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女勇者の父、ドワーフ族と交渉する

誤字報告、ブックマークありがとうございます!

皆様の反応が筆者の力になります!

5ヵ月前。


7月に訪れて以来なので4ヵ月ぶりのドワーフ王国。

時間にすればそれほど経っていないが、その間の出来事があまりに濃すぎて久しぶりに来たという気持ちになる。

ここで生まれ育ったリリなら尚更だろう。

感情の起伏が少ない彼女だが、心なしか嬉しそうに見える。


リリはトレードマークのピンク色の髪で作った2つのおだんごを今日は下ろし、後ろでひとつに束ねている。

いつも身に着けていた簡易な鎧ではなく、白いシャツと事務用のジャケット、スカートという装いの彼女の肩書は俺の秘書だ。

ここドワーフ王国で王女ププの従者として教育を受けているので事務的な能力も高い。

また、必要があればボディーガードも兼務してくれる。

俺より強いからな、この子。


ゾゾゾゾゾゾ王との謁見まで時間がかかるということで応接室のような場所で待たされている。

ドワーフ王国に渡り、謁見を申し込んで2日後にはこうして会ってもらえるのは王宮で育ち、第一王女の従者をしていたリリのおかげだろうか。

俺の右隣に秘書のリリが、左側にはガルウが窮屈そうに座っている。


銀色の髪の獣人、ガルウもアベル・コンサルティング社の社員である。

丸太のような腕と分厚い胸板を持ち、身長の高い彼のために特注したスーツを着ている、というよりスーツに()()()()()()といった感じだ。


「このスーツってやつはどうも着慣れんのう。なんでこんなに動きにくい造りをしているんじゃ。」


ガルウは獣人族に特有の獣化という肉体強化法を行う際に体がひと回り大きくなることを考慮して普段はダボっとした服を着ている。

だから余計にこういう体の線に合わせた服を着るのが窮屈なのだろう。


「そりゃあ、お前みたいな奴がちょろちょろ動き回らないようにするためじゃないか?」


「品のいい、拘束具。」


「ぐぬぬ。アベルは社長じゃからまあいいが、リリに馬鹿にされるいわれはないぞ!お前も俺と同じ従業員のひとりじゃろ!」


「残念。秘書は、社長と、一心同体。秘書の言葉は、社長の発言も、同然。」


「なんじゃと!そうだったのか!」


そんなことはないと思うが面白いからそのままにしておこう。

初めてドワーフ族の王宮に来たガルウも場に慣れてきたところで遣いの者が俺たちを呼びにくる。


「謁見の準備ができました。こちらにお越しください。」


その遣いの者は、ドワーフ族なので身長が130センチメートルくらいだが、顔は50歳前後だろうか。

立派な髭を蓄えているが、それが十分に似合う風格がある。

俺たちを呼びにこさせられるような下っ端には見えないのだが。




謁見の間にはゾゾゾゾゾゾ王が玉座に座って待っていた。

他に公務があるのか、第一王女のププの姿はないことを確認してリリは肩を落としている。

しかし、土大陸にはしばらく滞在するつもりなので、あの太陽のように明るいオレンジ色をした髪の王女様なら向こうからリリに会いにきてくれるだろう。


「久しいな、アベルよ。」


「この度はお忙しい中、ワタクシ共のためにお時間を頂戴し、誠にありがとうございます。」


「ノアとソフィアの姿が見えんが、リュウジンには無事に会えたのか?」


俺たちにリュウジンの存在を教え、土大陸で世界樹を探すように言ったのはこのゾゾゾゾゾゾ王だった。

俺は火大陸を出てからのことを包み隠さず話すため、ゾゾゾゾゾゾ王に人払いを頼む。


「そなたの事情は理解しておる。ここにおるのはそなたの話を聞いても問題のない者、私の側近中の側近のみだ。」


なるほど、だから俺たちを呼びにきた使いの者までやたら風格があったのか。


「お心遣い、痛み入ります。」


俺はドワーフ族の王に頭を下げ、今度こそ土大陸を出てからのことを一部始終説明する。

土大陸で世界樹を見つけたこと。

リュウジンに会いに行く直前で、ノアとソフィアが聖大陸に連れ戻されたこと。

内海の中心にある『龍の庵』に行きリュウジンに会ったこと。

リリが『リュウジンの子』と呼ばれる存在であること。

この世界の成り立ちと、勇者と魔王が神々のゲームの駒であること。

そして、そのゲームを台無しにするべく俺が動いていること。


