り、生活水準を向上させるものだった。
例えば、市民が自分の財産を守る権利。
これが認められたことにより市民が自分で買ったり作ったりした物を国や他者が無暗に没収したり、破壊することが禁じられ、破った場合には厳しく罰せられる。
この法律を市民以上に喜んだのは商工業者だった。
なぜなら法律が施行されれば、市民は積極的に広い住居や程度の良い家具、貴金属や装飾品などを購入するようになることが予想されたからだ。
(それを見越して経済界から選出された議員に根回しをしておいたから賛成多数での可決に持っていけたんだけどな。)
他にも俺が親しくさせてもらっている王国騎士団の団長ケビン・コックスに近い議員連中とも協力関係にある。
彼らはあの清廉なケビンと親しいだけあって自分の利益よりも聖王国全体の発展を願っていて、俺が事前に持っていた議員に対する悪いイメージを覆してくれた。
派閥という訳ではないが、俺の周りには情報共有や意見交換を気軽に行える議員仲間が多数おり、聖王国内で順調に発言力を高めている。
もちろん、そんな俺たちのことを快く思わない人物も少なくない。
脅迫まがいの嫌がらせくらいなら可愛いもので、実際に襲われたことも何度かあった。
そのため、俺の側には常にボディーガードとしてガルウかリリにいてもらうようにしている。
アパートメントから10分ほど歩くとアベル・コンサルティング社の社屋が見えてくる。
築ウン十年のボロい建物だが、日当たりが悪くどんなに掃除をしてもかび臭さが取れない。
しかし、大通りからほんの少しだけ奥まったところにあり、立地はよい。
この建物は父、ハリー・リードが友人から頼まれて買い上げたはいいが、リード商会で使うには小さく、放置されていたものだ。
会社を興す際に父に社屋の相談をしたところ、ここを無料で譲り受けることができた。
「おはよう。」
すでに鍵の開けられた玄関から中に入る。
中ではリリが掃除をしていた。
彼女は社長秘書として毎朝、俺が出社する前に会社の掃除をしてくれている。
いつもなら俺が到着した時にはすでに掃除が完了しているのだが、今日はリリが来るのが遅かったのだろう。
「昨日はソフィアと遅くまで話してたのか?」
「うん。夜中まで、盛り上がった。」
会食の後、リリはソフィアの家に泊めてもらうことになった。
女性というのは吸いこんだ空気よりも口から出る言葉の方が多い不思議な生き物である。
そういう訳で話し足りなかったというソフィアに連れられてリリは彼女の家に泊まったのだった。
「半年ぶりの再会とはいえ、何をそんなに話すことがあるんだか。」
「そりゃあ、アベルのわ……いいところとかね。」
「今、悪口って言おうとしなかったか?」
俺は来客用のソファーに腰かけたソフィアを軽く睨みつける。
リリと一緒に来ていたのだろう。
「いやーん。アベルに悪いところなんてないわよぉ。」
俺の厳しい視線から逃れるようにソフィアが体をくねらせる。
「少ししか、ね。」
聞こえないふりをしておく。
「おはようございます。」
そこにノアもやってくる。
これでアベル・コンサルティング社の全従業員が揃ったことになる。
「さて、それでは今日からの流れについてもう一度確認するぞ。」
俺とリリ、ガルウは自分のデスクに、ノアとソフィアは客用のソファーに座っている。
大きくない建物なのでこれ以上、机を増やす余裕もない。
「俺は今までどおり風大陸を中心に商売を拡大していく。リリとガルウは俺に同行してくれ。」
「うん。」
「おう。」
リリには社長秘書という肩書、ガルウには風大陸の案内人という役割があるのも人選の理由だが、これは種族が違う3人が一緒に行動しているのを人々に目にしてもらい、他種族に対する心の壁を少しでも取り除きたいという目的がある。
「ノアとソフィアはリュウジン候補の調査と交渉だ。」
魔族を移住させるための新大陸を作るためには4人、新しいリュウジンが必要だと現リュウジンが言っていた。
俺は候補者のスカウトをノアとソフィアに任せるつもりでリュウジンにリストアップを頼んでいた。
世界樹を通じて候補者を教えてもらえることになっているので、ふたりには土大陸に渡ってもらう。
龍の庵に行ってもいいのだが、それには船を出してくれる人が必要で、危険な海を渡れるだけの技術を持ち、リュウジンや俺たちの計画のことを知られても問題ない人物を見つけるのは難しい。
そのため、無難に時間をかけて土大陸まで移動してもらうことにした。
「俺も本当はリュウジンの子との交渉に回りたいが、会社の運営費も稼がないといけないからな。すまないが、ノアとソフィアに一任する。頼んだぞ。」
俺個人はハザナワ商会から一般的な会社員の2倍、リード商会からも会社員並みの報酬を受け取っている。
聖王国議会の議員は無報酬だが、十分すぎる収入がある。
「任せてください!」
「アベルは頑張って私たちの給料を稼いできてね!初給料、楽しみにしているからね!」
「お前たちこそ頑張ってくれよ。候補者にいきなり『神になりませんか?』なんて聞くなよ?」
「大丈夫ですよ。ちゃんと『こんにちは。神になりませんか?』って言いますから。」
「ノア、そうじゃないんだ。」
「挨拶は、大切!」
そう言うとリリは強く頷いた。
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