女勇者の父、提案する
「アベルよ。もう一度、言ってくれるか?」
リュウジンは愉快そうに俺を見つめてそう言った。
「はい、リュウジン様。魔族を移住させるための新しい大陸を作りましょうと申しました。」
これまでの話から俺はこの世界の土台にはまだ十分なスペースがあり、海を広げて新たに大陸を作る余裕があると考えた。
「なるほど、先ほどのガルウとのやり取りにあった『既存の大陸には魔族を丸ごと受け入れる余裕がない』という点はそれで解決しよう。だが、移住にかかる費用はどうする?」
リュウジンの質問を受けた俺はカッツォーの顔を見る。
俺の方を見ていたカッツォーなぜ自分が俺に見られているか分からないという表情をしている。
俺は軽くカッツォーに笑いかけてから再びリュウジンに向き直す。
「カッツォーの妻が経営するハザナワ商会に立て替えてもらいます。」
「え!?」
驚いたとばかりに声を出したのはリュウジンでなくカッツォーだ。
「ちょっと、ちょっと!ウチのハニーは面倒見がよさそうに見えても、財布の紐は固いよ?縁もゆかりも、お金もない人のために船を出すとは思えないけどなあ。」
「いいや、敏腕経営者なら必ず乗ってくるはずだ。」
「ほう、そのこころは?」
リュウジンも話に乗ってくる。
「移民に協力してもらったハザナワ商会には新大陸で優先的に商売をする権利を与えます。」
商売をするときには大抵の場合、何らかの許可が必要になる。
許可を得る相手は商売人同士の組織だったり、役所だったりする。
理由のひとつは粗悪品の流通を防ぎ、消費者を守るため。
もうひとつは先に商売を始めていた者たちの既得権を守るためである。
そういった許可の一切をハザナワ商会に与える。
しかも、これから開拓していく新大陸で、だ。
結果として莫大な利益を生み、数年もかからずに移民のための費用は取り戻せるだろう。
立て替えてもらった分はそれでペイできるはずだ。
もちろん、協力してくれる魔族や他種族の商人がいれば同様の権利を与えるつもりである。
「なるほど。それなら資金の問題も解決できそうだ。しかし、アベルよ。お前が最初に指摘した問題がまだ残っているぞ?」
それは、人は簡単に国を捨てられないという点だろう。
「私は確かに人は簡単には国を捨てられないと言いました。しかし、国を離れるだけの理由があればいいのです。それも前向きな。」
「ならばお前はどんな理由を作ろうというのだ?」
「魔王に新大陸を発見させます。」
俺の考えはこうだ。
リュウジンが作った新しい大陸の情報を持って俺が魔大陸の傲慢の国に行く。
そして、魔王を連れて新大陸を発見する。
そうすれば不毛の地と化した魔大陸に住む魔族にとって、新大陸は魔王によって発見された希望の大地となる。
そこを開拓するという目的があり、渡航費用をすべて負担してもらえるとなれば移民を希望する者も少なくないはずだ。
第一陣の移民が成功すれば、噂が噂を呼んで移民を希望する者は芋づる式に増えるだろう。
「なかなか面白い案だ。」
リュウジンが口元を緩める。
「しかし、少なくとも2つほど穴がある。」
俺もひとつは分かっている。
「まずは俺が魔王を説得して一緒に海に出るということですね。」
どこの馬の骨とも分からない人族の男が、魔族の王子と接触し、船旅に出るという点がかなり厳しい。
そこはこれから練らなくてはならない。
「もう1点はなんでしょうか?」
「残念だが、私ひとりの力では大陸を作ることはできない。」
まいった。
考えが甘かった。
さすがにその可能性は考慮していなかった。
リュウジンはこの世界のことならなんでもできる気でいた。
「創造主から与えられたこの世界を管理するための能力には、海をさらに広げ、大陸を作るまでの力は含まれていない。」
そう言っているリュウジンの顔はしかし楽しそうである。
その表情はこの案にはまだ可能性が残っていると伝えているように見える。
「今、『ひとりの力では』って、言った。」
言葉の裏の意図に気付いたのはリリだった。
「うむ。私ひとりでは8年後までに海を広げ、人が住めるような環境を整えた大陸を作るのは不可能だ。しかし、リュウジンはひとりである必要はない。世界各地には私の能力を持つことができる『リュウジンの子』が数多く存在する。」
ピンク色の髪で2つのおだんごを作っているドワーフ族の少女、リリもそのひとりだ。
「そうだな。リュウジンの子が4人もいれば神々のゲームが開始されるまでにアベルの望む新大陸を作ることができよう。もちろん、その者にはリュウジンとなってもらう必要があるがな。」
リリは先ほどリュウジンになることを断ったばかりだ。
しかし、世界中にリュウジンの子がいるというなら、その中には神になりたいという者だって何人かはいるだろう。
4人であればリリを除いても十分に集められる気がする。
「ところで、質問なんじゃが。」
ガルウが口を開く。
「それだけの力があるんじゃったら、新しい大陸なんて作らんでも魔大陸の自然を元に戻してやればいいじゃなかろうか?」
「それは魔族への直接の干渉となり、私の権限を逸脱してしまうのだ。この世界でゲームを行っている神々が世界に直接手を出せないのと同じように、私もすでに存在している生物に対して大きな影響を与えるような変化は起こせないのだ。」
「そうなんか。なかなか難しいんじゃのう。」
「だから、アベルの提案はこの制約を理解していたのかは分からないがいいところを突いている。世界を広げて大陸を作るというのは行為だけでいえばこの世界の生物に直接的な影響を与えないからな。」
その目的はどうであれだ。
もちろん、俺はリュウジンの力への制約など気付いてはいなかったが。
「大陸を作るという案自体は悪くないと思うぞ。」
リュウジンから俺の案への太鼓判が押される。
「ということは、やはりいちばんの問題は俺がどうやって魔族の王子に取り入るかですね。」
最後まで読んでいただきありがとうございました!
筆者的には序盤からタイトルが詐欺だなーと思ってましたが、ここにきて顕著化してきました。
タイトル詐欺じゃないか!とがっかりしている方はすみません。
謝れと言われればいくらでも謝らせていただきます。
できれば最後までお付き合いいただければ嬉しいです。




