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女勇者の父、懇親会に参加する

今回から1話当たりの文字数を2倍程度に増やしました。

入学式の後、立食パーティーのようなものがあった。

入学する子供たちはすでに教室を割り振られ、そちらでオリエンテーションを行っているらしく、保護者同士の親睦を深めることが目的のようだ。

とは言ってもすでに着飾った貴族同士が顔見知りと挨拶しているか、俺たちのように特待生の親と思われる精一杯小綺麗な服を着ていきましたという庶民風の人間が夫婦揃って端の方で食べなれない高級な料理に舌鼓を打っているかという感じではあったが。


ちなみに娘のルナは勇者ということを隠し、リーダーとして優れた才能があり特待生として招き入れたということになっている。

6歳の子供のどこにリーダーの資質など感じられるものかと苦笑したくもなるが、勇者だなどと言えば大騒ぎになるだろうし仕方ない。

その辺りも全て王国騎士団長のケビンが動いてくれたようだ。

1年前にも家までケビンが来てくれて入学までの準備や入学後の流れ、王立学校に入ったあとのルナの肩書についても教えてくれた。

剣よりもペンの方が得意そうだなとからかうと騎士団長になってからはデスクワークが増え剣を握ることが減っており、副団長の方がよかったと遠い目をされた。

言われてみれば濃い茶色の髪に白髪が目立ってきたような気もする。


娘が3歳になった時と去年、ケビンが我が家を訪れた時は王宮のものではなく普通の馬車できた。

町でも娘が勇者だなどと騒ぎにならないように気を遣ってくれたのだろう。

トマス町長以外では町に娘が勇者だと知っている者はいなかった。

俺たちも言おうとは思わなかったし、トマス町長もケビンに釘を刺されていたようだ。

最初に来た時は物珍しい高級な馬車に野次馬もいたが、トマス町長に用事があったついでに近所に生まれた子供がいるということで祝いがてら見に来たと誤魔化していた。


ということで娘は勇者であることを隠し、動物にやたら好かれて、髪と瞳が金色の可愛らしいだけの普通の女の子として育った。

あとたまに喧嘩で年上の男の子を泣かすことがあったり、その時の怪我やたんこぶをルナが撫でると治ったりという不思議現象があったらしいが、子供の言うことと大人たちが取り合わなかったことは幸いだった。

うん、よく隠し通せたな。


ケビンと会ったのは3回だけだが、思い返せば色々とよくしてもらった。

入学式に来賓として参加し、このパーティーでも代わる代わる貴族たちに囲まれているケビンを見てその立場の高さを実感する。

心の中で感謝していると、そのケビンと目が合う。

ケビンは貴族たちに申し訳なさそうな顔で軽く会釈すると俺の方に近寄ってくる。


「いやあ、助かった。こういう場は取り入ろうとする貴族に囲まれてしまって窮屈でな。アベル殿がいたおかげで言い訳ができた。」


俺も王宮の序列には詳しくないが、騎士団長と言えば王族を除けば五指に入る権力者だろう。

騎士団という武力を支配していると考えれば逆らえるものなどそうはいないはずだし、であれば取り入りたいと思う者も多いだろう。


「ルナ殿も立派になられて。おふたりも鼻が高かろう。」


そう言うとケビンは豪快に笑う。

貴族との会話ではそんな風に笑うことがなかったためか、周囲から羨望の眼差しと嫉妬にも似た視線が俺とアンジェリカに集まる。


「ケビンさん。これから娘が世話になる。よろしく頼む。」


「うむ、なるべく目を光らせるようにはするつもりだ。安心してくれ。」


ケビンの言葉に俺とアンジェリカは頭を下げる。


「しかし、ルナ殿が寮に入ってしまうと夫婦ふたりとはいえ家の中も寂しくなるであろうな。」


「ああ、それなんだが。俺はこれから旅に出ようと思う。」


「旅?」


「娘だけに厳しい戦いを、辛い思いをさせたくないからな。俺ができる限りの露払いをしておこうと思う。」


さすがに娘の代わりに魔王を倒すなどとは言えないのでこういう伝え方になった。


毎年、王宮から娘の教育の援助として庶民には十分すぎる金額を受け取っていた。

なるべく娘が不自由なく成長できるよう心掛けたつもりだが、それでも随分余っている。

アンジェリカが数年はひとりで暮らせる分くらいはあるだろう。


「奥方はそれで大丈夫なのか?」


「はい、主人とは何度も話しました。無理はしない……絶対に生きて帰ることを約束に旅に出ることを許可しました。」


「ふむ。アベル殿はそういった旅の経験はあるのか?」


「15歳で実家を勘当同然に追い出されてから1年ほど冒険者をしていた。その後、アンジェリカと結婚するのに辞めて今の街に定住するようになったが新人としてはまずまずの成績だったと思う。まあ、独り身の当時とはだいぶ勝手が違うから、以前のように強気にできるとは思っていないけどな。」


冒険者というのはギルドと呼ばれる便利屋派遣組織に登録し、活動している人間の総称だ。

仕事の内容は人やペット探しや、装飾品や薬の材料となる魔物を退治して必要な部位を取ってくること、旅人の護衛など多岐に渡る。

アンジェリカを家に残す以上、多くの資金を持っていける訳ではないので今回の旅では路銀をギルドで稼ぐことになるだろう。

だが、実家を追い出されて自暴自棄気味に難しい依頼を受けては挑戦していた当時とは違い、何があっても無事で帰るという気持ちは強い。


「私にも娘がいるから気持ちは分かる。しかし、決して無理はするではないぞ。お前には妻と娘がいる。そして、間違いなくこの学校を卒業する15歳になればルナ殿はお前よりも遥かに強くなる。お前が必死に取り除いたつもりの危険すら、ルナ殿にとってはなんの害もないということも十分にあり得るのだ。」


ケビンの言葉に俺は黙って頷く。


「まあ、旅の選別にこれをやろう」


そう言うとケビンは小さなメダルを俺に手渡す。


「メダルに描かれているのは我がコックス家の紋章だ。これからアベルはコックス家の客人として扱わせてもらう。これがあれば国内であればある程度の融通が利く。国外でもある程度までならそこまでひどい扱いはされないだろう。」


「ケビンさん、何から何まですまない。」


「先ほども言ったが娘を想う父親の気持ちは分かるのでな。私だって自分の娘がルナ殿と同じ立場だったら同じことをしただろうからな。」


「俺にも騎士団長殿くらいの実力があればよかったのだがな。」


「アベルのこれからの旅は単純な力だけでなく、頭脳や気持ちを試されることも多かろう。そのような弱気ではいかん。かと言って自信過剰はもっとよくないがな。」


前途有望な若者を見ると説教をしたくなるとは私も老いたものだなと笑うとケビンは俺たちのようにホールの端で居心地が悪そうにしている夫婦の方に向かって行った。

ケビンがその人たちと話を始めるまで俺は頭を下げていた。

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