「それでそなたは私に、このドワーフ王国に何を求めるつもりだ?」


理解が追い付かないとばかりにざわつく家臣たちを尻目に、ゾゾゾゾゾゾ王は静かに俺に問いかける。


「ドワーフ族の職人をお借りしたいのです。」


「ふむ、どういうことだ?」


「ドワーフ族には多くの腕のよい職人がいます。この火大陸の住人の大半がそれに当てはまると言っても過言ではない。街では一般家庭からも鍛冶の音が聞こえてくるほどです。しかし、それにより職人が供給過多になり、ドワーフ族の優れた技術力が国内で安く買い叩かれている状況になっているのではないでしょうか。この状態が続けば、いずれは実入りが悪い職業として鍛冶職人が不人気となり、後継者が不足してくる可能性すらあります。」


「確かにそういう問題は話題に上がることがある。」


「国内に職人が溢れているのは他大陸で仕事を探すことが難しいと感じているからではないでしょうか。金銭面での折り合いだったり、いざ他の大陸に出てみたものの仕事が見つからなかったらどうしようという不安だったり。そういう方のために、私が先に働き口を見つけて参ります。ドワーフ族の職人の方々は条件を見てから仕事を受けるか決めていただければいいのです。」


「興味深い話だ。だが、それがどのようにそなたの目的につながるのだ?」


「ドワーフ族の職人の他大陸への紹介を皮切りに、大陸間の交流を加速させます。そして、種族間の相互理解を深め、この世界で起こっている問題に対して全ての大陸、種族が一緒に考えるような世の中を作ります。最終的には各大陸の代表者を集めた国際組織を作り、魔大陸の問題の解決に当たります。国際組織の初代のリーダーには魔大陸の傲慢の国の王子、つまり魔王を推薦しようと思っています。」


それだけのことを成すためには俺自身が権力を持たないとならない。

今はそのための準備中という訳だ。


「なかなか大風呂敷を広げたものだな。まあ、そなたの計画がどこまで成功するか見てみたいというのもあるし、途中で頓挫してもドワーフ族の職人の働き口だけでも見つけてもらえれば我々には何の損もない。うむ、協力しよう。いや、ドワーフ族の未来のために、協力させていただこう。」


「ありがとうございます!」


俺はドワーフ族の王に対し、可能な限り深く頭を下げた。




それから数週間、俺たちはドワーフ王国の首都テテに滞在し、他大陸に派遣できる職人のリストを作ったり、派遣先に用意してほしいものについて確認したりした。

ドワーフ王国側には俺の方から職人としてだけでなく、指導者として派遣先の従業員を教育できるような者の選定をお願いした。

腕のいい職人を恒常的に雇うよりも、一時的に指導者として雇いたいという懐事情の会社も多いと考えたからだ。

ドワーフ王国側はゾゾゾゾゾゾ王の肝入りの事業として俺たちに対して非常に協力的だった。


ドワーフの職人の中で指導者候補の者には手先が器用でない獣人族の見本としてガルウが細かい作業をするところを見てもらったが、あまりの惨状に驚愕していた。

俺も「ガルウが特別に不器用なだけですから」と慌てて取り繕ったが、ちょっと不安になった。

いや、先にガルウがどれくらい細かい作業が苦手か把握していなかった俺のミスなのだが。


リリは無事にププ王女に会うことができた。

俺は数日間の休暇を与え、ドワーフ王国側が許可するならププ王女と行動を共にしていいと伝えたが「公私混同は、よくない」と断られた。

仕方がないので「これからお世話になるドワーフ王国のププ王女の接待だ」と仕事として一緒にいるように言うと、少し迷ったあとに「ありがとう」と頷いた。


予定の作業をすべて終了した俺たちは数人のドワーフ族の職人を連れて聖大陸へと戻るための船に乗る。

職人には聖大陸で鉄の加工について学んでもらう。

火大陸では鉄鉱石がほとんど獲れないため、ドワーフ族は鉄の加工には慣れていないところがある。

しかし、他の大陸では鉄製品が至る所に利用されているので鉄の加工は避けて通れない。

なので、指導的な立場の親方衆に鉄の加工技術を勉強してもらって、火大陸でさらに他の職人に伝播してもらうのが目的である。


ちなみに、聖大陸と火大陸を行き来しているこの船は聖大陸の港を本拠地とする海運会社の物だが、この会社はすでにハザナワ商会の子会社になっている。

あいつら本当に仕事が早いな。

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