女勇者の父、舟を編む(編まない)
リュウジンの住む内海の真ん中に行くための船を探していた俺たちは海人族のサザァーエさんからハザナワ商会のカッツォーという男を紹介された。
サザァーエさんの弟である彼は、ハザナワ商会に籍は置いているが普段は仕事がないらしく、しかも船の扱いはピカイチとのことだった。
さらにハザナワ商会なら空いている船もあるだろうということで、俺たちは船とカッツォーを借りるため、カッツォーとハザナワ商会土大陸支部長のハナァーコにリュウジンや龍の庵について話すことになった。
ギルドの食堂ではサザァーエさんに話さなかったリリが行けば龍の庵までの海路が開けるという件についても避けては通れず、説明をする。
とはいってもリュウジンやその子供であるリリの不思議な力については俺自身が半信半疑であるため説得力がある話をできたか分からない。
サザァーエさんとカッツォーはやはり訝しげな眼で俺を見てくる。
しかし、ハザナワ紹介土大陸支部長でカッツォーの妻であるハナァーコは違った。
「ダーリン!あの内海に行って、神様に会うなんてすごいことじゃない!私はいつかダーリンが誰にも真似できないような偉業を成し遂げると信じてたけど、きっとこれのことだったのね!」
彼女はここにいる誰よりもリュウジンと龍の庵についての話を信じているようだ。
そして、カッツォーこそが危険な内海を渡り龍の庵に行くのに相応しい人物だとすでに思い込んでいる。
それどころか、どの船がいいかしらなどすでに先を見据えて計画を立てている。
「いや、でも、ハニー……。」
ハニー!?
いや、聞き間違いだろう。
カッツォーは妻のハナァーコのように俺たちの話を信じてはいないようだ。
むしろ、それが普通だろう。
しかし、そんなカッツォーにお構いなくハナァーコはしゃべり続ける。
「いつかダーリンが大舞台で活躍すると信じて面倒を見てきたけど、その機会がなかなかないままこの年になっちゃったでしょ。間違いだったのかな、そろそろ追い出そうかな、なんて思ってたけど、やっぱり私の勘は正しかったのね!」
大げさな身振り手振りを添えて舞台女優のように振る舞うハナァーコ。
カッツォーはそんな彼女の言葉を聞いて驚愕する。
「え、ハニーってば僕のこと追い出そうと思ってたの!?」
「当たり前じゃない。何もしないだけなら害はないけど、あちこちの店で酒を飲んでツケはハザナワ商会に払わせる。ギャンブルに負けては借金を私に払わせる。こんな甲斐性なし、いつまでのもウチに置いておけないわよ。」
すかさずサザァーエさんが追い打ちをかける。
「よかったわねえ、カッツォー。アベルたちのおかげで離婚して家を追い出されずに済んだじゃない。それともまさかこの話を断って、今までお世話になったハザナワ商会土大陸支部長のハナァーコちゃんの顔に泥を塗ろうっていうのかしら?」
「ね、姉さんまで……分かったよ。行こうじゃないか、内海の中にある龍の庵とやらに!」
舞台女優顔負けのハナァーコの動きに負けじと、カッツォーも仰々しいポーズを決め、自分の胸を拳で叩く。
「ダーリン!それでこそ私が見込んだ男よ!」
やる気になったカッツォーを見て「じゃあ、決まりね」と呟いたサザァーエさんがもう一言付け加える。
「それからカッツォーへの支払いは成功報酬。必要経費があればハナァーコちゃんに渡します。あんたには帰ってくるまで一銭も持たせないからそのつもりでいなさいよ。お金渡したらろくなことに使わないでしょ?」
「そ、そんなあ……。」
こうして、俺たちはリュウジンの住む龍の庵まで行くための手段を得たのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
いつもの週末モードで短いですがご容赦ください。




