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女勇者の父、仲間との別れ

俺たちはサザァーエさんにリュウジンという存在に会うために六大陸に囲まれた海、内海ないかいの中央にある龍の庵に行きたいことを話した。


「内海ねえ。あそこは荒れた天候と岩礁で通れないはずだよ。」


「詳しいことは言えないが、それについては解決済みだ。」


リュウジンの子であるリリがいれば嵐は収まり、岩礁は道になるらしい。

神でもあるリュウジンの力なのだろうが、サザァーエさんに言っても信じてもらえるか分からないのでぼかして話す。


「ふうん。無事に帰った者がいないっていう内海を問題なく航海できるってんなら船乗り冥利につきるってもんだね。アタシが行きたいくらいだ。」


「誰か俺たちをそこまで乗せて行ってくれる人間を知らないか?」


船だけあっても動かすことはできない。

人員を含めて手配を頼まなくてはならない。

危険な海だけあって難しいとは思ったが、サザァーエさんの感触は悪くはない。


「そうだね。ひとり、当てがあるよ。ろくでもない男だけど、金さえ出せば大抵のことはやってくれる。ただし、基本的に成功報酬にしなよ。もし、前金や手付金が必要と言われたらそいつの奥さんに渡すこと。そうしないと必要経費までギャンブルでスッちまうようなダメ男だからね。」


「そんな奴に頼んで大丈夫なのか?」


「まあ、そんなんでもアタシの弟だからね。よく言って聞かせるよ。」


サザァーエさんの話によると、弟のカッツォーは婿入りしたハザナワ商会の土大陸支部で働いているらしい。

ハザナワ商会は水大陸ではやり手として有名で、手広く事業を行っているそうだ。

サザァーエさんがここエリューカの街で漁師から案内人に転職した際に、それまで培ってきた土大陸での海産物の販路を弟のいるハザナワ商会に譲渡したのをきっかけに、義妹であるハナァーコが土大陸支部を作るまでに成長させたのだとか。

ちなみにそのハナァーコが土大陸支部長を務めているらしい。


「ハザナワ商会の土大陸支部なら予備の船も持っているだろうし、カッツォーは副支部長って肩書だけど仕事はなくて昼間からブラブラしてるが、船の操縦だけならかなりのモンだよ。不真面目でギャンブル依存症だけど、一度海に出ちまえば問題ないよ。むしろ、陸の上にいない方が世のため人のためってもんだ。」


自分の弟とはいえひどい言い様である。


「それなら頼んでみるか。どうせ他に当てもないことだしな。」


「アタシが案内してやるよ。あそこの支部長、つまり私の義理の妹ね。あの子、人柄はいいんだけど根っからの商売人だからね。口利きはしてやるけど、ある程度の出費は覚悟しときなよ。」


「あ……。」


そういえばナラーシャに行くためにサザァーエさんを雇って以来、金がなかったことを思い出す。

イベルク地域の事件を解決した謝礼をムリアーテからもらっていたが、世界樹を利用させてもらったことを考慮して、差し引きでは微々たる額だった。

それでも全くないよりはずっとマシなのだが、船と人手を借りるにはいささか不安だ。


「船代は、私が、出す。これは、私にとって、大事な旅、だから。」


リリが言った。

そうだ。

今ではリュウジンに用事があるのは俺だけではなかった。

リュウジンの子と呼ばれたリリにとっては、これは自分の出生の秘密を知る旅でもあるのだ。


「それじゃあ、お言葉に甘えるかな。」


「うん、任せて。」


ちょっとカッコ悪いが、俺はハザナワ商会に払う代金は全てリリにお願いすることにした。




案内人ギルドを出たところでノアとソフィアとは別れることになる。

ノアとソフィアが俺、リリ、ガルウの順に握手を交わす。

非力なノアだが、痛いほど強く手を握られる。


「ここで聖大陸に帰るのは残念ですが……アベル、あとのことは頼みます。」


まだうっすらと痺れの残るてのひらに、ノアの無念さを感じ取る。


(そりゃあ、悔しいよな。)


「リリ、ガルウ。アベルのことよろしくね。」


今でこそ苦楽を共にした家族のようなソフィアだが、そもそもは赤の他人である俺とノアの娘のために同行し、時には危険な目に遭うこともあった。

ここまで一緒に来てくれた彼女には感謝しかない。


「また、ノアとソフィアの力が必要になるかもしれない。聖大陸に俺たちの邪魔をしようとする奴らがいるらしいから、そいつらをなんとかしておいてくれよ。」


「……分かりました。半年です。来年の4月には解決してみせますから、また王都で会いましょう。」


「そうね。この度の始まりの4月に、始まりの場所で。」


「ああ、必ず迎えに行くからな。」


3人で顔を見合わせて、強く頷く。




「サミュエル、待たせたな。」


ノアとソフィアとひと通り別れの挨拶を済ませた俺は、事の発端であるサミュエルを見る。


「いえ、力及ばずおふたりを聖大陸に連れていかなくてはならず申し訳ありません。ケビン様もご尽力くださったのですが、聖王の命令とあってはどうにもできず……。」


「それでも、裏で何が起こっているか伝えるためにわざわざお前が来てくれたんだ。感謝する。」


話の流れからすれば他の者、俺たちの旅を邪魔したい奴らの手の者がサミュエルの代わりに来る方が自然だ。

権力の中枢に近い人間であれば王国騎士団長ケビンの娘であるソフィアや、Aランク魔術師のノアの顔を知っている人間もいるだろう。

しかし、聖大陸で何が起きているか正確に伝えるため、俺たちと顔見知りであることを理由にサミュエルをケビンが派遣したのだろう。

俺たちはそのことに感謝を述べる。


「アベル殿、旅の安全を祈っています。」


「ああ、サミュエルも。ノアとソフィアを頼む。」


仲間をよろしくと、俺はサミュエルの手を握る。


「はい、必ず無事に聖大陸へ連れて帰ります。」


サミュエルもその手を強く握り返す。




こうして、俺はこの5ヵ月に渡る旅の仲間だったノアとソフィアと別れた。


今はそれぞれにやるべきことをやって……




来年の4月、また王都で会おう。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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