女勇者の父、説得する
土大陸の港町に突然現れたサミュエル。
聖大陸で王国騎士団長ケビンの補佐をしているはずの彼は告げた。
「ソフィア様、ノア殿。おふたりには聖王国への帰還命令が出ております。」
「どういうことだ?」
帰還命令とは何なのか?
誰からの命令なのか?
そして、なぜサミュエルがここにいるのか?
俺たちを待っていたのか?
だとすれば俺たちが今日、この場所に来ることをどうやって知ったのか?
いくらでも疑問が湧いてくる。
「ソフィア様とノア殿には王立学校の講師として、勇者と賢者の教育に専念していただきたいという聖王のご意向です。」
聖王というのは聖大陸の王であり、俺たち人族の王である。
サミュエルの話が本当なら、人族の王がソフィアとノアを王立学校の講師に指名したということだ。
「ちょっと、話がよく分からないのだけど。」
再会した時は懐かしさと喜びに満ちていた眼を、訝しげなものに変えたソフィアの視線がサミュエルを射抜く。
「闘気術の第一人者であるソフィア様と、最年少Aランク魔術師であるノア殿に勇者と賢者の指導をしていただき、来るべき戦いに備えるという国策です。もちろん、王立学校に通う生徒全体のレベルアップにより、国の全体の戦力底上げも兼ねております。」
「それは来年の4月からという話ですよね?」
聖王の指名、国策といわれてはなかなか断りにくい。
少なくともサミュエルは信用できる男であり、その言葉に嘘は感じられない。
ノアは断ることは諦めて、日程を学年が変わる4月であることを確かめる。
「いえ、聖王国に帰られて次第、すぐにです。」
「さすがに急な話すぎませんか?違和感しかないのですが。」
聖大陸を出て土大陸にいたノアとソフィアを捕まえて今すぐに王立学校で教鞭をとれという。
さすがに話がおかしいと思わざるを得ない。
「どうやら王宮の中で皆さんの旅を中断させたいという勢力がいるようなのです。どうして皆さんがある目的を持って旅をしているかを知ったのかも分からないのですが、権力の中枢にその勢力の中心人物が食い込んでいるようです。」
「つまり、ノアとソフィアに王立学校で講師という仕事を与えることで俺をひとりにして旅を続けられないようにしようということか。」
確かにノアとソフィアが抜けるのは精神的にも戦力的にも影響が大きい。
もし、俺たちが3人で旅をしているならかなり有効な手段と言える。
「そうです。勇者と賢者の教育と言われてはノア殿も断りにくいでしょうし、聖王の名前を出されては王立騎士団長ケビン様の娘であるソフィア様も従うしかないでしょう。」
「ですが、父親としてすべきことは娘に戦い方を教えることではなく、戦わなくてすむように平和な世界を作ることのはずです!」
珍しくノアが語気を荒げる。
「ノア、お前の気持ちは誰よりも俺が分かっている。だから、この旅は俺に任せてくれないか。さすがに娘たちがいる聖王国には逆らえないが、俺の行動は制限されていない。その代わり、ノアは娘たちを守ってやってくれ。」
「アベル……。」
「ソフィアも。俺はルナやリズ、お前たちの他の教え子たちが戦で人を傷つけることがないように戦いの芽を摘んでくる。それまでは子供たちのことを頼む。」
「アベルには、私が、ついてる。」
リリが真剣な眼差しでソフィアを見つめる。
「ワシもアベルと一緒に行くぞ!じゃから、アベルは大丈夫じゃ!ノアとソフィアは安心して聖王国に戻れ。」
ガルウが分厚い胸板を叩く。
「ガルウ、いいのか?」
ドワーフ王国の軍を辞しているリリは兎も角、ガルウは風大陸の現役軍人のはずだ。
確かについてきてくれるなら戦力としても、ムードメーカーとしてもありがたいのだが。
