女勇者の父、魔王について知る
リュウジンの子についての話もひと段落ついたので、再び勇者と魔王に話題を戻そう。
「それでは、また勇者と魔王について話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「うむ、よかろう。」
リュウジンの許可も下りたので今度は魔王について尋ねてみる。
「今回の魔王について、知っていることを教えてください。」
「まず年齢だが、確か今年で142歳だったな。アベル、お主の娘が15歳になるのと同じ日に150歳になるはずだ。魔族は成長が人族の10倍遅い。150歳で成人となる。」
魔族の成長が10倍遅いという言葉のとおり、人族の成人は15歳だ。
「勇者であるルナが15歳になるのと同時に150歳になるというのは偶然ではないのでしょうね。」
「そのとおりだ。魔王の誕生日に合わせて勇者が選ばれたのだ。お互いに成人となる日をゲームの始まりにしようという神々の思惑でな。」
本当に神どもはロクなことを考えねえな。
「では、娘は同じ日に生まれた人族のたくさんの子供の中からたまたま勇者に選ばれたということなのでしょうか?」
「誕生日を同じくする子供たちの中で最も資質が高かったというのが正しいな。しかも、飛び切りの才能を持っているようだ。神々が生まれてくる子供の才能に手を加えることは不可能だから、これは神にとっても誤算だったろうな。」
だとすれば、勇者側の神にとっては嬉しい誤算だったろう。
「神々のゲームは、勇者と魔王が成人したタイミングで開始されるということでしたが、それまではどのようなルールで準備されるのですか?」
「勇者側は勇者が生まれたタイミングから魔王に対抗するための準備が始まる。実際にはその数年前から神は今回の駒候補に語りかけ、予言により利益を与え、信頼を得た上で自分の意のままに操れる状態にしておく。魔王側も同様だ。魔王が生まれたタイミングで動き出している。」
「それでは約150年も魔王側が先に準備を始めているということですか!?」
「それはちとずるいんじゃないかのう。」
俺とガルウが文句を言う。
「前回のゲームの勝者が勇者側だったので、今回はそういうハンデがついたようだな。」
俺たちにとっては生涯一度だけの戦いでも、神にとっては何回もあるゲームのほんの1回分ということか。
この重みの違いに腹が立つ。
「次に魔王の居場所だが、魔大陸にある7つの国のひとつ『傲慢』の王城に住んでいる。つまり、傲慢の国の王子だ。」
「庶民丸出しのウチの娘と違って、血統からして魔王になるべくしてなったって感じだな。これもハンデの一環ですか?」
「そうであろうな。魔王側の神は、魔王の候補を自由に選べたと考えて間違いあるまい。その上で、才能があるのはもちろんのこと、人族を攻めるのに理由を作りやすい国の者を選んだのであろう。」
「傲慢の国は人族を攻める理由が作りやすいというのはどういうことですか?」
人族の住む聖大陸はひとつの国家で成り立っており、そこに住む一般的な市民である俺には魔大陸の各国の事情がよく分からない。
「傲慢の国は魔族至上主義、魔族絶対主義とでもいうような偏った考えの者が多くてな。魔族は他種族よりも優れており、魔族こそが世界を統べるべきと考えている者も少なくない。それでも、前回の神々のゲームで魔王が勇者に負けたので魔大陸に引きこもって大人しくはしておるがのう。」
「確かに魔大陸は国によって雰囲気が全然違うよね。」
水大陸から魔大陸を経由して土大陸まで移住してきたカッツォーが呟く。
「いくつかの港に寄ったことがあるけど、リュウジン様の話にあったように傲慢の国は僕たち海人族を見下した感じだったし、でも同じ魔大陸でも国によっては暖かく迎えてくれるところもある。」
ひとつの大陸の中にいくつもの国があり、考え方が大きく違うというのは聖大陸育ちの俺は、感情的には理解しにくい話だ。
頭の中では国が違えば考え方も変わるだろうと思うところもあるのだが。
しかし、大陸の中で一枚岩になっていないというのは俺にとっては朗報だ。
「ということは、魔王が率いるのは傲慢の国の戦力だけと見ていいのでしょうか?」
「残念ながら、神の性格はそれほど甘くはない。」
リュウジンの言葉に心の中で舌打ちする。
「神は魔大陸の意志を魔王の下で統一するために魔大陸の自然環境を壊滅的に破壊した。いや、自分の駒を使って破壊させたのだ。」
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