女勇者の父、リュウジンに会う
「ここは……?」
数秒後、ドアから放たれた光に一時的に視力を奪われたのがようやく回復した俺は周囲を見渡す。
そこは真っ白な床がどこまでも広がっており、壁も天井も見えなかった。
太陽はないが晴れた日の屋外くらいに明るい。
しかし、ここが屋外なのか、とてつもなく大きな部屋なのかは分からない。
少なくとも先ほどまでいた小さな島とは全く別の場所に見える。
扉を開けようとしてここにたどり着いたということは、ここが龍の庵なのか。
これもまたリュウジンの、神の不思議な力のひとつなのだろうか。
「おかしな場所じゃな。」
警戒するガルウの言葉に促されるようにリリとカッツォーも視線を動かす。
「ここにリュウジンがいるのか?」
「私ならここにいる。」
俺の言葉に呼応するように突如、目の前に椅子に座った男が現れる。
男と判断したのは声が低かったからで、その顔はトカゲを縦長にしたような見た目で、頭頂部に近い位置から2本の角が生えている。
瞳は黄色く、縦長の瞳孔はどこまでも深い闇を思わせるような漆黒をしていた。
つまり、彼の顔は物語に登場するドラゴンそのものだった。
ただし、物語の中の巨大なドラゴンとは異なり、身長(体長?)は俺より少し小さいくらいで165センチメートルくらいだろうか。
腕や脚などは人間と同じような体つきをしており、ただし、肌は鱗に覆われている。
翼は、少なくとも見える範囲には、なさそうだ。
ゆったりとした臙脂色の服を着て、玉座を思わせる立派な椅子に座っている。
「あなたがリュウジン……ですか?」
いきなり色々なことが起こりすぎて逆に俺は落ち着くことができた。
頭の中で処理できないことが重なりすぎると意外と冷静になれる性質らしい。
「そうだ。私がリュウジンだ。客人よ、おそらく長い話になる。まずは座るがよい。」
リュウジンがそう言うとリュウジンの前に臙脂色のテーブルクロスがかけられた円卓と、俺たちの人数に合わせたのだろう4つの椅子が現れる。
リュウジンの座る玉座と合わせた5つの椅子が円卓を囲むように等間隔に並ぶ。
リュウジンを挟むように俺とリリが、俺の隣にカッツォー、リリの隣にガルウが座る。
「こんな広い空間にテーブルと椅子だけポツンとあると落ち着かんのう。」
ガルウが白い床が広がるばかりで天井も壁も見えないこの空間を見回しながら呟く。
「そうか。それは気付かなかった。」
その瞬間、俺たちを囲むように真っ白な壁が現れ、天井が出来る。
無限に広がっているように見えた空間が、1辺が10メートルほどの六角柱の形をした部屋に変わった。
天井に明かりはないし、窓もないが明るさは変わらずだ。
「窓があった方がよいかな?」
10メートル四方の正方形の6つの壁にそれぞれ幅5メートル、高さ2メートルくらいの窓が作られる。
それぞれの窓からは海に浮かぶ島々と海人族、畑や果樹園と獣人族、人族の街、赤茶色の大地に立つドワーフ族、森の中のエルフ族、そして魔族の街と思われる景色が見える。
わざわざ世界各地の様子を見せてくれているのだろう。
窓の横にはやはり臙脂色のカーテンが束ねられている。
リュウジンは臙脂色が好きなのだろうか。
「あとは飲み物か。」
リュウジンがそう言うと、今度は俺たちの前に白みがかった透明の液体が入ったグラスが現れる。
もはやいちいち驚くことすら面倒くさい。
「柑橘で作ったジュースだ。気に入ってもらえるといいのだがな。」
リュウジンがグラスに口を付ける。
中の液体を一口飲み込むと旨そうに目を細める。
そういえば、島に生えた木も柑橘類だったな。
リュウジンの行動には何やらこだわりを感じる。
「うん、美味しいねえ!」
「おう、旨いのう!」
早速、ガルウとカッツォーが飲んだようで舌鼓を打つ。
ふたりの反応にリュウジンも満足げだ。
リュウジンは俺とリリが飲むのを待っているようなので俺たちもグラスに手を伸ばす。
グラスを持ち上げた瞬間、柑橘特有の甘酸っぱい匂いが鼻腔をくすぐり、思わず喉が鳴る。
嗅覚で香りを楽しみながらそのジュースをゆっくり口に運ぶ。
酸味と共に爽やかな甘さが口いっぱいに広がる。
「ああ、本当に旨いな!」
「美味しい。」
俺とリリの反応を見てリュウジンが嬉しそうに頷く。
柑橘で作ったジュースと言っていたが、リュウジンが自分で作ったのだろうか。
そんな喜び方だ。
どこからともなく同じような液体が入った瓶が現れ、ぷかぷかと浮きながら円卓を移動し、それぞれにグラスに中身を注ぐ。
どうやらおかわりもくれるようだ。
それを待ってからリュウジンが再び口を開く。
「では、話を始めようか。」
最後まで読んでいただきありがとうございます。