「なあに、獣人族は時間にルーズでのう。ワシは土大陸までどれくらいで往復できるか分からんから2年ほど休みを取っておる。じゃから何も問題ないはずじゃ。」
「そうか。それなら頼む。」
「任せろ!」
太い親指をぐいっと立てる。
「ノア、ソフィア。あとは俺を、いや、俺たちを信じてくれ。」
「あなたたちのことを信じてなかったことなんてありませんよ。」
「ただ、自分の志を道半ばで曲げるのが悔しいだけ。」
「その志はワシらが引き継ぐ。」
「あとは、任せて。」
ガルウとリリの力強い言葉に、ノアとソフィアも頷く。
それを確認して俺はサミュエルの方を見る。
「お前の話だと確かに聖大陸で船を手配するのは厳しそうだな。」
「ええ、何かしらの妨害が入る可能性が高いでしょう。」
相手は俺たちが土大陸にいることまで知っていたのだ。
俺たちの行動をある程度は把握していると考えていいだろう。
しかも、相手の中には聖大陸の権力者がいるのだ。
聖大陸で船を探したところで、先回りして妨害されることは想像に難くない。
「そうすると別ルートで船を探さないといけないな。」
いちばん話が早そうなのは火大陸に戻ってドワーフのゾゾゾゾゾゾ王に頼むことだろうか。
ドワーフ族に借りばかり作ってしまう気がするが。
「ねえ、あの人に聞いてみたらどうかしら?」
ソフィアには船を手配してくれる人物に心当たりがあるようだ。
俺たちは案内人ギルドにやって来た。
ガルウが以前、知り合った若いギルド職員を捕まえる。
「おう、ニイちゃん!久しぶりじゃのう。まあ、元気そうで何よりじゃ!」
「きょ、今日はどういったご用事でしょうか?」
ギルド職員はガルウとは目を合わさず、俺に話しかける。
「サザァーエさんと連絡を取りたいんだが。」
「ああ、彼女でしたらちょうど依頼から帰ってきてギルドに併設の食堂で食事していると思いますよ。」
タイミングが良かったようだ。
食堂はまだ昼食には早かったこともあり、ガラガラだった。
4人掛けの席にひとりで陣取り、テーブルいっぱいに料理を広げている。
「座っていいか?」
大きな口を開き、茶色いソースを塗して焼かれた巨大な肉料理と格闘しているサザァーエさんに声をかけ、返事を待たずに向かいの席に座る。
「アベルじゃないか。相変わらずいい男だね。死んだ旦那にそっくりだ。」
「そのセリフ、この前はガルウに言ってたぞ。」
「あら、そうだったかね。」
彼女にかかれば誰でもいい男で死んだ旦那にそっくりになってしまいそうだ。
俺の隣にソフィアが、隣のテーブルに残りのメンバーが腰を掛ける。
「相談があるんだが、食事が終わるのを待とうか?」
「やだよ、アタシがそんなお上品な女に見えるかい?食べながらで構わないよ。」
「助かるよ。」
「ねえ、サザァーエさん。あなた、昔は漁師をやっていたのよね?私たちなるべく早く船を手に入れたいのだけど、そういう伝手はないかしら?」
ソフィアの言っていた船を手配してくれそうな人物というのはサザァーエさんだった。
彼女は元々漁師で、水大陸と土大陸を往復していたと言っていた。
確かにそんな彼女なら早急に船を手に入れる方法を教えてくれるかもしれない。
「何やら面白そうな匂いがするね。ちょっと話を聞かせてもらおうか。」
肉を飲み込むと口の周りをペロリと舌で舐め、サザァーエさんは楽しそうに笑った。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
初回投稿5月8日から今日で2ヵ月!
ここまで続けてこられたのも読んでくださる皆様のおかげです。
実力不足で書きたいことが上手く表現できずに悔しい思いをする毎日ですが、
皆様に完結までお付き合いいただけるよう日々精進したいと思います。
これからもアベルたちのことを応援いただけますようよろしくお願いします!




